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神様のギフト、配ってます(ただし返品不可)  作者: 成瀬りん
第4章 生命の満ちる場所
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手掛かりを求めて

 近くの街の、宿屋の食堂。

 高い窓から日が射してきて、穏やかな昼下がりが流れていく。

 大量の注文を出してから、アリアは自分の右手を見ていた。


「どうしたの?」

「いやぁ、何か薬指が痛くて……。捻っちゃったのかな?」

「ほう……。それじゃ、俺が治癒薬を掛けてやるよ!」


 ザインは自分の鞄から、小さな瓶を取り出した。

 当然ではあるが、この世界の治癒薬は……使うと痛い。


「メルちゃん、治癒魔法を掛けて~」

「もう、甘えないでください! ――はい、終わりました」


 メルヴィナは流れるように、アリアに治癒魔法を掛けた。

 いつの間にこんなに仲良く……。ザインはそんなことを思ってしまう。


「ありがと! 飴玉あげるねぇ」

「いつも飴玉ばかり、そんなに要りませんよ! ……うん、甘いですね」

「……本当に、仲がいいなぁ」


 食事が次々と運ばれて、全員で手を伸ばしていく。

 最初に手を止めたのはメルヴィナで、しばらく後にザインが止まり、アリアの手は最後まで動いていた。


「それにしてもアリアさんって、たくさん食べるのに……スタイルは良いですよね」

「確かに。油断すれば、いつも何かを食べているのになぁ」

「あたし、食べても太らないからね~」

「お前はまたッ! 全ての女性を、敵にまわすような発言をッ!」

「え、えぇー……!?」


 アリアがふとメルヴィナを見ると、どこか拗ねたような口をしている。


「め、メルちゃんだってスタイル良いじゃん!?」

「それは、食べる量が少ないからだろ……」

「……アリアさん。そういうことは、二度と言わない方が良いですよ……」

「お、おっけー……。

 でも、あたしが太らないのは……エネルギーを使ってるから、だからね?」


 その言葉に、ザインは今までの彼女を想像してみた。

 確かにアリアは、人間離れした動きをしていることがある。

 そもそも魔法を使っていない状態で、あんな動きが可能なのだろうか――


「……お前があんなに強いのって、もしかして……最新の古代魔法、ってやつのおかげ?

 身体強化――っていうか」

「ほう……。ついにあたしの秘密に迫ってきたねぇ?」

「やった、正解だ!!」

「私としては、ようやくそこに行き着いたのか……って感じですけど」


 メルヴィナは、ザインのことを少し冷めた目で見ていた。

 そんな目を向けられたザインは、何となく悲しい気持ちになってしまう。


「それじゃ、あたしは魔力を補充しようかな~」


 そう言いつつ、アリアはデザートのパフェを頼み始める。

 しかしアリアが摂ろうとしているのは、魔力と呼ばれたカロリーだ。

 メルヴィナはそんなアリアを羨ましそうに眺める。


「アリアさん……。私にもその魔法、教えてもらえませんか?」

「難しいから無理だよ。メルちゃんが使ってる魔法とは、いろいろと違うからね」

「……その、スタイルの話は置いておいて……。

 私も強くなりたいんです。おふたりの力になりたくて……」


 確かにメルヴィナは、先日の戦いでは役に立たなかった。

 厳密に言えばザインに掛けた支援魔法……のようなものは役に立ったが、無くても結果は変わらなかっただろう。

 何しろ、アリアがひとりで強すぎるのだ。

 多少のことでは、その現実は何も変わらない。


「まぁ、お前みたいなレベルにまでは無理でも……。

 メルヴィナのこと、どうにかしてやれないか?」

「メルちゃんには素敵な異能があるんだから、それを伸ばすことをオススメするよ?」

「……私の? 『光の饗宴』のことですか?

 いや、あれは見た目だけの異能――」

「まずはそれがダメ、だよ。自分で自分の可能性を潰しちゃってる」


 アリアの言葉に、メルヴィナはハッとした。

 以前、大聖堂で……同じく異能を持つミラが、1週間にして劇的に力を付けたことを思い出したのだ。

 自分がやっていたことは、より精巧な、より精密なものを描けるようになる訓練だけ……。

 もしかして、他の可能性もあるのではないか――


「……ふふっ。まずは自分で、考えるところからだねぇ。

 でも、そこまで気が付いたお祝い♪」


 そう言うとアリアは、運ばれてきたパフェの頂きにある苺を、メルヴィナの口に押し込んだ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 食事を済ませると、その後は様々な店を巡った。

 ヴェルガ教の一部の信者には懸賞金が懸けられており、幾ばくかの収入があったのだ。

 それを使って買い物を行い、この街を発つ準備を済ませることができた。

 そして、夕方の食堂で――


「ところで、仲間を増やしたいんだよね」


 アリアの言葉に、ザインが驚いた顔を見せる。


「お前から仲間が欲しいだなんて……。成長したなぁ……!!」

「それ、何目線……? もしかして、親?」

「あはは……。妹を心配する兄、にも見えますね……」


 メルヴィナもよく分からず、愛想笑いを浮かべるしかできない。


「それで? 俺とお前は前衛職みたいなもんだし、メルヴィナは支援職だから……。

 もしかして、魔法職とか?」

「ううん? 前衛職だよ?」

「え……。まさか、俺じゃ足りないっていうのか……!?」


 ザインは寂しそうな顔を浮かべた。

 確かに今までの戦いにおいて、彼は前衛に身を置いていたのだ。


「いや、情報屋はスピード型じゃん? 今はパワー型が欲しいの。

 ほら、思い出してよ。この前の鉄球!」

「鉄球……? ああ、振り子みたいに飛んできたアレ……のこと?」


 そのときはアリアが止めていたものの、そもそもその光景が凄まじすぎた。

 大男ですら軽く吹き飛ぶ重量級のトラップを、か弱そうな少女がひとりで受け止めていたのだ。


「あれくらい、ひとりで受け止められる逸材が欲しいな~」

「お前は一体、何と戦うつもりなんだ……」


 ザインは力なく、椅子の背もたれに体重を預けた。

 メルヴィナも、いつの間にか身を乗り出していた自分に気付き、同じように背もたれに寄り掛かる。


「――あ」


 アリアとザインが、メルヴィナを同時に見る。


「もしかして、心当たりがある? メルちゃんは大聖堂の中で、顔が広そうだからね」

「お前も……愛想は良かったと思うぞ。異端諮問局の外では」

「あはは。薄い関係がいくらあっても、何の足しにもならないよ」


 そういうアリアを見ながら、メルヴィナは親近感を覚えた。

 確かに自分も顔は広い方だったが、いわゆる濃い関係……というものは思い当たらなかった。

 強いて挙げれば、今はアリアだけなのだ、と……少しだけ、そんなことを考えた。


「数年前の話ですが、ガルドという方が……大聖堂にいまして。

 肉体強化の、凄い異能を持っていたんですよ」

「ガルド? ……うーん? どこかで聞いたような……」

「うん? 知り合いか?」


 アリアは帽子から紙の束を取り出して、パラパラとめくっていく。


「……ああ、オリバー様からもらった資料にある人だ。

 あたしたちが探している聖女の、護衛をしてる人……だってさ」

「ほう……。今は聖女を探しているわけだし、向かう先は一致しているな」

「でも、聖女様と一緒にいるんですか?

 私が知っている話だと、既に大聖堂を辞めているはずなのですが――」

「大聖堂を辞めたあとに、聖女を護衛しているのかな? ……再就職?」


 大聖堂を辞めたからといって、その先は何の仕事に就かない……というわけもない。

 ただ、大聖堂から隠されていた聖女に、大聖堂を辞めた人物――

 ……少なからず、何かしらの事情はありそうだ。


「よし、それなら俺たちがやることは何も変わらないな。

 まずは聖女を探すぞ!」

「……それ、ずっとやってるつもりなんだけどねぇ」

「ヴェルガ教の件もありましたし、こんな調子ではいつになることやら……」


 そこまで言うと、3人は溜息をついた。

 今のところ、大聖堂の主教が持っていた情報――それ以外には、情報が何も無い。

 分かっているのは、聖女とガルドのことと、住んでいる大まかな土地のことだけ。

 その大まかな土地……というのがヴェルガであり、ここをずっとうろうろしていて、未だに有力な情報は得られていない。


「そもそも、偽名を使っている可能性もあるんだよな。

 俺たちの中では、メルヴィナがガルドって人を見たことがあるだけ……だろう?」

「あたしはそのとき、大聖堂には所属していなかったからね。

 主だった街を張って、見つけられるまで頑張る……とか? 年単位で掛かるかもしれないねぇ」

「既に引っ越していたら、永遠に張ることになるけどな……」


 3人は顔を合わせて、そのまま悩み続けた。

 その傍らで食堂の店員を呼び、注文を入れつつ、食事も続ける。

 主には酒を飲みながら、味の濃いツマミを食べながら――


「――ああ、そうだ。

 メルヴィナはガルドって人の顔、覚えているのか?」

「はい。当時の顔なら……よく」

「似顔絵を描いてもらって、それで探すのはどう?」

「お! それは良いかもねぇ!」


 ザインとアリアは、メルヴィナに期待の眼差しを送る。

 アリアは帽子の中から紙とペンを取り出し、メルヴィナの前に並べる。

 ……それを見たメルヴィナの頬が、ぴくりと動いた。


「……あの。私、似顔絵とかは……描けないんですけど……?」

「えー? 『光の饗宴』で、あんなに凄く描けるじゃん? 何事も挑戦だよ~」

「そうだぞ! とりあえず描いてみろよ!」

「いやいや……。無理ですって……」

「絶対に笑わないから!」

「アリアさん、何とか言ってやってください――

 ……って、いつの間にか寝てる!?」


 アリアはテーブルに突っ伏していた。

 メルヴィナが描いた似顔絵を見たい……ということもあり、全ての進行をザインに押し付けるためだったが――


 ……しばらくした後、ザインの笑い声と、ザインの頬が思い切り引っ叩かれる音が聞こえてきた。

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