第17報 過剰報告
ギルドに戻ると、俺はまずネムハに回収物を預けた。
「補佐官。ドランの遺体を遺体安置室へ運べ。検分前だから、担当者以外に触らせるな。ベスの脚は治療院だ」
「おまかせあれ! 死ぬ気で丁重に運びます!」
ネムハは妙な敬礼をすると、回収したパーツの入った袋を抱え、奥へと駆けていった。
俺はそのまま受付カウンターへ向かう。
「リカルドさん!」
受付嬢が、こちらを見るなり、カウンターの奥からすっ飛んできた。
「無事だったんですね?!」
「ああ」
「メグさんたちから、リカルドさんがまだ下に残ったって聞いて……心配、したんですからね」
その声は、少し震えていた。
「仕事だからな」
「そういうことじゃないんですけど……」
受付嬢が何か言いたげな顔をしている。
だが、俺は仕事の仕上げの確認をする。
「メグとベスはどうした」
「医務室です。メグさんは軽い負傷と魔力消耗。ベスさんは片脚の欠損とショック状態ですが、命に別状はないとのことです」
「そうか。ならいい」
受付嬢が、じっと俺の顔を見てきた。
「自分のことより、2人の心配ですか」
「依頼は救助だっただろ」
「そういうところなんですよね」
「何がだ」
「何でもないです」
何なんだ。
まあいい。
報告に移るか。
「依頼の報告だ」
「え?」
「メグとベスは救助。ドランは発見時すでに死亡していた。遺体は回収済み。いま補佐官に遺体安置室へ運ばせている」
「いや、あの、ちょっと待ってください。この案件は私じゃなくて……」
「あと、第5階層の未象『解体糸』は捕獲した」
俺は、受付カウンターの上に瓶を置いた。
「は?」
「落としたくらいじゃ割れんが、扱いには気をつけろ」
「え、ちょ、ま、待ってくだ……え? 捕獲?」
「即席だが生態をまとめた報告書だ。後日正式版を出す」
「ちょちょちょちょちょっ!」
「以上だ。金は後日受け取りに来る」
「待ちなさーいッ!」
受付嬢が、慌てて瓶を両手で囲い込む。
その声に、周囲の冒険者たちが一斉にこちらを見た。
「いま、捕獲って言わなかったか……?」
「未象って、ブレイジングスターズを崩壊させたバケモノだろ?!」
「メグとベスを助けて、遺体も回収して、バケモノも捕まえたって……マジ?!」
「死体清掃員、普通にA級冒険者超えじゃねーかよ!」
「しかも報告書に生態まとめたとか言ってたぞ?!」
大広間のざわめきが、一気に膨れ上がる。
受付嬢は、引きつった笑顔で俺を見る。
「言いたいことは山ほどありますが、とりあえず、なんで受付嬢の私への報告で済むと思ってるんですか?」
「受付は依頼報告の窓口だろ」
「未象案件を普通の依頼と同じにしないでくださいね?! そもそも捕獲ってどういうことですか?!」
「見ろ」
「見ません!」
受付嬢は即答した。
「未象は糸だった。ムカデは餌だ。見えないが、この中には未象が入っている」
「へえ、そんな存在がダンジョンにいたんですね。勉強になります。……って、なるわけないでしょう!」
受付嬢は、こめかみを押さえた。
「こんなのはもしかしなくても機密事項に決まってます! 私は全て忘れますので、とっととギルドマスターに直接報告してください!」
「妹が待ってるんだが」
「こういう時だけ同情を誘わないでください!」
受付嬢は、くるりと周囲の冒険者たちへ向き直った。
そして、にっこりと笑う。
「皆さん」
その笑顔は、妙に怖かった。
「今の話は、聞き間違いです。よろしいですね?」
「え、いやでも、その瓶……」
「そうだぜ、ムカデがバラされては復活して、バラされては復活して」
受付嬢の笑顔が、さらに深くなる。
「よろしい、ですね?」
「お、おう」
「俺は何も聞いてない」
「瓶なんて見てない」
「未象なんて言葉も聞いてない」
冒険者たちは、一斉にうなずいた。
なるほど。
受付嬢も受付嬢で、場数を踏んでいる。
「リカルドさん」
「なんだ」
「今すぐ、ギルドマスターの執務室へいってください」
「ああ」
俺は瓶と報告書を手に取り、ギルドマスター執務室へ向かった。




