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神様のギフト、配ってます(ただし返品不可)  作者: 成瀬りん
第5章 枯れて廃れた世界より
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別れの言葉

 レイラは最近、街のあちこちを回っていた。

 アリアの元気がずっと無いため、何か気晴らしになるようなものはないか……と探していたのだ。


「うーん……。これは……ダメかな」


 骨董品屋でよく分からない置物を見つけるも、これは今ではない――と、元の位置に戻す。

 いつもの元気なアリアであれば、ノリノリでツッコんでくれるとは思うけど……。

 ……レイラはふと、寂しさを覚えてしまった。


「アリア様は、普段は神職者の服を着ているし……。

 アクセサリとかはダメだろうから……うぅーん……」


 よくよく考えてみれば、レイラはアリアのことをよく知らない。

 前世からの繋がりはあるものの、記憶は曖昧な部分がほとんどだし……。

 ……記憶が完全に戻れば、誰よりも愛される自信がある。

 しかしそれにしても、アリアのまわりには、彼女のことを好きな人が多すぎる。

 それがレイラの本心であり、自慢したい気持ちと嫉妬の気持ちが、ごちゃ混ぜになっていた。


「……はぁ」

「よぉ、お嬢ちゃん♪ 今、ヒマ~?」

「忙しいですー」


 いかにも軽そうな男がレイラに声を掛けてくるも、彼女は見事なスルーを決めた。

 しかし嫌な気配を感じて、右腕を慌てて引っ込めると――

 ……何も無くなった虚空を、男の手が掴んでいた。


「お……? 凄いな、気配を読めるのか?」

「よ、読めないですけど……。暴力は、反対です……っ!」

「そうだよな。平和にいかないとな?

 だから、俺と一緒に楽しいことをしようぜ!?」


 楽しいこと――……それをしてあげれば、アリアは喜んでくれるだろうか。


「それって、何をするんですか!?」

「ふふふっ。お嬢ちゃんも好き者だねぇ♪

 それじゃ向こうに廃墟があるから、そこでやろうぜ!!」


 嬉しそうに話す男に、レイラは明らかな嫌悪を感じた。

 どう考えても、自分にとっては面白くないこと――

 ……アリアのことは喜ばせたいと思う彼女だったが、自分が嫌なものは……嫌なのだ。


「……あ、やっぱり帰ります」

「おいおい! 今さら、それはないだろう!?」


 男は簡単に苛立ち、レイラに迫っていく。

 このままでは自分が危ない……そう思ったレイラは、何とかこの場を収めようとする。

 魔法は危ないから……こういう場合は痛くなりそうな場所を――

 ……レイラは、男の股間を杖で思い切り殴った。


「ぐおッ!? ぐあおおぉ……ッ!?」

「あ……。ごめんなさい、そんなに痛い場所だったんですね……!!

 怪我をしてたら申し訳ないので、治癒薬を使わせて頂きます!!」

「……あぇぁ……? ……お……い? ちょ……っと、待って――」


 ――後ずさりする男の股間に、レイラは治癒薬をどぼどぼと掛けた。

 そして男の絶叫が――切なく街に、響き渡っていった。


 ……レイラが宿屋に戻ると、既に夕食の時間は過ぎていた。

 食堂のいつもの場所では、アリア以外の3人が何かを広げて遊んでいる。


「ただいま戻りました。……アリア様は?」

「さっきまでいたが、もう部屋に戻ったぞ」


 ザインとメルヴィナの将棋の戦いを眺めながら、ガルドが言った。


「今日も、ですか……。ところでコレ、何をやってるんですか?」

「将棋……という、昔のゲームだ。アリアさんも、さっきザインを倒していったぞ」

「へぇ……。アリア様って、こういうゲームもやるんですね……」

「レイラもやってみるか? なかなか頭を使うゲームなんだ」

「えへへ。私、難しいことは苦手でして……」

「……魔法使いなのに?」


 レイラはそのまま、しばらく舟を漕いでから……静かに寝入ってしまった。

 アリアに好意を寄せて、感情のままに追い掛け続ける――レイラ。

 これからのアリアのことを考えると、ガルドは複雑な気持ちになってしまった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ――数日後の朝。

 食堂で全員が集まると、アリアとメルヴィナの目には薄いクマができていた。

 アリアはまた夜更かしをしたのか……と思いつつ、レイラはいたわるように声を掛けた。


「アリア様、おはようございます。昨日も遅かったんですか?」

「おはよー。……うん、ちょっと話し込んじゃってねぇ」


 話し込む……というのは、誰かしら相手が必要なことだ。

 今回は状況的に、相手は……メルヴィナだったのだろう。

 メルヴィナはといえば、無理に笑っているようにも見えるが、どこか沈痛なものを感じた。

 何があったのかは分からないが、きっとふたりだけの、深い話をしていたのだろう……。


 朝食後も、アリアの様子を見ながら追い掛けていると――

 メルヴィナが、アリアの部屋に入るのを見つけた。

 しばらく外で待っていると、メルヴィナは大きな紙を持って出てきた。


「メルヴィナさん、それは何ですかー?」

「あれ、レイラさん? ……これは、宿題です」


 眉間にシワが寄ったような、頬が引きつったような……。

 紙は折り畳まれてはいるものの、描いてあるものが少しだけ見えた。


 一番外側の曲線から察するに……全体としては円。

 その内部には、細かくいろいろと描かれている。

 ……つまり、この紙に書かれているのは――巨大な魔法陣だ。


「もしかして、アリア様から魔法を教えてもらってるんですか!?」

「ううん、そうじゃなくて……。

 私の異能で、この魔法陣を寸分たがわずに出せるように……って頼まれて」

「ふえぇ……? そ、それは大変ですね……!?」

「……ええ、本当に。

 やることが多いので、とりあえず部屋に戻りますね……」


 そう言うと、メルヴィナは少しだけ肩を落としながら、静かに去っていった。


 ……あの魔法陣は何だろう?

 今まで勉強してきた魔法の中で、あんなものは見たことが無い……。

 だから、あれは……普通の魔法陣ではない。何か、特別な意味があるものだ。

 そう感じたレイラは、勢いよくアリアの部屋に入っていった。


「アリア様!!」

「レイラ!? ……突然、どうしたの?」

「アリア様は、どこか危ない場所に行くつもりなんですか!?」


 ――メルヴィナからそう聞いたわけではない。

 ただ、あの魔法陣と……自分の直感力から導かれた、ひとつの可能性――

 アリアも何となく、そうであることを察していた。


「……はぁ。まぁ……そうだね」

「それなら、私も連れて行ってください!」


 レイラの求めに、アリアは……いつもより素直に、きっぱりと断った。


「ダメだよ、今回ばかりは。本当に命の保証が無いの」

「それなら尚さら……。

 私の才能が――『直感の才能』が、少しでもお役に立つと思うんです!」

「確かにそれは、あったら嬉しいんだけど……。

 でも、誰もレイラのことを守れないの。きっと、そうなるから」

「私は大丈夫ですから……! お願いだから、連れて行ってください……!!」


 レイラの必死の訴えに、アリアは優しい目を見せた。

 レイラと出会ってから、向けたことの無い眼差し。

 はた迷惑な子だと思っていたけど、前世の話なんて持ち出してくるけど、こんなにも思いをぶつけてくるなんて――……そんな、眼差し。


「あたしを大切に思ってくれて、ありがとう。

 でも……あなたには、生きていてもらいたいの」


 アリアは椅子から立ち上がって、レイラの前まで歩いていく。

 そして……アリアはレイラの頭を、優しく撫でた。

 ……別れを惜しむように。……慈しむように。


「だから、これで――……さよなら」


 ――しかしその瞬間、レイラの中で何かが弾けた。

 自分はこの手の温もりを……知っている。この言葉を、知っている。


 これはまさに、彼女の前世……自分に向けられた、別れの瞬間の――

 ……そのときの光景が、鮮やかな視覚となって頭を満たしていく。


 誰かに与えられた記憶ではない、自分だけの記憶。自分だけの感情。

 かつては理解できなかった――オルビスという響きの存在。失ってしまった――目の前の存在。


「……わかりました、アリア様……」


 レイラの両目から、大粒の涙が流れ出す。彼女はそれを、両手で必死に拭おうとしている。

 隙間から零れる涙は地面に落ちていき、濡れた跡を広げ続ける。


「――アリア様。アリア様は――

 ……私たちの仇を……、討ってくださるんですね……?」


 アリアは驚いた。

 『私たちの仇』――……そんな言葉、普通であればレイラから出てくるはずがない。

 アリアの頭を、疑問と仮定、推察と否定が駆け巡る。


「……レイラ?

 あなた、もしかして本当に――」


 アリアの言葉を遮り、レイラは涙を切りながら、何とか……満面の笑顔を作り出した。

 ……そして、アリアに別れを告げる。


「……私は、アリア様のために、生き続けます。

 だから絶対に――アリア様も、絶対に生き残ってくださいね!!」


 レイラはくるりと翻ると、そのまま走って去っていった。

 突然の言葉に、アリアは――……そこから動くことを、心が拒絶していた。

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