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神様のギフト、配ってます(ただし返品不可)  作者: 成瀬りん
第4章 生命の満ちる場所
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荒野の大爆走

 ザインとガルドの得た情報を元に、ヴェルガ教の多元主義派の根城は3か所まで絞られた。

 もしかすると他にもあるかもしれないが、今のところはこれが限界――

 ……そんな中、アリアに叩き起こされたレイラが示したのは、1つの廃城だった。


「……遠いな。他の2か所の方が近いし、そこから確認しても……」

「そうすると、それだけ時間が掛かっちゃいますからねぇ」


 レイラが廃城を示したのはただの直感である。

 だからこそ、いざとなると……ガルドはやはり、素直に同意することができなかった。

 ……この地方の地図を広げて、全員で考える。


「大きく迂回すれば、他の2か所をまわった上で、廃城に行くことはできる。

 ただ、そうすると時間が掛かるから……。最低でも、馬車ではなく馬を使った方が良いな」

「んー。二手に分かれて、全部確認しよ~、って話になるのかな?」

「旦那の心配を考えれば、そういうことだな」

「でもそうすると、他の2か所がアタリだった場合は……どうするんですか?」

「その場合は、どうにかして馬車組を呼ばないといけないねぇ」


 この世界において、遠距離同士で連絡し合う手段は少ない。

 例えば教会などには連絡用の水晶があるが、持ち歩きができるものではないし――


「アリアの魔法でどうにかできない? 割と何でもできるイメージなんだけど……」

「そういうことは出来ないんだよねぇ。

 ……んー、メルちゃんって、『光の饗宴』はどれくらいの大きさを出せるの?」

「はぁ……。精巧なものは大きくは無理ですが、単純なものなら……100メートルくらいでしょうか」

「おー、凄いね。

 それじゃ、時間を決めてサインを出せば、双眼鏡を使えば見えるかな?」

「アタリかハズレかを、私の異能で伝える……ということですよね?

 そうすると、私は馬組になるわけですが――私、馬って乗ったことが無いんです……。

 そもそも、どなたか乗れるんですか?」


 メルヴィナの質問に、アリアとザインが手を挙げた。

 ガルドは……半分だけ、手を挙げた。


「オレは身体が大きいからな。乗れはするが、馬を選んでしまうんだ」

「乗れる馬がいても、スピードは遅くなりそうですからねぇ……」

「途中でアタリがあったら、馬車組が来るまでに何ができた方が良いだろう?

 それなら馬組は、アリアとメルヴィナがいいんじゃないか?」

「そうだな。地図を読むのはオレが得意だから、お嬢さんのサインを見るのはオレが受け持とう」

「それなら俺は……まぁ、旦那がやりやすいように、雑用でもしてるよ」

「あはは、情報屋はそういうのが得意だもんねぇ」

「もっとカッコいいところを、担当したいんだがな!?」


 話が収まりかけたとき、もうひとり……レイラの声が聞こえてきた。


「ところで、私はどちらに行けばいいですか?」

「え? レイラは来なくても良いよ?」

「えぇ……!? 今、アリア様は困っているんですよね!?

 アリア様はいつも、私がいない間に消えてしまうんですから! 今回は連れて行ってください!!」

「えー……?」


 アリアは助けを求めるように、他の3人に視線を送る。


「うーん、何があるか分からないからさ。レイラはここで別れよう」

「いやです、いやです、いやです!! 私も手伝いたいんです!! 絶対に手伝います!!」

「ああぁー……」


 レイラの言葉に、アリアの力が抜けていく声が重なる。

 強く突っぱねれば置いていくことも可能だろうが、それができないのは……アリアが振り回されている証拠なのだ。

 ……そんなことを、ガルドは思った。


「レイラさんは魔法使いなんだろう?

 安全は保証できないが、それでも行きたいと言うなら――馬車組だな」

「ええぇ!? 私はアリア様と一緒が良いです!!」

「んー、レイラは馬には乗れないでしょ? それなら、最低ラインは……馬車組、だねぇ」


 アリアがそう言うと、レイラはメルヴィナを羨ましそうに……強い視線で見つめた。

 メルヴィナにも、アリアの苦労が身に染みて伝わってくる。


「わかりました……。それでは、私は馬車組ということで……」


 レイラはアリアをちらっと見た。

 アリアが小さく頷くと、レイラは嬉しそうに身体を揺らす。


「それじゃ、今晩のうちに準備できるものはして――

 ……あとは早朝、近くの街から出発しますか」


 一同は頷いて、その日の話はどうにか終わった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 馬組――アリアは手綱を握り、馬を走らせていた。

 メルヴィナはアリアの腰にしがみついているだけだが……それだけで精一杯だった。

 目に入る景色からは緑が徐々に減っていき、馬は広い荒野を駆けていく。


「きゃあああああぁ……! アリアさん、もっとゆっくり、ゆっくりいいぃ……!!」

「ごめーん、時間が無いからがまーん♪」


 馬が地面を蹴るたびに身体が浮き、慣れない衝撃が突き抜ける。


「普通ッ! こういうのってッ! 私がッ! 後ろにッ! なるものッ! ですかッ!?」

「喋れるくらいには、慣れてきたみたいだね? はい、スピードあーっぷ!」

「きゃっ、きゃああああぁーっ!!?」

「余裕があったら、馬に治癒魔法を掛けてあげてね~」

「余裕ッ! なんてッ! ないッ! ですぅうううううッ!!!?」


 メルヴィナの絶叫は、荒れた大地の彼方に消えていった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 馬車組――ザインとガルド、レイラの3人は、街で手配した馬車に乗っていた。

 御者はガルドも知っている青年で、真面目な仕事ぶりには定評があった。

 3人は馬車の中で仮眠を取っていたが、そろそろ睡眠も十分な頃合いだった。


「はぁ……。それにしても、こっちは平和なもんだなぁ」

「アリア様がいたら、楽しかったのに……」


 レイラはしゅん、としながら、自分の杖をいじっている。


「今は時間が優先だからな。それに……馬は、馬車ほど楽じゃないぞ?」

「ああ、そうそう。きっとアリアも、無茶な走りをしているだろうからな。

 ……たぶん、馬の限界を見極めて、全力を出していそう……」

「ははは。確かにアリアさんなら、そうしそうだな」


 ザインとガルドが話す中、やはりレイラは話に入りにくい。

 レイラは静かに、遠くを眺めていた。


「おっと、そろそろ時間だな。えぇっと、方角的には――」

「あれ、じゃないですか?」


 レイラの指差す先の空には、何かイガイガした形の光が浮いていた。

 ……球状の形ではない。つまり、ハズレというサインだ。


「一応、時間と方角をチェックして……。

 うん、間違いないな。レイラさん、おかげですぐに見つけることができたよ」


 そう言いながら、ガルドはついつい、レイラの頭に手を伸ばす。

 しかしレイラは、そんなガルドの手を素早く避けた。


「私の頭は、アリア様しか撫でちゃダメなんです!」

「……ははっ、なるほど。悪かったな」


 ガルドは笑いながら、レイラに言った。

 レイラとしても、少しだけ……緊張が解れた気がした。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 馬組からの2回目のサインも、ハズレだった。

 つまり今のところ、やはり本命はレイラの示した廃城――

 ……そしてそれは、彼らの目の前に見えてきた。


 自然の痕跡はあちこちにあるが、今、生きている植物は見えていない。

 荒れた大地の高台に、無機質にそびえる……そんな巨大で、崩壊が進んだ城。

 高台の下には大きな湖が広がっているが、そこにも生き物が暮らす気配は無い。


 ――ザインたちは御者の青年に金を渡して、少し離れた場所で待っていてもらうことにした。


「ふむ……。人影は……いるな」

「オレとしてはすぐに突っ込みたいところだが……。

 安全に倒すなら、アリアさんを待つべきだな」


 ガルドが想像よりも冷静なことに、ザインは安心した。


「2回目のサインがあった時間と、距離から推測すると……。

 アリアたちが来るのは、1時間後くらいか?」

「……悩ましい時間だな」


 時間は既に、夕方を迎えそうになっている。

 仮にここにフィオナがいなければ、調査はやり直し……そんな不安も、もたげてくる。


「そもそも多元主義派は、そこまでの人数はいないんだ。

 だから、個別撃破を狙っていく、というのもアリだな」

「なるほど……。とはいえ、レイラもいるからな」

「が、頑張ります……!」


 レイラについては、馬車の中で御者と一緒に待っていても良かったのだが……。

 しかしここまで来てしまったのなら、まぁ仕方が無い。


「とりあえず、城の見張りを先に倒しておくか。少しくらい、時間の短縮になるだろう」

「ふむ、そうしておくか」


 ザインとガルドはゆっくりと、廃城の門に向かって行く。

 ヴェルガ教のローブを着た男がふたり、周囲を見回していたが――

 ……ひとりはザインによって、あっけなく倒された。

 もうひとりはガルドの鉄拳を食らい、そのまま服を脱がされ、物陰に連れていかれる。


「おい、ここに聖女様はいるのか!?」

「ひ、ひぃ!? お前は何者だ!?」

「いるのか、と聞いている!!」

「服っ! 服を着させてくれ……!」

「ダメだ! 着たければ、早く言うんだ!!」


 なかなか言うことを聞かない見張りに、ガルドは苛立ってきた。

 そんなガルドを、ザインはどうにか冷静にさせようとする。


 しかし一瞬、ふたりが目を離した隙に――

 ……その見張りは、両手を上に掲げて、魔法陣を作り出した。


「うおおおおッ!! ヴェルガ教、万歳ッ!!」

「ダメでーすっ♪」


 しかし突然現れたアリアが、杖を勢いよく横に払った。

 見張りの両腕は真横から強打され、おかしな方向に曲がってしまう。


「アリア!?」

「はーい、アリアちゃんですよー。

 どうしたの? 拷問でもしてた?」


 漂々と聞いてくるアリアの横では、膝から崩れ落ち、顔を地面に擦り付ける見張りの姿があった。

 そんな場面に、ふらふらと歩くメルヴィナと、ちょこちょこと走るレイラが追い付いてくる。


「――あたしが拷問しても良いんだけど、可愛い子には見せられない光景だからねぇ。

 時間も無いし、一気に突っ込んじゃう?」

「そうだなぁ。……お前がいるなら、それが手っ取り早い気がするよ」


 全員、その提案には問題なかった。

 ただ唯一、問題があるとしたら――メルヴィナの疲れ果てた表情……だけだった。

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