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神様のギフト、配ってます(ただし返品不可)  作者: 成瀬りん
第5章 枯れて廃れた世界より
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雪の降る街

「――あっ。雪が降ってきました」


 北の街を目指している途中、薄曇りの空から、白い雪が降ってきた。

 メルヴィナは空を見上げながら、右手で雪の欠片を掴もうとする。


「ふふっ、メルちゃんは可愛いねぇ」


 オルビスを殺す――という話を聞いて以来、メルヴィナの元気も無くなっていた。

 ずっと、どこか心に棘が刺さっているような……そんな状態だった。


「教都の方は、雪が滅多に降らないからなぁ。

 ……おー、寒い寒い」


 雪を見たからか、ザインは急に寒気を感じてしまった。


「そんなに寒いなら、ガルドさんの背中に戻れば~?」

「ははは。もういい大人なんだから、自分で歩けるよな?」


 アリアの冷めた提案に、ガルドは生温かい言葉を付け加える。

 アリアの話を無視して強引に付いてきたザインは、未だにどこか居心地が悪かった。


「そろそろ勘弁してくれよ……。

 宿屋の手配とかは俺が全部やるからさ。な?」

「それじゃ、お肉料理が美味しいところを探してきてねぇ」

「おう、任せておけ……!」


 ザインの言葉に、アリアは仕方の無さそうに――ようやく、少しだけ笑った。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 その日の夕方、北の街に辿り着くと――ザインは早速、宿屋を探しに走り始めた。

 街自体はそれなりに大きく、人の出入りもまた多い。

 神職者の姿は王都よりも多く、教都よりは少ない……といった具合だ。


「さて。情報屋を置いて、先を急ごう!」

「いやいや……。そういうブラックジョーク、止めてくださいよ……」

「危険だと分かって、それでなお強引に付いてきたんだ。

 もう、素直に迎えてやった方が良いぞ」

「あはは……。はいはい、冗談です。冗談ですよーっ」


 アリアは溜息をついてから、改めて辺りを見まわした。

 近くに街の地図があったため、まずはそれを確認しに行く。


「私たちの目的地は、もっと北の方ですよね?

 この街では、何かやることがあるんですか?」

「うん、最後の準備をしちゃわないとね。

 情報屋が増えたから、追加の準備もしなくちゃいけないし……」

「ふむ……。ザインのために、時間が掛かる……と」

「それだけでもないんですけどね。

 この辺りにはダンジョンがあって、他の街よりも希少な品が流通しているんです」

「なるほど。数日は滞在する形になるかな?」

「そうですねー。この先はもう、目的地しかないから――

 ……あとは、気分の問題ですかね?」


 その言葉に、メルヴィナが少しだけ身体を震わせた。

 彼女が信じるオルビスと、直接会う――そんな時間が、徐々に近付いてきているのだ。


「私も……アリアさんから頼まれた魔法陣の、再確認をしたいです。

 ……その、じっくりと」


 メルヴィナの言葉に、アリアは何度も頷いた。


「うん、そうだね。気が済むまで確認してね。

 ……ああ、そうだ。あたしも鍛冶屋に行かないと」

「アリアさんが? 何か用事があるのか?」

「ガルドさん用に、武器と防具を作ってあげないと」

「うん? オレは、ずっと使っているものがあるんだが……」


 アリアの言葉に、ガルドは不思議そうに返す。


「後戻りが出来なくなりますから。

 絶対に折れない剣と、絶対に砕けない盾――を作りたいなぁ、って」

「そんなものが、存在するのか?」


 当然のことながら、それらは流通していない。

 しかしアリアに掛かってしまえば……そんな存在も、生み出されてしまうのかもしれない。


「折れないし砕けない……って、そもそも加工ができるんですか?」

「あたしがどうにかしてる間に、鍛冶師さんにいろいろやってもらうんだよ~」

「……なるほど」


 アリアのふわっとした言葉に、メルヴィナの頭はスルーを決め込んだ。

 アリアがそう言うなら、きっとそうなのだろう。違っていても、まぁそんな感じなのだろう。


「そんなわけで、あたしはしばらく忙しくなりそうだからね。

 だからふたりとも、良い感じで準備をしておいてね~」


 そんな話をしていると、ザインが走って戻ってきた。

 どうやら既に、今夜の宿を決めてきたらしい。


「ふふふ、どうだ!? この値段にして、焼き肉食べ放題!!

 ――酒も飲み放題ッ!!」

「……でも、お酒の方は種類に制限がありますね」

「アリアと旦那が飲みそうな酒は、大丈夫だろ?

 メルヴィナはあんまり飲まないし……!」

「完全に飲み食い自由だと、営業が成り立たないからね。

 うん、凄く良いんじゃない?」


 アリアの言葉に、ザインは顔をぱぁっと明るくした。

 ザインはやはり、強引に付いてきたこと自体には、思うところがあったのだ。


「アリアさん。ザインさんがいてくれて、良かったですね!」

「……はぁ。まぁ、そういうことにしておいてあげるよ。

 まったく、もう……」


 そう言うと、アリアはザインに飴玉を渡した。

 ザインはそれを口に入れて、嬉しそうに頬張り始める。


「――でも。ここからは本当に……あたしの言うことには、従ってね?

 もう追い返したりはしないから、さ」

「おう! 約束はできないが、約束するぜ!」

「どっちなのよ……」


 ザインの困った発言に、一同は笑い合った。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 翌日の朝、ザインが宿屋の食堂に向かうと……アリアとガルドの姿が見えなかった。

 代わりに、席にはメルヴィナがひとりで座っている。

 目の前にノートを広げて、じっと凝視をしているようだ。


「おはよう。魔法の勉強でもしてるのか?」

「……あ、ザインさん。おはようございます」


 ザインはコーヒーを注文すると、メルヴィナに向き直った。


「ところで、アリアと旦那は? まだ寝てるのかな?」

「おふたりなら、鍛冶屋に行きましたよ」

「え? 何で?」

「アリアさんが、絶対に折れない剣と、絶対に砕けない盾を作るんだー……って」


 その言葉に、ザインは大聖堂の主教が封じられたときの――

 ……あの不思議な金属のことを思い出した。

 この世界の技術では壊せない金属……きっとそれが、使われるのかもしれない。


「いいなぁ……。俺も、そういうのが欲しいなぁ……」

「余力があれば、頼んでみるのはどうですか?」

「……余力があっても、くれなさそうな気がするなぁ……」


 ヴェルガ教の多元主義派の長――と戦ったときの『ありがたいお言葉』も、自分だけは無かったし……。

 特別扱いされているような気もするが、特別扱いされていないような気もする。

 こればかりはアリアの匙加減、といったところか。

 ……ザインはそんなことを、悶々と考えていた。


「良くも悪くも、ザインさんは日頃の行いが……って感じですからね」

「そうなのかなぁ……。

 ……ところでメルヴィナは、何か貰うの?」

「私はガルドに守ってもらう予定なので、特には……?」


 そう言うメルヴィナのノートには、初めて見るような魔法陣が描かれている。

 きっとアリアから提供されたものだろうから、少なくとも戦いの場では使うはず。

 それを考えると、自分には――


「だああああっ!!」

「きゃっ!? ど、どうしたんですか!?」

「……ああ、すまん。考えが、嫌な方に行ってしまってな。

 少し、散歩してくるわ……」

「コーヒー、お待たせしましたぁ!」


 先ほど注文していたコーヒーが、このタイミングでやってきた。

 何となく気まずくなったメルヴィナは、自分のノートで顔を覆って隠す。

 一方のザインは、目をきょろきょろとさせながら――コーヒーを急いで啜っていった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 宿屋の外に出て、ザインは小さく息をついた。

 いくらアリアが同行を……結果的には許してくれたとしても、危険であることには変わりない。

 そして今は、最後の準備のチャンス……ともいえる時間だ。

 それなら自分は、何を準備すれば良いのか――


「……っていうか、アリアはどこに向かうつもりなんだ?

 メルヴィナと旦那は、着実に準備しているけど……」


 思い返せば――

 アリアがザインのことを『情報屋』と呼んでいるのは、最初にしっかり名乗らなかったのが原因だ。

 だからこそ、今度こそはしっかり目的を聞かなければいけない。

 自分の同行が断られていたことを考えれば、大聖堂やヴェルガ教の騒動よりも厄介なことには違いないのだが――


「……あれ以上、だっていうなら……。

 本当に、何をしようとしているんだ? 全然わからん……」


 詳しくは、アリア本人から聞いた方が良いだろう。

 早速今夜にでも――……とは思いつつ、まずは今この時間だ。

 ザインは自分のできることを探して、雪の街を歩き始めた。

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