19…風紀委員なんて大っ嫌い!!
経験値が足りないって悲しい。
美しい玲花先生の頼み事をさっさと片付けようと応接室までに行ったのはよかったんだ。だけどさ、やっぱりさ。扉を目の前にすると緊張するというか通行人からの視線が痛くて耐え切れませんでした。ダメだねーこんな子になっちゃダメだねー。
きっとレベルとか経験値が足りなかったんだよ。身の危険っていうヤツ?そんな感じ…と言っても今日中に出さないと迷惑かけるよね。玲花先生困るよね。あぁ…何故私はこんな時のために友達を作ってこなかったんだ!!主人公ちゃん用事があるからって帰っちゃったし。錬城は問題外だし。
一人で未知の教室に行くのは正直怖いんですからね。そこだけは覚えておいてよ。
「(放課後だし…流石に人数は少ないか)…」
ゆっくりとした足取りでいくもののやっぱり着いちゃうものは仕方がなくて。深い深呼吸を繰り返して気持ちを整えてから扉をノックする。
入社試験の時もこんなことあったような気がするが、なんとなく昔のように思えてくる。まだ新社会人なのに…。
そんなことを考えていれば威圧のある声が聞こえた。声的に男性の声だが少し若いような。もしかして先生じゃないのか…?いやいや、こんなP●Aみたいな資料を渡さなきゃいけない相手が先生以外の人とか可笑しくない?いや、もしかしたらその人が代理人とかそういうので――
「用がないなら早く出てってください」
「え、ぁ!あります!!ありますから…!」
怒りに触れたのか少しトーンが下がった声が扉の奥から聞こえて、慌てて謝ろうと中に入ると私は息をのんでしまった。
「遅いです、それでも日本人ですか?」
艶のある黒い髪から覗き込む黒縁眼鏡に、少しだけ吊り上がった目元。瞳は人を殺せそうなほど冷たく、厳しい口調のせいか少し印象がキツイように見える。
呆れたように腕を組み、私を睨んではなにかを察したのか「なるほど」と呟いた。え。あのよくわからないんですけど。
「ご、ごめんなさい。あの、玲花先生に頼まれた書類をお持ちしました」
「ありがとうございます」
さっきの表情とは打って変わって、爽やかスマイルで書類を受け取ってくれたんだが、腑に落ちない。それに私もそうだ。普通に同級生なんだからそんなに丁寧に言わなくてもいいのに。なんで丁寧に言っちゃったんだろ…。いや、でもこれってなんか凄いアレじゃない?アレ…んーとほら、大切なところ?っていうの?確かこの人の名前って…
「あの、もしかして…玄條 蓮さんですか?」
そうそう。この人はそういう名前だった気がする。風紀委員でその中のトップなんだっけ、確か。
成績優秀、スポーツも優秀、先生に信頼されていてよく漫画に出てくる風紀委員とか生徒会とかそういうの。なんか堅苦しいよねぇ…慣れてるし、人のことも言えないけど。
「そうですが。あぁ、君は確か…鈴攫 渚さんですよね。」
「え。なんで私の名前…」
「風紀委員ですから、生徒の名前は覚えてますよ。あーあと、君は錬城と仲がいいからね」
突然の話題に少し戸惑っている私をよそに玄條はペラペラと語っていく。 どうやらこの人は学校の風紀を乱す人が嫌いらしく、その一人が錬城なんだとか。錬城は他校と喧嘩をすることが多く、喧嘩をすることでこの学校の印象が悪くなってばかり…とまぁ、よくある話だ。
「あの…私は関係ないんじゃ…?」
「ですから、先ほどにも言ったでしょう。同じことを二度も言わさないで下さい。…君は錬城と仲がいいから「私を利用して喧嘩をなくそうと?」…まぁそういうことですね」
「無理ですよ。あの人に頼んでも、それだけは聞いてくれないと思うし…それに」
「そうですか…それは困りますね。頭の弱い猿をなんとかしてくれるのではないかと期待してたんですが」
軽く笑って紙を一枚一枚目を通していく玄條に、私は少しだけ苛立ちを覚えていた。
「その頭の弱い猿って錬城のことですか?」
「…その人以外誰がいますか?」
眼鏡を掛けなおして、冷たい目で私を見る。怯えていた私はいつの間にか頭が熱くなっていてイライラしていた。
流石にそれは言いすぎなんじゃないかな。まるで人を馬鹿にしたような言い方みたいでさ。…あぁもうだから嫌なんだよ…こういう人。
「嫌いなんですね、そーゆー人」
「嫌いに決まってるだろ。自分のことしか考えてない行動して。自分は迷惑かけてないだの、好き勝手にしてもいいだろうだの、そんなのは自分を守ろうとしてるだけのエゴだろ。そういうのを自己満足って言うんだよ。よく言うだろ?見た目で育ちが分かるってな。…そんな奴が学校にいると思うと反吐が出る」
苦虫を噛み潰したような顔で吐き出す乱暴な言葉。書類を握りしめる手が若干震えていて怒りを露わにしていた。
そんなに嫌いなんだ…私も嫌いって思ったけど。でもいいでしょ?だってだって。
「…ふざけないで下さい。」
「は?」
「誰もがそういう人じゃないと思うんです…勝手に決めつけないでください!!錬城のことなんにも知らないくせに!!」
大声で相手に反論すると私は居ても立っても居られなくなり、逃げてしまった。
嫌だった。勝手に決めつけられるのが。錬城はそういう人じゃないのに。喧嘩好きだけど優しいところだってあるのに…気遣ってくれるところもあるのに…なんで、なんで見た目で決めつけちゃうんだろう。違うのに。そうじゃないのに…っ!!!
――なんで理解してくれないの。
・
「なにも知らないくせに…か。」
出ていった少女の言葉を口にすると、男は軽く笑うと顔を腕で隠す。
すると男は小さな声で息を殺すように言った。
「…お前だって分からないくせにッ…」




