↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/48

第44報 報酬は別

 ゴードンが暗殺者の話を聞いて、手を止めた。


「そ、そいつらはどうしたのだ」

「返り討ちにした」


 ゴードンの顔が引きつった。


「貴様らごときが、返り討ちだと?! 6人いたのだろうが!」


 そこでネムハが得意げに胸を張る。


「副ギルドマスター、お言葉ですが1+1は2であります! つまり6より小さい!」

「何を当たり前のことを言っている!」

「え……じゃあ、あたしたちなんで勝てたんですか……?」

「もう貴様は黙っていろ!」

「了解いたしました!」


 そこで俺は、暗殺者の装備を取り出した。


 短剣。

 毒煙の容器。

 複数種類の毒。

 予備の武器。


「一応こいつも渡しておく」

「こんな物を私の机に置くな!」

「納品先はここだと受付で言われた」

「受付女ごときの言葉を真に受けるな!」


 最後に、小さな金属片を置く。


「これは何だ」

「暗殺者の靴底に隠されていた。数字と記号が刻まれている」

「……靴底?」


 ゴードンの声が低くなる。


「連絡先か、報酬の受取場所かもしれない」


 ゴードンが金属片をひったくった。


 その瞬間、顔が再び青ざめる。

 指先が強張り、金属片が小さく震えた。


「何か知っているのか?」

「知らん!」


 ゴードンは金属片を裏返した。


「こんな物が証拠になるわけがない! 偽装や陽動の可能性もある! 勝手な推測でギルドを混乱させるな!」

「俺は何も推測していない」

「ならば余計なことを言うな!」


 俺はそれ以上追及しなかった。


 ゴードンは金属片を机へ伏せると、魂魄器官の回収袋へ視線を戻した。


「待て。ここには5人分しかないぞ」

「ああ」

「あと1人分はどうしたのだ」

「生きている」

「生きている、だと?」

「ああ。現場に置いてきた」


 ゴードンが目を剥いた。


「あ、暗殺者を生かしたまま放置するだと! 無能が! 何を考えている! 捕らえてこい!」

「暗殺者は未象じゃない」

「貴様ッ! そういう問題ではない!」


 机が揺れるほど強く、ゴードンが拳を叩きつけた。


「生きた実行犯だぞ! 逃げたらどうする! 口封じをされたら、貴様に責任が取れるのか!」

「暗殺は今回の任務とは関係ない。調べたいなら、ギルドで勝手にやってくれ」

「……何?」


 ゴードンの肩から、わずかに力が抜けた。


「貴様、誰が暗殺を依頼したのか、知りたくはないのか?」

「興味はない」

「貴様を殺そうとした相手だぞ」

「労力に見合わんな。晒上げても大した金にはならない」


 その言葉に、ゴードンがぴくりと眉を動かす。


「……本当に、自分で調べるつもりはないのだな?」

「ない」


 ゴードンは俺の顔をしばらく見つめた。


 やがて息を吐き、椅子へ深く腰掛ける。

 顔色が、少しずつ戻っていった。


「ふん。所詮は死体漁りか。自分の命を狙われても、敵が誰か判断する頭すらないらしい」

「そうか」


 暗殺者の背後に誰がいようと、俺には関係ない。

 生存者も、装備も、手掛かりも渡した。


 あとはギルドで調べればいい。


 俺は受付嬢から受け取った目録を差し出した。


「受領印を」

「何?」

「受付で必要だと言われた」

「ふん。受付女ごときが面倒な真似をしおって!」


 ゴードンは目録をひったくり、乱暴に印章を押した。


「これで満足か!」

「ああ」


 俺は控えを鞄へ収める。


「報酬は?」

「あると思っているのか!」


 ゴードンが再び机を叩いた。


「暗殺者を放置し、正体不明の物品を持ち帰り、ろくな報告もせずに報酬を要求するとは、図々しいにもほどがある!」

「報告を聞く時間はないと言ったのはお前だろ」

「口答えをするな! 内容を精査するまで、報酬の支払いは保留だ!」

「なんだと?」


 俺はゴードンを睨んだ。


「っ!」


 誰が俺を殺そうとしたのかは、どうでもいい。

 そいつがどんな末路を迎えるかにも興味はない。


 だが、報酬は別だ。


 金がなければ、セラとの生活は守れない。

 契約通りに働いた以上、支払わせる。


「俺は契約通りの仕事をした」

「そ、それを決めるのは貴様ではない!」

「契約書に書いてある」

「調査結果が正しいか確認する必要があると言っている!」

「期限は?」

「な、何?」

「いつまでに確認する」

「き、貴様! その態度は何だ! その気ならこちらは支払いそのものを──」


 俺は腰のナイフへ手を置いた。


 ゴードンの声が止まる。


「き、貴様! 衛兵を呼ぶぞ!」

「呼べ」

「なんだと?」

「契約通りに働いた特任調査官への報酬を踏み倒したと、衛兵に説明すればいい」

「き、脅迫するつもりか!」

「まだ何もしていない」


 ゴードンの顔がみるみる青ざめていく。


「ふ、2日待て! 貴様の報告書と証拠を照らし合わせる!」

「わかった。3日やろう」

「2日だと言っただろうが! さっさと出ていけ!」


 俺たちは副ギルドマスター室を出た。

 背後で、扉が勢いよく閉まる。


 廊下をしばらく進んだところで、ネムハが振り返った。


「超絶さん」

「なんだ」

「ギルドを恨むなら、このあたしを恨んでくださいッ!」

「どうしてそうなる」

「あたしはギルドのために、ギルドはギルドのためにですから」

「地獄みたいな職場だな」

「ワン・フォー・ギルド! ギルド・フォー・ギルド!」

「静かにしろ」

「ワン」


 俺たちは家路についた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。