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神様のギフト、配ってます(ただし返品不可)  作者: 成瀬りん
第4章 生命の満ちる場所
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七色の邂逅

 メルヴィナが描いたガルドの似顔絵は、お世辞にも上手いものではなかった……。

 しかし、彼女の異能である『光の饗宴』で描くと、生き生きとした男性の像が光によって作り出された。

 それをザインが模写して、紙の上に描き取られる――


「へ~。情報屋って、こういう特技もあったんだ」

「俺は情報屋だからな。似顔絵術、っていうのもあるぞ?」


 そう言うとザインは別の紙に、少しデフォルメした似顔絵を描いていく。


「は~。器用なものだねぇ」

「人にはどこかしら、長所があるんですね~」


 メルヴィナの嫌味に、ザインは軽く睨もうとした――

 ……が、彼女から与えられた頬の痛みに気が付く。

 さすがに笑いすぎたか……。ザインはそんな反省をしていた。


「それじゃ、この似顔絵を使って探していこうか。

 偶然見つけられれば良いし、聞き込みをしても良いし」

「しかし、自分を探している人間がいる……っていうのは気持ち悪いものだからな。

 できれば噂にならないようにしたいところだけど……」

「うーん? それじゃ、どうすれば良いの?」

「そうだなぁ。例えば、情報屋に聞いてみるとか……」

「うん? 情報屋は、知ってるの?」

「あん? そりゃ、情報屋なら知ってる可能性があるだろ?」

「ふむ? それじゃ、教えて?」

「んん……?」


 どこか意味が通じていない会話に、メルヴィナが入ってくる。


「アリアさん。ザインさんが言ってる情報屋っていうのは、ザインさんのことじゃなくて……」

「……ああ、そっか。

 この前も、このトラップに引っ掛かった気がするよ」

「あのなぁ。お前は墓穴を掘ってるだけなんだからな?」

「確かにややこしいですよね。

 アリアさんはザインさんのこと、名前で呼んであげないんですか?」

「やっぱり、今さら……なんだよねぇ」

「いつか、名前で呼ばせてやる……!」


 本人たちがそれで良いなら……と、メルヴィナは思った。

 ただ、今ですら『今さら』というのであれば、その『いつか』は永遠に来ないような気もしていた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 翌日から、ザインの描いた似顔絵で人探しが――ガルドの調査が始まった。

 ザインは近くの街を回り、その土地の情報屋に接触をしていく。

 アリアは教会や公的な施設を、メルヴィナは食料品店などを中心にまわっていた。

 ……しかし3週間が経っても、有力な情報を得ることはできなかった。


「うーん。進捗が無くて3週間は……時間がもったいない……」

「確かになぁ。情報屋に調査を依頼しても、何だか動きが良くないし」

「私の見たところ、ザインさんの実力ってかなりあると思うんですよ。

 だからザインさんの求める基準の方が、高すぎるんじゃないですか?」


 メルヴィナの言葉に、少し嬉しそうにするザイン。


「確かに、あたしに付いてこられるくらいだし……ね」

「ほう……、認めたな?

 それなら俺は、情報屋を越えた存在、ということになる。今こそ、俺の呼び方を変えるときッ!!」

「情報屋王!」

「……やっぱり、今までのままでいいわ……」


 早めのおやつを食べ終わり、甘味処から出る。

 陽はまだ高く、宿屋に戻るのもまだまだ早いところ――

 ……そんな中、通りの向こうから来た大男が、突然声を掛けてきた。


「……もしかして、ザインってやつはいるか?」


 低く、落ち着いた声。

 身長もザインよりずっと高く、身体も山のようだった。


「ザインは俺だが……うん? あんたもしかして、ガルドさん?」

「ああ、その通りだ。

 この街の情報屋から、オレを探している男がいるって聞いてな」

「……ガルドさんの情報を買うつもりが、ガルドさんに情報を売られていたんですね……」

「だめじゃん、情報屋。今回の査定はマイナスだよ」

「何か知らん間にマイナスされたァ!!」

「……おかしな奴ら……だな」


 目の前で始まる軽い流れに、ガルドの出鼻は挫かれた。

 少し困惑しながらも、ガルドはアリアたちをひとりひとり見ていく。


「オレのことを探してた情報屋に、外回りの神職者……。あとは、貴族風の――

 ……うん? もしかして、メルヴィナお嬢さん?」


 ガルドの言葉に、視線がメルヴィナに集まる。


「お久し振り……です。ガルドさん」


 その返事を聞いて、ガルドは微妙な顔をする。


「やめてください、お嬢さん。昔の通り、呼び捨てで結構です」

「えぇっと……? ああ、まずは自己紹介しますね。

 あたしはアリア、こっちが情報屋――」

「ザインだ!」

「メルちゃんのことは……大聖堂以外で、何かしらの関係が?」

「ガルドさん――いえ、ガルドは昔、私の家門で騎士をしていたんです」


 ……メルヴィナの話を聞けば、彼女が大聖堂に入るとき、その護衛としてガルドも一緒に行ったらしい。

 しかしメルヴィナが異能を発現したことにより、彼女は主教や大司教の直轄に配属されることになった。

 ガルドとは徐々に会えなくなり、いつの頃にか……ガルドは大聖堂を辞め、そしてメルヴィナの家――ローネル家にも戻らなかったそうだ。


「――ごめんなさい。ガルドのこと、何があったのか聞けなくて……」

「気にしないでください。お嬢さんは、何も悪くありません。

 ……それにローネル家だって、何の関係もありません」

「でも、私は――」


 ガルドの言葉に、メルヴィナは食い下がろうとしたが……言葉が出て来なかった。


「……道の真ん中で話していても、邪魔になるでしょう。

 オレが住んでいる小屋があります。そちらに移動しましょう」

「そうですね。みなさん、それでいいですか?」


 アリアとザインは頷き、3人はガルドの後を付いていった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 3人が連れていかれたのは、街から離れた森の中。

 樹々が開けた空間の中に、ポツリと丸太小屋が建てられていた。

 外には木製のテーブルと椅子が並べられ、読書をするのも気持ちが良さそうだ。


 ガルドは小屋の中に入ると、しばらくしてから紅茶を淹れてきた。

 品の良いティーカップは、ガルドの手元ではミニチュアのように小さく感じてしまう。

 椅子にはアリアとメルヴィナが座り、草の上にはガルドとザインが座った。


「――お嬢さんと離された後、オレは戦いに出されたんです。

 ……主教の命令で、任務は……極秘で。

 所属も与えられませんでした。今にして思えば、完全に捨て駒……ということですね」


 ガルドは昔の自分を蔑むように笑った。

 命令を拒否すれば、メルヴィナの将来に傷がつく。ローネル家も睨まれてしまう。

 ……そんな脅しもあったようだ。


「その任務というのは……オルビス神の神託があった、聖女様の確保でした。

 任務を受けた者は全員、聖女様を大聖堂に迎えるのだと……そう思っていました」

「……違ったの?」

「はい。聖女様を確保した後、主教の密命を受けた者が、オレたちを毒殺しようとしたんです。

 この任務を知る者を、ひとりでも、できるだけ少なくしようと――」

「あれ? ガルドさんは、ご無事だったんですよね?」


 話の途中、アリアが質問を挟む。


「ああ。オレはそのとき、異能を手に入れたんだ。

 生と死の狭間だったからなのか、何かの運命だったのか……」

「ふむ……。死に瀕したとき、異能を得る場合もありますからね」


 アリアの言葉に、ガルドは頷いた。


「……結果として、オレと聖女様は奇跡的に助かった。

 だからオレは、聖女様を連れて……故郷の村に戻ったんだ。

 しかし、主教の追手が掛かった。オレの家族も、全員が襲われて――」


 ガルドは誰もいない方に目を向けながら、言葉を選ぶように続ける。


「……腹に槍が突き立てられたとき、オレは再び異能を使った。

 気が付いたときには、オレは血の海の中で、聖女様に抱きしめられていたよ。

 オレの家族は、誰も生きてはいなかった。暴走したオレが、追手ともども、家族を……」


 ガルドの話を、3人は静かに聞いていた。

 強くなることと引き換えに、意識がなくなる……いわゆる、暴走系の異能。

 これに苦悩する者は多い。不安と恐怖を抱えながら、ひとりで生き続けるのだ。


「……オレはもう戦わない。オレはもう教団とは関係しない。聖女様のことも口にしない。

 お前らの目的は、きっとどれかなんだろう? だからオレのことは忘れて、放っておいてくれ」


 沈痛な空気がその場を支配する。

 しかし最初に口を開いたのはザインだった。


「――で? 家族を殺されたからって、未だにめそめそしてるのか?」

「……何だと?」

「ちょっと、情報屋!?」

「そりゃ、痛ましい事件だとは思うし、同情もするよ。

 でもさ旦那、あんたァそこから一歩も進んでいないじゃないか」

「お前に何が分かる? お前に、家族を失った苦しみなど……」

「わかるさ。それはあんたの専売特許じゃない」

「……お前に何が分かる。深々と肉体に刻まれた、敗者の烙印を」


 ガルドは立ち上がり、服をめくって腹を見せる。

 凄まじい筋肉と共に、古い傷が大きく走っていた。


「なぁに、そんなのもよくある話さ」


 ザインは立ち上がり、上着を脱いで背中を見せる。

 引き締まった筋肉と共に、古い傷が大きく走っていた。


「……無様だな。戦いから逃げたときの傷か?」

「こちとら旦那と違って、正面堂々の勝負ばかりじゃないもんでねぇ。

 そうさ、無様な傷さ。敗者の烙印よりも、よっぽど無様さ。でも、旦那も大概に無様だよなぁ?」

「……やる気か?」

「ああ、やってやろうぜ? 何なら、異能を使ってもいいぜ?」



 ――思いがけず、ザインとガルドは本当に戦うことになった。

 メルヴィナは手に汗を握り、アリアは手にポップコーンの袋を握っている。

 スピードで翻弄するザインに対して、些細な攻撃ではビクともしないガルド。

 ……結果、ふたりの体力が尽き、勝負は引き分けとなった。


「……はぁ、はぁ。なかなかやるじゃねぇか」

「旦那も思ったより、よくやるじゃないか。但し――」

「……うん?」

「アリアは、もっと強いぜ?」

「は? あの子が……?」


 ザインの言葉に、ガルドは驚いた。

 しかし先ほどまでとは違い、少しだけ……何かが吹っ切れた顔をしている。

 身体を動かしたせいだろうか。あるいは、自分では触れられない古傷を……思い切り抉られたせいだろうか。


「おーい、ちょっと相手してやってくれない?」

「嘘でしょ!? ……えっと、手加減はしていい?」

「……冗談はほどほどにしておけ――」

「いいから! いいから!」


 アリアはポップコーンの袋をメルヴィナに渡すと、困ったようにガルドの前に立ち塞がった。

 ガルドは場の悪ノリに困りながら、念のため……防御の姿勢を取りながらアリアに近付いていくと――


 ――目の前が、空になった。

 もうすぐ日が暮れる頃。色の変わり始めた空を感じながら、背中に強い衝撃が走る。


「ひゅぅ! 見事な背負い投げッ!!」

「……信じられねぇ」

「まぁまぁ。ガルドさんは疲れていたし、油断もしてくれていましたから。

 それで……一応あたしが勝ったので、話だけでも聞いてもらえませんか?」

「……はぁ、仕方が無い。それなら明日にでも――」

「――あら、いいじゃありませんか」


 突然、凛とした女性の声が聞こえてきた。

 見れば、丸太小屋の入口の横に……すらっとした女性が立っている。

 銀色の長い髪、七色のような不思議な瞳……それにしては、少し地味な服。


「フィオナ様!? 何で外に……!!」

「うふふ。ガルドが楽しそうにしていましたから♪」

「もしかして? あなたが――」


 ……フィオナ・G・エーメリー。

 死者にすら命を与えられる……当代の、聖女。

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