13…サイコロを振る簡単なお仕事。
錬城seed
赤い夕焼け。乾いた空気。
風が俺を突き抜ける。この感じ、好きだ。
拳を突き出したときに何かが折れるこの感じも、噴き出す汗も気味わりィけど好きだ。
多分。俺はイカレてんじゃねェーの?って思われっけど寧ろ俺は『普通』だと思う。
皆、理解しねェだけだ。
だから皆、自分の基準を押し付けて怪訝する。大抵は。
喧嘩して楽しんでる俺に怯える奴らもきっとそうなんだろう。だからヤなんだよ、弱い奴。
弱い奴ほど逃げては影では罵って、自分が偉い奴だとか普通とかそんな事考えてる。そーゆう奴ほど頭がイカレてるって事しらねェーでさ。
「――なんだけど…って聞いてる?」
「あ。わりィな…考え込んでた」
「そっか」
…そういえば忘れてた、コイツの存在。
最近転校してきたんだっけな。迷子になってたのをたまたま助けただけなんだが…好かれちまった。
それから帰るときにはひっつき虫のように勝手に付いてきて、いつの間にか一緒に帰るようになって。
なんだ、コレ。
気付かなかった俺も俺だけど、可笑しくねェーか。なんでコイツと一緒に帰ってんだよ。コイツも気にしてねェのか普通に喋りかけてるし――
何でコイツ普通に俺と話してんだ?怖がって逃げるだろ。
何故逃げない?嫌わない?
何故俺について来るんだ?
「でねー限定版とれたんだ~!これ可愛いと思わない?」
そう言って出してきたのは包丁で刺されたピンクの熊のマスコットキーホルダー。
これのどこが可愛いのか分からねェ。いや、分かりたくねェや。
あ…そっか。コイツはそういうやつなのか。あーゆう奴とちょっとズレてるっつーか…俺と同じ『普通』なんだ。
「くっ…ははっ!どこが可愛いんだよ」
「えー…」
気に入らないのか頬をハムスターみたいに膨らませるのが面白い。
睨みつけて気に入らなさそうな顔も、きょとんとした顔も――あ、そういやアイツもそうだったな。
アイツもちょっとズレてて、何考えてんのかわけわかんなくて…変な女。
出会ってそうそう「カッコイイ」って言う女子なんて普通はいねェーだろ。それも喧嘩してるところを生き生きと見られたら尚更。
「ホント。変な奴」
「変な奴…?」
「あぁ。あんたも十分に変な奴だけどな」
「なぁっ…!」
ぽこぽこと弱い殴り…ガキか、コイツ。チビだから頭に手を乗せやりゃあ簡単に回避できんだけど。しゃーねぇ…どうせ回避しても幼稚化していくだけだし謝るか。
謝った結果ジュースをおごる羽目になってしまった。
しかもそれがリンゴジュースとか子供かコイツは。
ジュースを軽く投げて渡したら慌てるし。それぐらいとれねぇとか…。まぁいいや。喉渇いたしコーラ飲もう。
あ?
コーヒー?…は?
確か俺はコーラを押した筈だ。なのに何で暖かいコーヒーが出てきたんだ?もしかしてミスか?よくダチが言ってた、ジュースを入れる奴がミスって違う所に入れるってヤツ。
もっかい買うか…
――ってまたかよ!!
場所を間違えた?いやいやちゃんとコーラを押した筈。にしても、コーラは冷たいって書かれてるんだが、なんであたたけェんだ?流石にそこまでミスする奴とかいんのか?んなわけ――あぁ、後ろに居たじゃねェーか。
「なにしやがんだ…テメェ…」
「…わざとじゃないんだよ?」
「わざとだろーがよぉおおおおお!!!」
わざだとだろっ!!コーラは二列目だぞ?コイツが押したのは一列目だぞ?完璧わざととかカンケーねェだろ!!
オイオイ、今日は気温が少し高いのに好きじゃねェのを飲まなきゃなんねーんだよ。しかも二本。
コーラーと違って暖かくて苦いコーヒーは飲むだけで胃がイガイガして気持ちわりーとか思ったらブラックだった。せめてカフェオレにしとけつっーの。
「…ねぇ。錬城君ってさ渚ちゃんの事知ってるの?」
いきなりの質問にコーヒーを噴きだせば気管に入って咽る。
その話題かよ…ちょっとビビったじゃねェか。
にしても、わらわねェってことは…本気か。
コーヒーを飲み干して、空になった缶を後ろの缶入れに投げ込む。
つか急にどうしたんだ。顔見えねェからよく分かんねーけど…なんかあったのか?と思えば奴はペラペラと鈴攫の事を語り始めた。
「渚ちゃんって面白いよね。なんか行動一つ一つが面白いみたいな」
「酷い言いようだな」
「でも…そう思うでしょ?それに可愛いじゃん。」
「あっそ」
「気にならない?渚ちゃんの事」
疑うような目で見られ、なんとも言えなくなる。
気にならねェわけじゃねーが、どちらかと言ったら気になる方だ。
だがそれ以上はなにもない。ただの変な女としか認識しかしていない。
「でも。渚ちゃん可愛いから何処かにいっちゃうかもね」
「…なにがいいてェ」
「そのままの意味だよ」
そう言って笑うコイツは何時ものようにヘラヘラ笑ってて。
その顔に不快感を抱く、んだよその顔。
コイツはなにがいいてェ?
あの女がどこに行こうが関係ねェだろ。煽るような言い方しやがって。
だってアイツは俺のモンじゃねェんだから。アイツが知らない奴と付き合ったってなんとも言えねェ。
アイツが決めたことだから。
…決めた?本当にそうなのか?
アイツは少しお人好しのところがある。この場をなんとかするなら自分を差し出すような奴だ。
もし無理やり、強制的に、付き合うことになってしまったら?
好きでもねェのに付き合う羽目になったら…あーくそっ!!!なんでこんな事考えんだよ!
いいじゃねェーか。なのになんでッ!
嫌な予感がすんだよ!!!
走り出す俺は、後ろを振り返る事もしなかった。
・
転がった缶コーヒー。どうやら捨てられたようで、へこんだ形跡がある。それを拾うと少女は小さく笑ってしゃがみ込んだ。
「馬鹿」
乾いた地面に一つ、また一つ、雨粒がポツリ。




