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神様のギフト、配ってます(ただし返品不可)  作者: 成瀬りん
第4章 生命の満ちる場所
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失踪

 翌朝、ガルドがフィオナの部屋を訪ねると――そこには誰も、いなかった。

 突然の光景に、ガルドの鼓動が速くなる。穏やかな日が、それだけで壊れていった。


「アリアさん! フィオナ様を見なかったか!?」

「え? あたしも起きたばかりで――」


 しかしアリアは何かを察し、1階の全ての部屋を見てから、2階に向かう。

 当然のように、どこにもフィオナは見えない。


「もしかして……攫われた?」


 ガルドは先に起きており、アリアと同様、全ての部屋の状況を把握していた。

 ……ただ、フィオナの部屋を除いて。

 そんな折、ザインとメルヴィナが外から戻ってきた。


「ただいま戻りました。今日も天気が良くて、散歩日和ですよ。

 ……あれ? どうかしました?」

「フィオナさんがいなくなったみたいなんだけど……外で見なかった?」

「うん? 裏の倉庫に向かったのは、早朝に見たぞ?」

「お前は何で、そんな時間に外にいたんだ?」

「いや……昨日の無理が祟ってな。

 凄い筋肉痛だったから、軽く運動をしてたんだよ」


 確かに重い塩を全力で運んだり、懸命にヌシのヌメヌメを取っていたからな……と、全員が納得する。

 ガルドは急いで、裏の倉庫に向かった。


 ――そこには誰もいなかった。

 ただ、倉庫の扉だけは開いたままになっていた。


「フィオナ様は、几帳面な方なんだ。

 扉の締め忘れなど、今までにしたことは無い……」

「情報屋は昨日、塩を取りにきたよね? そのときは、ちゃんと閉めた?」

「もちろんだ。指差し確認を3回もやったから、確実だぞ!」


 ……とすると、フィオナはこの場所で攫われたことになるのか。


「ガルドさん、何か心当たりはありますか?」

「ぬぅ……。大聖堂では、主教と大司教が失脚したと聞く。

 もしかしたら何か関係が……?」

「確かに主教殿は、フィオナさんの情報を持っていましたけど――

 それは異端諮問局が入手しましたからね。オリバー様なら、その辺りは問題ないはず……」

「それなら、この前潰したヴェルガ教とかは?

 司祭長はアリアが倒したけど、あそこも聖女を探してただろ」

「ふむ……。ヴェルガ教か……」


 ザインの言葉に、ガルドは考え始めた。

 しかし明らかに動揺しており、集中することができていない。


「ガルドさん、落ち着いて。飴玉あげますんで」

「お、おう? ……実際、今にも走り出したいくらいなんだが――

 ヴェルガ教なら、オレも以前に調べたことがある。

 ……アリアさんたちが倒したのは、司祭長……レナルドの方か?」

「はい。本人は倒しちゃいましたけど、信者の生き残りなら、街に連行してもらいましたよ」

「……というと、今回の件はその残党か……?」


 ガルドは宙を仰ぎ、考えを整理する。

 アリアにもらった飴玉が、何となく助けてくれているような気がした。


「――もしかして、ヴェルガ教の……多元主義派か?」


 初めて聞く名前に、全員の視線がガルドに集中する。


「それって、何ですか?」

「ああ。ヴェルガ教の主流派……原理主義派と意見が合わなかった奴らだ。

 教理に対して、違う解釈をしてドロップアウトした……という連中だな」

「オルビス教でいう、異端……みたいな感じか?」

「んー、ちょっと違うかな。

 ヴェルガ教の場合は、『ぼくのかんがえた最強の信仰』みたいな違いがある感じ?」

「……分かりやすいような、分かりにくいような」

「でも、急いでお助けしないと! ガルド、どこに行けば良いか、心当たりはある?」


 メルヴィナも慌てている。

 フィオナが聖女だということもあるが、既にひとりの人間として、好きになっていたのだろう。


「実際、今までは無視していい存在だったからな……。

 ……慌てても仕方が無い。ご無事を祈りながら、ひとつひとつ進めていこう……」


 ガルドは拳に力を入れながら、そんな言葉を振り絞った。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 時間に余裕は無い。

 ……そんな確認はするまでもなく、それぞれ全員に役割が与えられた。


 ガルドは顔なじみの情報屋を訪れ、ヴェルガ教についての情報を探し始めた。

 ザインは情報屋として近隣の街を訪ね、独自に情報を集め始めた。

 アリアは持ち前の話術で、様々なところで聞き込みを始めた。

 そしてメルヴィナは――

 ……ひとりで出来ることもなく、危ないながらも、丸太小屋で留守番をすることになった。


「……本当。私って役立たず……」


 辺りの様子を探りながら、怪しい人がいないか、怪しいものがないか……念のため、確認していく。

 既に何度も確認は終わっているが、それでも何かを……と、常に動きまわる。

 そんな折、見知らぬ婦人が森の中をやってきた。


「こんにちは。フィオナさんかガルドさんは、いらっしゃる?」

「あ、こんにちは。

 えっと……今はどちらも不在です。私は留守番を頼まれていて」

「あら、そうなの。川の水のことで、相談に来たんだけど」

「川の……? よろしければ、私が伺います」


 メルヴィナは庭のテーブルに案内して、お茶を淹れて話をすることにした。


「この森から流れる川があるでしょう?

 たまに、水が濁ってくるのよ。特に昨晩は、それが酷くて」

「滝つぼのヌシが、悪さをするんでしたよね。

 昨晩というと――……ああ、昨日の夕方くらいに、ガルドさんがヌシを討伐したんです。

 そのあと、濁ってしまったのでしょうか」

「あら! あらあら! それって本当?

 それじゃ、これからは綺麗な水を安心して使えるのね!」


 婦人は嬉しそうにはしゃいだ。

 そもそも水が濁っていなくても、自分が使う水源に魔物がいる……というのは気持ちの良いものではない。

 しばらく喜びの声を聞いていると、婦人はハッとした顔で言った。


「実はね、また問題が起きたんじゃないかって……冒険者ギルドで、討伐隊を派遣するって話になったの。

 私の息子から聞いてねぇ。それで、ガルドさんにも一声掛けておかなきゃ、って。

 ほら、ガルドさんって、森に人が入るのを嫌がるでしょ?」


 ガルドのことは初耳だったが、メルヴィナはとりあえず頷いておいた。

 それにしてもヌシを討伐した結果が、まさかこんな動きをもたらしていたとは……。


「その辺り、私は詳しくないので……。ガルドさんが戻ってきたら、お伝えしておきますね」

「お願いできる? それじゃ、私はこの辺で失礼するわね。美味しいお茶を、ありがとう」

「いえ。気を付けてお帰りください」


 メルヴィナは婦人の姿が完全に消えるまで、静かに見送った。

 そしてその姿が見えなくなると……力無く、椅子に身体を預けた。

 ……自分ももっと、動きたい。もっと、誰かの役に立ちたい。

 ガルドが2つ目の異能を得たように、自分も新しい祝福を――


「……ううん。アリアさんは、そんなことはしない」


 あの人は……自分の役に立つからと、仲間に異能を与えることは、きっとしない。

 ガルドに2つ目の異能を与えたのは、1つ目の異能が使い物にならなかったから。身を滅ぼす異能だったから。

 ……メルヴィナはそう思った。

 短い間に、アリアの性格のことだけは……分かったつもりだった。


「――はぁ。私、もっとがんばらないと」


 腐っている暇はない。

 いろいろなものを捨ててきた自分は、他のものをたくさん拾っていかなければいけない。

 とりあえず、メルヴィナは自分にできそうなことから、始めることにした。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ――夜。

 丸太小屋の食卓で、ザインとガルドがスープを飲んでいる。

 ……それはメルヴィナが作ったものだった。


「……うん。これは……うん」

「お嬢さん。なかなか……個性的な味ですね」

「不味いなら不味いって、言ってください!!」


 メルヴィナの言葉のあと、しばしの沈黙が流れる。

 いつもであれば、この辺りでアリアの軽口が入ってくるのだが……彼女はまだ、戻っていなかった。


「それにしても、アリアは遅いなぁ……」

「もしかして、街で何かあったのか? 暴漢に襲われたり……」

「旦那を負かすくらいには、強いヤツなんだけどなぁ?」


 確かに戦闘においては、アリアが一番強い。

 とはいえ、見た目は華奢な少女なのだ。心配しない方がおかしい……というのは、全員が一応分かっていた。


「老婆心ながら、もう少し……気を遣った方が良いぞ?」

「……ああ。……参考にするわ」


 再び沈黙が流れる。

 フィオナがいなくなり、そもそもが暗い雰囲気……というのもあるが、やはり何かが足りない。

 メルヴィナは、アリアがいつも座っていた椅子を眺めながら――それが心の拠り所なんだな、と思った。

 戦闘の強さとは別に、みんなを支えるという強さがある。

 自分はきっと、そういうものに憧れているのかもしれない……。


 ――ガタンっ


 不意に、玄関から物音が聞こえた。

 全員が走って玄関に向かうと、そこにいたのは――

 ……アリアと、レイラだった。


「ただいまぁ……。あーもう、疲れたぁ~」

「ここはどこですかぁ~?」


 アリアはレイラを背負っており、レイラはぐったりと、溶けるように背負われている。

 一同が呆然としている中、アリアはレイラを応接室のソファに寝かしつけてから、食卓にやって来た。


「おう、お帰り……」

「んあ~。冒険者ギルドで、レイラに出くわしてさぁ……」

「レイラ、というのは?」

「あはは……。アリアさんを、唯一振り回せる人ですよ……」


 ザインとメルヴィナは、ガルドにレイラのことを教えていった。

 監獄のある街で出会ったこと、大聖堂にまで押しかけてきたこと――

 また、『直感の才能』というものを持っており、その名の通り、直感力が凄まじいこと。


「レイラは今、あちこちの冒険者ギルドで活動しているんだって。

 それで、今一番行くべきところ~……って選んだのが、この街みたいで」

「ほう?」

「それで、何かトラブルに巻き込まれていたんだけど――

 何故かあたしが助ける流れになって、そのまま連れてきた……ってわけ」

「はぁ……。相変わらず、お前と縁があるなぁ」

「レイラさんは、アレですよね。

 アリアさんを求めて、あちこち行っているというか……」

「――そう、それ!」


 アリアは突然しゃっきりとして、全員に言い放った。


「つまり、フィオナさんの行き先がある程度でも絞れれば……。

 あとはレイラの力で、何とかならないかな?」

「おお、それは……いけるのか? どうだ?」

「いや……。そうは言っても、ただの勘……ということだろう?」


 アリアとザインの言葉に、ガルドは疑いを向ける。

 そんなガルドを見て、メルヴィナは軽く迫る。


「でも、完全に適当よりは良いでしょう?

 レイラさんの才能は、アリアさんの祝福で得たものだし」

「あはは……。その才能のおかげで、あたしは追い掛けられてるんだけどねぇ……。

 さて、それじゃ情報屋とガルドさんの結果を聞きましょうか。

 ――の前に、メルちゃんはどうだった?」

「はい。留守番中に、近くに住むご婦人が訪ねていらっしゃいまして。

 ……その話は、あとでガルドに伝えるね」

「分かりました、お嬢さん」

「あ、そうだ。あとは時間を見つけて、スープを作ってみたんです。

 アリアさんも、ぜひ飲んでください」


 メルヴィナがスープを温めて戻ってくると、3人は入手した情報の話をしていた。

 いつか自分も、あの輪に入ることができれば……そう思いながら、話の邪魔にならないようにカップを置く。


「あ、メルちゃん。ありがと~♪」


 話をしている最中にも、自分を労ってくれる優しい笑顔。

 ああ。やっぱり私には、こういう人が――


「――まっず!!」


 その後、アリアはザインとガルドに絞られた。

 メルヴィナは涙目になっていたが、アリアが料理を教える……という条件で和解した。

 ただ、内心……メルヴィナは、こういうのも悪くない――とも、思ってしまうのだった。

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