表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様のギフト、配ってます(ただし返品不可)  作者: 成瀬りん
第5章 枯れて廃れた世界より
55/68

魔力のない世界

 街を発って2日後、アリアたちは広大な氷原を歩いていた。

 空は雲に覆われ、地平線の彼方は白い靄がかかっている。

 見るからに寒々しい光景。……実際、肌に感じる冷たさも想像以上だった。


「ここが――

 ……アルパセルの門」


 そこは何も無い場所だったが、地面には――石畳のようなものが、かろうじて見えた。

 大きな円の紋様が薄っすらと、今となっては既に朽ち果て、過去の残骸だけが取り残されている。


「神話に謳われる、神の世界への入口……。

 ……これが?」


 その名前自体は、大聖堂にも伝わっている。

 しかしそれが、こんな場所にあるだなんて――メルヴィナには、思いも寄らなかった。


「ここがアリアの旅の、目的地なのか?

 ……何も無いじゃないか」

「そりゃ、ここはただの入口だからねぇ」

「アリアさんは、ここからの進み方を知っているのか?」

「ふふふ、もちろん。ただ、入ったらもう後戻りは――」

「できないんだな!?」


 アリアの言葉の途中で、ザインが力強く言った。


「……ごめん。転移スクロールを全員に渡しておくね」

「後戻り、できるのォ!?」


 ザインの言葉に、アリアは小さく笑う。


「戻ることはできるよ。でも、一度でも逃げちゃえば……もう、オルビスは倒せないだろうね。

 あたしには今以上の隠し玉はもう無いし、時間を空けてしまえば……対策を取られちゃうから」

「……なるほど。気軽には逃げられない、と」

「でも、これはあたしの戦いだから。

 みんなは命を優先にして、逃げるときはちゃんと逃げてね」


 アリアの言葉に、全員が静かに頷いた。

 本当なら頷きたくはなかったが、全員、少しでもアリアを安心させようとしたのだ。


 ……それぞれが最後に、持ち物を確認する。

 少しばかりの休憩を取ってから、アリアは地面にある円の紋様の何か所かに――宝石のようなものを埋め込んだ。

 そして杖を掲げて、円の中心に向かって突き下ろす。


 直後、眩い光が地面から溢れ出していき――

 ようやくそれが収まると、4人の姿も……そこから消え去っていた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ――次に気が付いたとき、全員の前には白い世界が広がっていた。

 地面は白く、空も白い。

 見据える先には白く巨大な建物があるが、それ以外は何も無い――


「ここが、オルビスの住む世界……?

 帰り道も……なさそうだな」


 最初に声を出したのはザインだった。

 その言葉の通り、地面には目印になりそうなものが何も無い。

 つまり、一度でも離れてしまえば……この場所に戻って来ることは、もう不可能だろう。


「う……、寒い……? でも、これは……気温が低いだけじゃない……?」

「メルちゃん。ここでは魔法は使えないから、注意してね。

 ……魔力自体が、無い世界だから」

「え……? 魔力はオルビス神の加護であるはず……。

 それなのに、この世界には無いんですか?」

「うん。あれは、人間の世界を制御する力だからね」

「ふむ……? 魔力というのは、神から人間に与えられた贈り物――

 ……そう教えられてきたが、違うのか……?」


 アリアの言葉を受けて、ガルドは様々な思考を巡らせる。


「ちなみに、異能は使えるから。

 メルちゃんの『光の饗宴』も、ガルドさんの『狂戦士化』と『狂気無効』もね」

「異能は……教義によれば、『オルビス神から特に愛された証』とされている。

 さすがにこれは、使えるんだな」

「異能や才能は、オルビスが生まれる前から存在していますからね。

 だからその教義は、求心力を高めるための後付けですよ」

「……ぬぅ。聞いていた話と違い過ぎて、頭が痛くなってくるな……」


 アリアとガルドの話を、メルヴィナは静かに聞いている。

 自分では客観的に判断できない――だから、思考が停止している面もあるのだろう。


「そうすると、ここからは異能で戦えば良いってわけだな!

 ……つまり俺は、本当に役立たずじゃねぇか!」

「いや……うん。

 だから、ここに連れてくるつもりは無かったんだけど……」


 アリアはそう言いながら、帽子から金属製の塊を出して――それをザインに手渡した。

 ザインは咄嗟に受け取ってしまったが、それを間近に見て、すぐに驚く。


「こ、これ!? これはもしかして――」

「知ってるの? これは、銃……って武器。

 右手で持って、左手を添えて……それで引き金を引くと、弾が出るからね」

「えええ!? 銃って、伝説上の武器じゃなかったの!?」

「オルビスが生まれる前はね、世界にたくさん流通してたんだよ。

 でも、世界に魔力が満ちてからは――使うと、ボンッ!!」

「爆発……、するの……? ええ、何で……」

「オルビスが、人間の力を制限したかったから。

 せっかく世界を支配したのに、やり返されるのは嫌でしょ?」


 ザインは銃をひたすら眺め、メルヴィナとガルドは頭を抱えて考えをまとめている。

 何はともあれ、アリアの話が正しいのかは分からないが――様々な情報で混乱しているのは確かだ。


「……さて。こんな世界にずっといるわけにもいかないし。

 そーれ、暖房の魔法~♪」


 アリアが杖で全員に触れていくと、それぞれの服が温かくなってきた。

 指先や顔など、肌が出ているところは引き続き寒いものの――それでも、かなり動きやすくなっている。


「……あれ? お前、魔法使った?」

「前にも言わなかったっけ?

 あたしの魔法は、魔力じゃなくてカロリーを使うんだよ」

「そういえば、そうだったな。お前は本当に、オルビスのことが嫌いなんだなぁ……」

「……もしかして、アリアさんがいつも言っていた『神様の意思』って――

 他にも、神がいる……ってことなんですか?」

「あはは。神様の定義次第、かな~?」


 アリアはそれだけ言うと、遠くに見える……巨大な建物に向かって歩き始めた。

 それを見て、他の3人もアリアを追い掛けるように付いていった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 巨大な建物に近付いていくと、それは城のような大きさをしていた。

 いわゆる城……ではないものの、何かしらの超越した存在が居ることを感じさせる。

 そんな中、アリアたちはいつの間にか、周囲を囲まれてしまった。

 ――金属製の、蜘蛛のような外見。高さは2メートルくらいで、8本の足が身体を支えている。


「な、何ですか、これ!?」

「魔物か!?」

「そんな大したものじゃないですよ。

 人間の知識を元に、オルビスが作った……ただの機械です」


 そう言いながら、アリアは杖で殴りつけた。

 かなりの重量はありそうだが、それでも蜘蛛型の敵は飛ばされていく。


「ただの機械……って言ってもなぁ。

 俺はあんなに精巧な機械なんて、見たことが無いぞ……?」


 ザインがぼやく間にも、蜘蛛型の敵はどんどん押し寄せてくる。


「私は――支援魔法も使えませんし、お役に立てそうにないです……!」

「お嬢さん、オレの後ろに!!」


 ガルドはメルヴィナを誘導すると、上手く立ち回って敵を斬りつけた。

 敵は金属製ではあるものの、アリア監修の剣によって――刃こぼれを気にすることなく、力強く暴れることができる。


「えぇっと、俺は――よし、この銃で……!!」


 ザインは銃を構えて、敵の1体を狙って引き金を引いた。

 すると大きな銃声と共に、敵が吹き飛ばされた……が、ザインも反動で後ろに吹き飛ばされた。


「――うおぉ!? 強いけど怖ぇ!!」

「おー。初めて撃ったにしては、上出来だねぇ。

 ……試射しても良かったのに」

「それ、早く言ってよ!?」

「あはは、結果オーライ♪」


 アリアは努めて、いつも通り明るく振る舞った。

 異常な世界で、異常な敵と対峙している――

 だからこそ、自分が率先して……少しでも軽い空気にしていかなければいけない。


「――全部を倒してる場合じゃないね。みんな、入り口に走るよーっ」

「承知した!

 ――『狂戦士化』!!」


 ガルドが異能を使うと、彼の身体は張り裂けんばかりに膨らんだ。

 その力を利用して――周りの敵を、次々に剣と盾で弾き飛ばしていく。


「メルちゃんは、情報屋と一緒にガルドさんの後に続いて!!」

「アリアさんは!?」

「しんがりを務めまぁす!」


 そう言いつつ、追い掛けてくる蜘蛛型の敵を杖で弾き飛ばしていく。

 ただ、致命傷にはなっていないようで――すぐに復帰を許してしまう。


「くうぅ……。無力なのが情けない!」

「私も、同感です……!」


 ザインとメルヴィナが嘆く中、アリアは帽子から銃を取り出した。

 くるくるっと2回転させて、蜘蛛型の敵に撃ち放つ。


「うーん。やっぱりあたしは、杖の方がしっくり来るなぁ……」

「……俺より上手いところ、無駄に見せつけられたァッ!!」

「アリアさんと張り合うのは、無駄なことですって……」


 敵を振り払いながら、4人は巨大な建物まで走った。

 そしてようやく入口に着いたものの――

 ……そこから小一時間ほど、敵の殲滅に時間を費やしてしまった。


「ふぅ……。アリアさん、お疲れ様」

「ガルドさんも、ありがとねぇ。

 情報屋とメルちゃんも、生き延びて何より~」

「ザインさんはともかく、私は本当に逃げてばかりでした……」

「俺は……少しだけ、銃の扱いに慣れてきたぜ!

 これなら俺も、戦力になれる……ッ!!」

「そんな情報屋に悲報です」

「え?」


 アリアはザインに、少し重量感のあるものを手渡した。


「これが、最後の弾ね。残り6発ぅ」

「……マジデ?」


 ザインは床に崩れ、激しく後悔をしていた。

 もう少し、弾を節約しながら撃っていれば……と。


「しかし、それにしても――魔法の使えない世界に、刃も通らない敵と来たもんだ。

 本来だったら、どう攻めれば良いんだ? こんなのは王国の騎士団だって、手に負えないだろう」

「攻められないように、魔法と普通の武器以外を発展できないようにした――

 っていう面も、あるんですよねぇ」

「……重ね重ね、オルビスは細かいことを考えるなぁ。

 もしかして、オルビスっていうのは……人間なのか?」


 ザインの言葉に、メルヴィナの身体が震えた。

 ずっと超越的な存在と信じていたものが、自分と同じ人間であるはずなど――


「ううん。オルビスは人間ではないよ」

「それなら……一体?」

「まぁ、先は長そうだし……。話しながら行こうか」


 巨大な建物の入口は、アリアとガルドの攻撃によってこじ開けられた。

 そして4人は、建物の中に足を進めるが――

 内部には巨大な空間が広がっており、金属製の箱や板が大量に置かれ、細長いロープのような線が整然と張り巡らされていた。


「……うはぁ。

 何だこれ、見たこともねぇ……」


 しばらく進むと、巨大な階段が目に入ってきた。

 そのすぐ横には、金属製のプレートが取り付けられている。


 Omniscient Recursive Balance Integration System

     ≪全知循環均衡統合システム≫


 ――ザインだけが、その文字を目で追っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ