第44報 報酬は別
ゴードンが暗殺者の話を聞いて、手を止めた。
「そ、そいつらはどうしたのだ」
「返り討ちにした」
ゴードンの顔が引きつった。
「貴様らごときが、返り討ちだと?! 6人いたのだろうが!」
そこでネムハが得意げに胸を張る。
「副ギルドマスター、お言葉ですが1+1は2であります! つまり6より小さい!」
「何を当たり前のことを言っている!」
「え……じゃあ、あたしたちなんで勝てたんですか……?」
「もう貴様は黙っていろ!」
「了解いたしました!」
そこで俺は、暗殺者の装備を取り出した。
短剣。
毒煙の容器。
複数種類の毒。
予備の武器。
「一応こいつも渡しておく」
「こんな物を私の机に置くな!」
「納品先はここだと受付で言われた」
「受付女ごときの言葉を真に受けるな!」
最後に、小さな金属片を置く。
「これは何だ」
「暗殺者の靴底に隠されていた。数字と記号が刻まれている」
「……靴底?」
ゴードンの声が低くなる。
「連絡先か、報酬の受取場所かもしれない」
ゴードンが金属片をひったくった。
その瞬間、顔が再び青ざめる。
指先が強張り、金属片が小さく震えた。
「何か知っているのか?」
「知らん!」
ゴードンは金属片を裏返した。
「こんな物が証拠になるわけがない! 偽装や陽動の可能性もある! 勝手な推測でギルドを混乱させるな!」
「俺は何も推測していない」
「ならば余計なことを言うな!」
俺はそれ以上追及しなかった。
ゴードンは金属片を机へ伏せると、魂魄器官の回収袋へ視線を戻した。
「待て。ここには5人分しかないぞ」
「ああ」
「あと1人分はどうしたのだ」
「生きている」
「生きている、だと?」
「ああ。現場に置いてきた」
ゴードンが目を剥いた。
「あ、暗殺者を生かしたまま放置するだと! 無能が! 何を考えている! 捕らえてこい!」
「暗殺者は未象じゃない」
「貴様ッ! そういう問題ではない!」
机が揺れるほど強く、ゴードンが拳を叩きつけた。
「生きた実行犯だぞ! 逃げたらどうする! 口封じをされたら、貴様に責任が取れるのか!」
「暗殺は今回の任務とは関係ない。調べたいなら、ギルドで勝手にやってくれ」
「……何?」
ゴードンの肩から、わずかに力が抜けた。
「貴様、誰が暗殺を依頼したのか、知りたくはないのか?」
「興味はない」
「貴様を殺そうとした相手だぞ」
「労力に見合わんな。晒上げても大した金にはならない」
その言葉に、ゴードンがぴくりと眉を動かす。
「……本当に、自分で調べるつもりはないのだな?」
「ない」
ゴードンは俺の顔をしばらく見つめた。
やがて息を吐き、椅子へ深く腰掛ける。
顔色が、少しずつ戻っていった。
「ふん。所詮は死体漁りか。自分の命を狙われても、敵が誰か判断する頭すらないらしい」
「そうか」
暗殺者の背後に誰がいようと、俺には関係ない。
生存者も、装備も、手掛かりも渡した。
あとはギルドで調べればいい。
俺は受付嬢から受け取った目録を差し出した。
「受領印を」
「何?」
「受付で必要だと言われた」
「ふん。受付女ごときが面倒な真似をしおって!」
ゴードンは目録をひったくり、乱暴に印章を押した。
「これで満足か!」
「ああ」
俺は控えを鞄へ収める。
「報酬は?」
「あると思っているのか!」
ゴードンが再び机を叩いた。
「暗殺者を放置し、正体不明の物品を持ち帰り、ろくな報告もせずに報酬を要求するとは、図々しいにもほどがある!」
「報告を聞く時間はないと言ったのはお前だろ」
「口答えをするな! 内容を精査するまで、報酬の支払いは保留だ!」
「なんだと?」
俺はゴードンを睨んだ。
「っ!」
誰が俺を殺そうとしたのかは、どうでもいい。
そいつがどんな末路を迎えるかにも興味はない。
だが、報酬は別だ。
金がなければ、セラとの生活は守れない。
契約通りに働いた以上、支払わせる。
「俺は契約通りの仕事をした」
「そ、それを決めるのは貴様ではない!」
「契約書に書いてある」
「調査結果が正しいか確認する必要があると言っている!」
「期限は?」
「な、何?」
「いつまでに確認する」
「き、貴様! その態度は何だ! その気ならこちらは支払いそのものを──」
俺は腰のナイフへ手を置いた。
ゴードンの声が止まる。
「き、貴様! 衛兵を呼ぶぞ!」
「呼べ」
「なんだと?」
「契約通りに働いた特任調査官への報酬を踏み倒したと、衛兵に説明すればいい」
「き、脅迫するつもりか!」
「まだ何もしていない」
ゴードンの顔がみるみる青ざめていく。
「ふ、2日待て! 貴様の報告書と証拠を照らし合わせる!」
「わかった。3日やろう」
「2日だと言っただろうが! さっさと出ていけ!」
俺たちは副ギルドマスター室を出た。
背後で、扉が勢いよく閉まる。
廊下をしばらく進んだところで、ネムハが振り返った。
「超絶さん」
「なんだ」
「ギルドを恨むなら、このあたしを恨んでくださいッ!」
「どうしてそうなる」
「あたしはギルドのために、ギルドはギルドのためにですから」
「地獄みたいな職場だな」
「ワン・フォー・ギルド! ギルド・フォー・ギルド!」
「静かにしろ」
「ワン」
俺たちは家路についた。




