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神様のギフト、配ってます(ただし返品不可)  作者: 成瀬りん
第5章 枯れて廃れた世界より
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届かない気持ち

 ――レイラが去っていった。

 ザインは宿屋の出口を見るたびに、そんなことを毎回思い出してしまう。


 あの日……突然、荷物をまとめて、泣きながら挨拶をして出ていった。

 困惑するメルヴィナとガルドと話していると、しばらくしてからアリアも部屋から出てきたが――

 ……その顔は、どこか疲れ果てていた。

 いつも元気なアリアのあんな表情を、ザインは初めて見たような気がする。


 今までは何だかんだで、上手くいっていたパーティだった。

 それがこの街に来てから、徐々に変わってきたというか――


「――ねぇ、情報屋。今日は遊びに行かない?」


 食堂でふたりきりでいると、アリアがそんなことを言ってきた。

 遊びに……というのは珍しい。買い物でもなく、冒険でもなく、遊びに……?


「おう、行こうぜ! メルヴィナと旦那は大丈夫かな?」

「あー。今日はね、ふたりで。……ダメ?」


 その言葉も珍しい。

 ふたりでどこかに行くのは今までもあったが、今日は遊びで――


「も、もちろん構わないぜ?

 よし、一緒に気分転換をしに行こう!!」


 その後、それぞれ自分の部屋に戻って、準備をすることにした。

 ふたりで外出することを念のため、メルヴィナとガルドにも伝えに行く。


「……そう、ですか。

 私はやることがあるので、今日はお任せしますね」

「アリアさんは、いろいろ背負いこみすぎているからな。よろしく頼むぞ」

「お、おう……」


 少しくらいは拗ねられたり、冷やかされたりすると思っていたが……。

 ザインはふたりの反応に、少しだけ戸惑ってしまった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 約束の時間、ザインが宿屋の外で待っていると、少し遅れてアリアがやってきた。


「ごめーん、待った?」

「うんにゃ、全然――」


 ……ザインの言葉が止まった。

 アリアはいつもの神職者の服ではなく、可愛らしい私服でやって来たのだ。

 あどけない少女が、少しだけ背伸びをしているような……。

 手を出せない可愛さと、手を出したくなる可愛さが混在している……というか。


「うん? どしたの?」

「い、いやぁ……。いつもと雰囲気、違うなぁ……って」

「あはは。いつもはこういう服、着ないからねぇ」


 ……中身はいつものアリアだった。

 顔も身長も立ち振る舞いも、いつもの彼女……。

 しかし、何かが決定的に違う――


「よっしゃ、今日は張り切っていくぞ!」

「ぼちぼちで良いよー?」


 ――ザインは考えた。

 この雰囲気は……いわゆるデートである、と。

 しかしアリアのことだから、恋愛感情は持っていないはず。

 それは今まで一緒にいたからこそ、確実に察することができた。

 ……ただ、その結論に辿り着いて――ザインは少しだけ、自己嫌悪に陥った。


「……やっぱり、お祭りでもやってないと遊ぶところが少ないねぇ」

「そういうのと比較してしまうと、そうだなぁ。……カジノでも行く?」

「今日はそういう気分じゃないかな……。また、何かに巻き込まれそうだし」

「ははは。お前の行く先は、トラブルが続くからな」

「あたし自身は、平和に暮らしていきたいんだけどねぇ」


 ……神職者でなければ。……類まれな力を持っていなければ。

 もしかしたら、アリアは普通の人生を歩んでいたのかもしれない……。

 しかし、こんなアリアだからこそ――ザインは彼女に、出会うことができたのだ。


「そうしたいなら、そうすればいいさ。

 手伝えることがあるなら、何でも手伝うぞ?」


 ザインの言葉に、アリアは静かに笑った。

 少しだけ、彼女の本心が見えたような……そんな気がした。


「……うーん。あたしもあんまり、遊んだりしないからなぁ。

 とりあえず、お洒落なカフェでも行ってみますか」

「ほう……。今日は、量より質――もとい、雰囲気を重視する日か」

「なるほど……? それなら情報屋の服も、新調してみない?」

「えぇー? そこまでは別に……」

「まぁまぁ。歩いて~……とか、おやつ食べて~……とかは、いつもやってるじゃない。

 今日は変わったことをしてみよ~♪」


 アリアはザインの手を取って、そのまま走り出した。

 ザインがどうにか付いていける速さ……アリアとしては、かなり抑えめの速さ。

 ……お互いがお互いのペースを知っている、というか。

 この辺り、ふたりでいるのも長くなってきたな――……そう、ザインは思うのだった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ――夕方の広場。

 中央には大きな池があり、少しだけ珍しい形をしていた。

 池の横のベンチに腰を下ろして、冷たい風を感じながら、ふたりは喋っている。


「やっぱりあたし、お洒落なカフェは……合わないかも」

「いやいや。どちらかと言えば、俺のコーディネートがおかしかったんじゃないか?」


 カフェに行く前、ふたりは先に服屋に寄っていて――ザインは流れのままに、私服を新調していた。

 それが似合っていたかといえば、少し……微妙な選択だったかもしれない。


「あれはあれでカッコ良かったけどねぇ。……もう、着替えちゃったけど」

「やっぱり俺は、いつもの服の方が良いからな!」

「ふーん。……そうなんだ?」


 アリアは膝に肘を置いて頬杖を突きながら、目を細めてザインを間近に見る。

 不覚にも、ザインはドキッとしてしまった。


「お、おおお――……お前は、今日の服も良いと思うぞ!?」

「あはは、何それ~。あたしが言わせたみたいじゃん?」


 屈託なく笑うアリア。

 その顔は夕陽に照らされて、一瞬の存在のように感じさせてしまう……そんな儚さがあった。

 ザインは目を逸らして、空の彼方を見つめる。


「さ、最近は元気がなかったみたいだけど……。

 何か、あったのか?」

「あー……、心配させちゃったよね。ごめんね」

「心配するのは、お前と会ったときからの……宿命みたいなものだからな」


 その言葉のあと、ザインの頬には軽く、アリアの拳が入っていった。

 ただ、それもいつものことだ。

 ……しばらくの沈黙があり、次に口を開いたのはアリアだった。


「でも、あらかた――目途は立ったからさ。

 あたしの旅も、もう少しで終わりだよ」

「そうなのか? それなら良かった――」


 ザインがアリアの方を向くと、アリアもまたザインを見ていた。

 ただ、その表情は――どこか寂しげで、悲しげで――ザインの心に、痛みが走ってしまう。

 アリアはザインから目を逸らして、ベンチから立ち上がった。

 そしてザインを振り返って、言葉を続ける。


「今日はありがとう。今まで楽しかったよ。

 ――でも、情報屋とはもうお別れ。あなたは平和に、ずっと暮らしていってね」

「は……?」


 突然の、別れの言葉。

 ザインにとって、どんな言葉よりも聞きたくなかった……言葉だった。


「――お、俺は、最後まで付き合うぞ……!?」

「ううん。今までとは比べ物にならないくらい、ずっと危険になるの。

 それに、ここからはあたしの私怨。……そんなものに、情報屋を巻き込めないよ」

「……だから――レイラは、抜けたのか?」


 ザインの言葉に、アリアは静かに頷いた。

 レイラが自分から抜けるのは信じられないことだったが、彼女もきっと、アリアから別れを告げられたのだ。


「あたし、しばらくは宿屋には戻らないからさ。

 その間に、情報屋は――」


 ……このままでは、アリアがいなくなってしまう。

 自分の手から離れてしまう。もう一生、会うことは――


「のおおおお――んッ!!!!!!」

「ひゃぁ!?」


 ザインは立ち上がりながら、絶叫した。

 意味がまるで無い叫びに、アリアは怯んでしまう。


「俺はッ! お前とッ!! 一緒に行くッ!!!!」


 動きの止まったアリアに、ザインの言葉が叩きつけられる。

 ……しばらくの沈黙のあと、呆然としていたアリアがようやく動き始めた。

 彼女はザインの前まで歩いていき、下から静かに見上げる。


「ふふ……。そんなキミだからこそ――

 ……あたしも、今まで……楽しかったんだねぇ」


 アリアは背伸びをして、ザインの額にコツン、と、自身の額をぶつけた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ザインがアリアと広場で別れたあと、彼女はずっと、宿屋に戻って来なかった。

 ガルド曰く――ザインがいなくなったあとに、戻って来るとのことだった。

 ……そして数日後、ザインの姿は宿屋から消えていた。

 次の朝、全員が旅支度を整えて、宿屋の外に集まった。


「ふたりとも、お待たせしたねぇ。それじゃ、今日から北の方に向かうよ~」

「はい、頑張りましょう!」

「おう、任せておけ!」


 ――この街に来たときは5人もいたのに、今では3人になっている。

 やはり正直、寂しいという気持ちが先に立つ――


「……ところでガルドさん。大きい荷物はあたしが持ちますよ?

 帽子に入れていけば、楽ですし」

「あ、ああ……。いや、これはいいんだ」


 ガルドの背中には、巨大な木箱が担がれている。

 大人のひとりくらい、余裕で入りそうな……そんな大きさだ。


「ふーん? 中身、見せてもらってもいいですか?」

「いや、今はもう出発の時間だろう?」

「そ、そうですよ!

 次の街ででも、確認すれば良いじゃないですか?」

「ですよね、お嬢さん!」

「そうよね、ガルド!」

「――はぁ……。

 何だかもう、仕方が無いなぁ……」


 アリアの言葉に、メルヴィナとガルドはほっと息をつく。

 そんな彼らを見ながら、アリアは静かにガルドの後ろにまわって――

 ……ガルドの背中の木箱を、軽く蹴り上げた。


「うぉっ!?」

「あああ、アリアさん!? 何をするんだ!?」


 立て続けに聞こえてくる、ふたりの男性の声。

 その横では、メルヴィナも何やら焦っている。


「あー、もう……。

 アリアちゃんと愉快な仲間たちは、もう解散かぁ……」

「な、何を言っているんですか! 私たちは、ずっと一緒ですよ!?」

「はい、はい……。『私たち』……ね」


 アリアが木箱の方を見ると、ガルドと目が合った。

 ガルドはバツが悪そうに、口笛を吹きながら目を逸らす。


「――もう、いいよ。それじゃ、出発しようか」


 アリアとメルヴィナ、ガルドとその荷物は――静かに街を、後にしていった。

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