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20…意外と簡単な問題に引っかかりやすいもんで




 がむしゃらに走り出す私の視界はぼやけていて、きっと醜い顔をしているのだろう。それさえも気に病まない程、私は夢中だった。

 まっすぐ突き進んでは角を曲がって、先生たちを交わして目的地に進んでいく。目的地に着けば息は上がっていて目の前に居る男性はコーヒーを注ぐと優しい声でこう言った。




「一杯どうだい?お嬢ちゃん」





                         ◆




 白いカーテンから見える緑は綺麗でコーヒーの味もとてもよくて、少しだけ平常心が戻ってきたような気がした。

 私はあがり症だ。怒ってる途中になにを言ってるのか分からなくなっちゃって顔が赤くなったり、怖くて泣いちゃうことがある。

それは時に人を不愉快にするようなもので、よく拳でも握りしめたりしていた…でも今は違う。



それさえもできなかった。



 たかが意見が食い違っただけなのに。どうしてこんなに冷静に対処できないんだろう。

自分でも分からないや…なのに嫌で…我慢が出来なくて…。




「ッ…」




「可愛い顔が台無しじゃねぇーか」




そう言って涙を指で掬ってくれる彼に私は赤子のように縋り付いた。

 嫌だった。もう考えるのも嫌で、ただこの優しさに溺れたかったのかもしれない。

 泣きじゃくる私の背中を軽く撫でてくる大きな手。それがとても心地よくて。顔を隠す私に上からふってくる優しい言葉。




「涙が引っ込むまでこうしといてやるから、たくさん泣いてしまえ」




「うっぐ…せんぜ…ぃの卑怯…もの…ぉ…うぅ」




 そのすべてが今の私には甘美なものだったのかもしれない。

ずるい言葉も、優しい言葉も、そうやって穏やかな顔をするから…私のネジは緩んでしまう。あぁ、やっぱおっさんは卑怯だわ…あとイイ匂いしますね。

 


 暫くすると涙は収まっていて、代わりに瞼が熱くなっていた。

あ、明日学校行けるかなーなんて思っていたら冷たいタオルが差し出されていて、実にありがたい。ほんと先生ってば乙女心分かってらっしゃる。男泣きは腫れていていいと思うよ。特に甲子園で負けたりとか、片思いで告白してフラれて悔し涙もそそりますよ。




「大丈夫か?」




「えぇ、なんとか…大丈夫になりそうでs「それじゃあ大丈夫じゃないってことか」…はい」




苦笑しながら目の前の椅子に座り込むマセおっさんがカッコよく見えてしまった。いや元からかっこいいんだけどね。




「別に言わなくていいさ、おっさんが勝手に口出すもんじゃねぇーからな」




「そ、そんな…えと、あの…聞いてもらってもいいですか?」




「どうぞ」




 そこからさっきまでの出来事をなるべく簡単に分かりやすく伝えると、マセおっさんは少しだけ髭を弄ると私の方に目線を戻す。




「嫌いか?そんなに人を見た目で判断されるのは」




「当たり前ですよ!だって…知りもしないくせに勝手に決めつけるなんて…差別じゃないですか…」




 偏見な目で見てくる人も、差別する人も、嫌で嫌でしょうがない。

もしそれでも気にしない人はすごい人だ。心が強い人だ。でも、私は違うから。弱いから逃げ出して『乙女ゲーム』にはまったんだ。弱いから『リアル』から逃げ出したんだ。

みんな顔で決めて、勝手に性格とかなんやら決めつけちゃって、私を孤立させようとしてる。でも弱い私はなにもできないから…ずっと大人しく過ごさないといけないんだ。だから私はああいう人が嫌いなんだ。




「玄條の言いたいことは分かるか?」




学校の為(・・・・)…ですよね」




「…なら、玄條の言葉を理解できるか?」




「それは…」




思考が掻き乱されるような感じがして頭を抱える私に、コーヒーを啜る音が聞こえた。




「分かっていても理解はできない。それはお嬢ちゃんが理解しようとしないからじゃないかな?」




「っ…それとなんの関係があるんですか…!?」




「まぁ、お嬢ちゃんの怒る気持ちもわかるさ。確かに玄條(アイツ)も言い過ぎなところがあるしな。けどな、お嬢ちゃんも言い過ぎなところがあるんじゃないのか?」




先生はまた一口飲み込む。




「どういうこと…ですか?」




「お嬢ちゃんは言ったよな。『知りもしないくせに勝手に決めつける』って…それはお嬢ちゃんもそうじゃないか?玄條のことを知ろうとしたか?いいや――お嬢ちゃんは玄條のことが分からないから知ろうとせず怒ったんだろ」




「つまり…お嬢ちゃんも玄條と同じなんだよ。感情をぶつけたかっただけなのさ」




 先生の一言にぐるぐると思考を遮るものがはじけ飛んだ。

 そうだ。その通りだ。私はただただ、この感情をぶつけたかった。分かってほしかった。学校を大事にする彼と違って。

彼にもなにか事情(・・)があるかもしれないのに――…え?




「いいかい、本当にわかったというのは変わった(かわった)ということさ。用は――



行動が変わらないと、本当に分かったことにはならない…ってな」




 軽く頭を撫でる先生に私は口を噤んだ。話す理由も言葉も見つからなかった。でも理解できた。分かった。私がなにをしなきゃいけないのかを。

分からないなら本人が納得させるようなことをすればいい、彼のことを知ればいい。その為には行動しなきゃいけないってことを。




 薄く笑う先生に私も笑って見せる。

――あぁ、やっぱり先生は卑怯だ。






こんなに悩んでいたのに、簡単に解いちゃったんだもん。










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