17…ずる賢い子犬は月ニテ、アザワラウ。
休んでるあの子視点
あんなに晴天だった空は赤色に染められ、夜を迎えようと日が沈んでいく。
沈む夕日がとても綺麗だから目の裏まで焼きつかせようと思って見ていたけど、そろそろやめようか。鉄の味がしてきたから。
重い身体を椅子に預けて、机に足を乗せて、お気に入りの棒キャンディを舐める。
なにもする事が無い時はいつもそう。こんな感じ。ゲームもやるけど、なかなかクリアできねーから結局こんな感じ。
いつもなら、ナギが使いそうなものを準備したりメールしたりとか…今は必要ねーか。
だって嫌われちゃったし。
逆にあれで怯えなかったら疑っちゃうけど。でもね、でもさ…あんな顔されるなんて思ってなかった。
小さい身体を震わせて、無自覚に歯をカタカタしちゃって、顔は――ほんの一瞬だけ見えたけど。なんで隠すの?俺を傷つけないため?俺は見ていたいのに…なんで見せてくれねーの?
「…はぁ。嫌われたらヤだなぁー…
そう思わない?アキ」
扉の後ろに居る人物に声を掛ければ、不愉快そーな顔をしていて思わず笑っちゃった。もっと上手に隠れたいなら気配を殺して来ないと。バレバレだっつーの。
笑った俺が気にくわないのか舌打ちなんかしてくるけど、一体なにしにきたの?喧嘩はヤだから勘弁して欲しいケド。
「…いつから気付いてた?」
「最初から。で、本題はなぁーに?」
背伸びして、アキの方に椅子を回していつも通りに接すれば、アキのしかめっ面がまた濃くなった。
「だってアキが来るなんて珍しいし、用事以外にはこねーだろ」
「よく分かるな」
「まぁな」
アキは俺の冷蔵庫からコーラを取り出すと近くにあった椅子に座る。コーラはもともとアキが勝手に入れるから俺のものじゃねーけど。自分の冷蔵庫に入れて欲しいんだよなぁ…
「…鈴攫、心配してたぞ」
「ははっ!こんな俺に心配とか…あるわけねーよ」
バリッと飴の割れた音がするのをお構いなしに噛み砕けば、アキは不思議そうに「嬉しくないのか?」なんて変な事を聞いてきた。
「あのさ。アキも分かるだろー?あの時、ナギは本気で怯えてたんだよ。それが一日で心配するなんて…ねーって」
「アイツならあり得るんじゃねェの?図太いし」
「ふぅん…でもそれは全部じゃねーって。きっと会いたくないってのもあるさ」
「…」
「否定しないってことはそれもあるんだね。まぁイイケド。」
軽く笑って、飴が無くなった棒をゴミ箱に投げ込む。ついでにちょっと期待した自分も投げ込んでおこう。
『もしかしたら』なんてあるわけがなかったんだ。
「…何故だ?」
「ナギが好きだから、かな。あんなことしちゃったから、あんまり説得力はないと思うけど。好きだから傷つけたくない、だから強要はしたくない」
もういつもと同じ様にはできないかもしれないけど。でも、傷つけたくないんだ。嫌われたくないんだ。失いたくないんだ。
「でもね、ナギは傷ついても俺のところに来るよ。俺じゃないとナギは駄目だから」
言ってることはめちゃくちゃだけど、ナギは俺が居ないと駄目なんだ。ナギは少しだけドジだし、だからってあまり人には言わない主義で。だからこそ、俺じゃないとナギはナギでいられないんだ。そして…俺もナギじゃないと『俺』でいられないんだ。
「分かったふうに言うんだな」
「違うって…。『分かってる』から言ってんの。幼馴染なんだから」
出会って早々恋に落ちて、嫌われないように表面上を被っていた俺が言うんだから間違いないっつーのに。疑い深いねーアキは。
まぁ…そうだもんね。アキは分からなくて当然だし、寧ろ分かって欲しくないもん。俺の知ってるナギが他の人に知られるなんて嫌だし、ただでさえ他の人と話してるだけでイライラするのに。
でも、そんなことしたらナギが理不尽だと思うんだ。制限だらけの生活なんか嫌だと思うし。
せめて『幼馴染』としての位から上がるまで我慢しないとね。
「理解できねェな」
「ねぇーアキ。アキはさ…なんで喧嘩が好きなの?」
「…熱くなんだよ。必死に追いつこうとする奴を粉々に壊すまでが楽しくて楽しくてしょうがねェ。負ける前提で喧嘩を吹っ掛けられたら萎えるけどな」
「ほら。結局同じなんだよ」
コーラを飲み干すアキを見ながら言えば、俺の言葉が理解できないのか口が開いたまま見るのってどうよ。
「自分は理解できるのに相手には理解されないってコト。そんな殴り合いのどこが楽しいのか俺には理解できねー」
「あ゛!?殴り合いだと?」
「あははっ。…でも分かるよその気持ち」
「どういうことだよ」
「さぁなー」
納得いかないアキにコーラを差し出せば、嫌味を言いながらコーラを受け取ってくれる。やっぱチョロいなアキは。
心の中で笑いを隠していれば、重たい荷物が下ろされたような感覚に戸惑う。けどそれも一瞬にして俺の思考を動かして――口角が上がった。
「つかさ、アキの口からナギが出てくるなんて珍しいね。もしかして好きだったり?」
「はァ!?んなわけねェだろうが!」
大きな爆弾に耐えきれなかったアキはコーラを噴きだしちゃった。あーあ、俺の部屋にアリさんが来たらどーすんだよ。ちゃんと拭かないとベタベタするんだからな。
「(しかも声上ずってるし…分かりやすいな)…でも気になるんでしょ?だってあの時ナギにお肉あげたじゃん」
指摘しちゃえば呻くような声出しちゃうし。かと言えば否定するし。ほんと面白いなァ。
「…気になったところで、テメェには言わねェよ。怒り狂った『番犬』がなにを仕出かすか分からねェからな」
俺を見て不敵に笑うと、少ししかなくなったコーラを軽く振り回す。
液体が容器にぶつかった音がするのを聞きながら目を細めれば「やるか?」と挑発してくるアキに、勝算はついてる。きっと俺をからかっただけだから遠慮するけど。
鉄の味がまた広がる。
「弱い奴に喧嘩吹っ掛けられるのはヤなくせに自分はいいんだぁ?」
「俺はイイんだよ。…テメェみてェなガキじゃねーからな。」
アキだって言えないクセにー!イラつくんだけど言えないってゆーね。まぁこれでもダチだからって言うのもあるんだけどね。
「いいじゃん。だって好きな子には自分だけ見てもらいでしょ?」
「まぁな」
そっから少しだけ話しこんじゃえばあっという間に時間は過ぎちゃって。笑った回数なんか覚えていないぐらい楽しくて。それが少し名残惜しいけど、アキにも色々用事があるみたいだから言わない方がいいよな。
「あ、学校はいつくるんだ?」
「んーまだ決まってないけど、しばらくは行かない予定かな。あーあと。最近『アイツ』ピリピリしてるから喧嘩はほどほどになー」
「あぁ…気をつけるわ。じゃーな」
「アキ。大切なものはちゃんと握ってないと失っちゃうんだよ、自分も」
「んだよ…んなコト、二度も言わなくても分かってるっつーの…」
「あはは。んじゃ」
ドアの前。笑って送り出す、足音が遠くなるまで。
あぁ。笑っちゃうなぁ…ちゃんと言ったのにさ。ほんと鈍いね。
手の中から小さな小包を取り出すと、そこに入っているのはラインストーンが埋め込まれた可愛らしい白馬のキーホルダー。取り外すことが出来るのかチェーンまでついていて…笑ってしまった。
「あはははっ!気になってたんだよなー…後ろのポッケからくしゃくしゃになった物があると思ったら…こういうコトね。」
こういうのなら買ってすぐさま本人に渡せばいいのに。もしかして恥ずかしくて渡せなかったり?アキならありえるね。
せめてこういうのは盗られないところに隠しておけばよかったのに。だから盗られちゃうんだよ。まぁ、渡したところで俺が奪っちゃえばイイだけなんだけどさ。
興味は持っても、行為は駄目なんだよ。俺がいる限りね。
・




