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神様のギフト、配ってます(ただし返品不可)  作者: 成瀬りん
第5章 枯れて廃れた世界より
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ふたりとふたり

 雪がまだ降る夜――ザインは宿屋の外に、アリアを連れ出した。

 まわりには静寂が広がっており、人影も見えない。

 そんな中、街灯の灯りが柔らかく……辺りを照らしていた。


「告白?」

「チガウヨッ!?」


 アリアに先手を取られたザインは、変な声を上げてしまった。

 確かにこんな、ムードのある雪の夜。大きな何かが控えているタイミングでは――

 ……そう捉えられても、仕方が無いかもしれない。


「ふーん? それじゃ、何の用かな?」


 アリアは心当たりが無いようで、不思議そうに聞いてくる。

 一瞬自分が悪いのでは……とも思ってしまうが、ザインは堂々と聞くことにした。


「この街を発ったら……俺たち、どこに行くの?」

「え?」


 アリアは短く言葉を発して、考えるように雪空を見上げた。

 遥か彼方、空の中心から降り続ける雪が――とても美しかった。


「――……ああ! 目的、まだ言ってなかったっけ!?」

「言ってないよ!?」

「そっかそっか……。

 他のふたりには伝えたんだけどね。そっちから聞いてないの?」

「こういうことは、本人の口から聞きたいだろう?」

「ふむ、なるほど。あたしたちは、オルビスを殺しに行くんだよ~」

「ほう、オルビスを……」


 あっさり返ってきた答えに、ザインはとりあえず満足した。

 満足してから、ようやく頭が理解を始める。


「――……はああぁーっ!!!?」


 ザインの大きな声が雪の街に広がった。

 反響は無かったものの、とりあえず迷惑行為ではある。

 アリアは咄嗟にザインの後ろにまわり、彼の口を両手で押さえ付けていた。


「一応、極秘事項だからね? あたしたち以外には内緒だよ!」

「むぐむぐ……ぷはぁ。

 そそそ、そりゃ、そんなこと、誰にも言えねぇよ!?」

「まぁ――」


 ……アリアは何かを言おうとして、口にするのを止めた。

 ザインに言ったら、怒り出してしまうに違いない言葉。


「うん? どうした?」

「……ううん、何でもない。情報屋は、やっぱり行くのを止めても良いよ?」

「ふっ。お前の隣は、俺の特等席だからな!」

「告白?」

「違うっての!!」

「そっかそっか。でも、あたしの目的を聞いたのに――冷静だね?」

「さすがにもう、慣れたからな。一度でも驚けば、それだけで充分だよ」

「ほぉ~。便利な性格ですねぇ」


 アリアはザインを、しみじみと眺めた。

 ザインとしては、褒められているのか何なのか……正直、よく分からなかった。


「――あ、そうだ。この街はオークションが有名なんだってな」

「うん? ……近くにダンジョンがあるからね。

 そこで見つけられたものが、オークションを通して世界に流れていくんだよ」

「ふむ、それも神の加護ってやつか……。

 ……ところで、何でその……神を殺すの?」

「あたしが、嫌いだから♪」

「えぇ……。いやいや、さすがにそれだけじゃ無いだろ!?」

「ふふふ♪ これ以上は、秘密だよぉ~」


 アリアの言葉に、ザインの胸は苦しくなった。

 アリアがどれだけのものを抱え込んでいるのかは分からない。

 ただ、このままでは――


「アリアちゃんの秘密暴露カード……は、俺、今持ってる?」

「んぁ? ……そうだねぇ、ヴェルガ教の問題も解決したし……。

 1枚だけ……ある、かな?」


 以前、アリアの口から唐突に出てきた、そのカード。

 あのときはその場のノリだったのかもしれないが――

 ザインはここで、突然思い出したのだ。


「――ふふふ♪

 それで情報屋は、アリアちゃんから何を聞きたいのかな?」

「お前は――……今、不安か?」


 想定していなかった質問に、アリアの動きが止まった。

 彼女はこれからの――自分が死ぬかもしれない戦いを前に、どんな質問でも答えようとしていた。

 それが彼女の人生に関することでも、世界の秘密に関することでも、神の秘密に関することでも――

 ……しかしザインからの質問は、ただの、気持ちの問題。

 アリアは大きめに溜息をついてから――静かに言った。


「――不安だよ。戦いになれば……たぶん、一瞬で結果が出ちゃうから。

 ちゃんと上手くいくかな……? 運悪く、何か問題が起きないかな……? もしかして、誰かが死んでしまうかな……?

 ……少しでも間違えれば、全てがダメになる。……あはは。今さらなんだけど――」

「大丈夫だッ!!」


 ザインの大きな声。

 アリアの言葉は遮られ、それ以上のことは何も言えなくなる。

 ……ザインは静かに、アリアを抱きしめた。

 冷たい空気が動く中、ザインの静かな温もりがアリアに伝わってくる。


「――これ、告白?」

「違うって言ってるだろッ!!」


 ……その言葉に、アリアはくすくすと笑った。

 それを見て、ザインも少しだけ笑うことができた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ――メルヴィナとガルドは、宿屋の食堂にいた。

 ザインがアリアを連れて外に行ったので、今はふたりきりだ。


「……ねぇ、ガルド。あなたは……平気?」

「これからの戦い……のことですか?」


 ガルドの言葉に、メルヴィナは静かに頷く。


「緊張はしています。ただ、アリアさんも、お嬢さんもいますから」

「……そんなことを言ってると、ザインさんがまた泣くよ?」

「アイツは泣かせてやるくらいが丁度いいんです。

 やればできる男なんですから」

「あれ? 結構、認めてるんだ?」

「ふふっ、どうでしょうね……」


 ガルドは手元のグラスに口をつけ、強い酒を煽った。

 この街に着いてから、そうしていることにメルヴィナは気付いていた。


「――とにかく、お嬢さんのことはオレが守ります。

 だから、お嬢さんは自分の役割に集中してください」

「自分の、役割――」


 そう呟くと、メルヴィナは視線を下に落とした。


「……私、実は……まだ、どうしていいのか分からないの。

 オルビス神を、殺せるとは思えない……。それを手伝っても良いのか、分からない……」


 メルヴィナの震える手を、ガルドはそっと握った。


「オレも、神はもう信じておりませんが――

 ……本当に正しいかどうかは、分かりません。

 信じている人がそう言うから……だから、戦うだけです」

「……信じている、人――」


 ――果たしてアリアは、信じられる人物だろうか。

 大好きで、頼りになって、尊敬していて、でも謎が多くて――

 ……ある意味、自分にとっては神のような存在……でもあるのか。

 メルヴィナがそう思い至った瞬間、手から伝わる温もりを感じた。


「――あっ、ガルド!? 手……」

「す、すいません! つい……!」


 ガルドは慌てて、自分の手をメルヴィナの手から離した。

 そして少しだけ、気まずい空気が流れていく。


「ガルドは……この戦いが終わったら、フィオナ様のところに行くんだよね。

 私は、どうしようかな……」

「オルビス神が信用に値する存在なら、大聖堂に復帰するのも――」

「……ふふっ。それならアリアさんみたいに、異端諮問局に入ろうかな?」

「それも良いかもしれませんが……外回りは、かなり大変ですよ?」

「そうなんだ? アリアさんを見ていると、とてもそうは思えないんだよね……」

「ははは。それは確かに……!」


 戦いの後のこと――

 ……そんな話をしながら、ふたりの夜は更けていった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ――数日後、雪はどうにか止んでいた。

 準備はその間に全て整え、心構えも何とか……という状態だ。


「メルちゃん、予習はばっちり?

 やっぱりまだー、って言うなら、もう少し滞在しても大丈夫だよ?」

「いえ、もう完璧ですから。この街にいると、いろいろと考えてしまいますし」


 そう言うメルヴィナの肩を、アリアは優しく叩いた。


「ところで――旦那の装備、イカしてるなぁ……」

「そうだろう? アリアさんが面倒を見てくれた剣と盾だ。

 うむ、惚れ惚れするデキだな」

「……むぅ。俺には何かないのー?」


 ザインの言葉に、アリアは軽く答える。


「あるけど、今は渡せないんだよねぇ」

「えっ!? 本当にあるの!?」

「うん。たぶん、使えるはず……なんだけど」

「その不安になるテンション、何なんだよ……!」

「まぁ、使える場所に着いたら渡すね。乞うご期待~♪」


 アリアが期待しろと言うのであれば、本当に期待ができるのだろう。

 お約束のように、少し不安な要素が入ってはいるが……まぁ、それも今さらだ。

 ザインは軽く、拳を握りしめた。


 そして4人は、一度だけ街の方を振り返ってから――

 人通りのない雪道を、北に向けて歩き始めていった。

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