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神様のギフト、配ってます(ただし返品不可)  作者: 成瀬りん
第4章 生命の満ちる場所
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滅びの大地

 ――不毛の土地、ヴェルガ。

 オルビス教に敵対し、『滅びの道』を教理に掲げる、ヴェルガ教が根付く場所。

 夜空の月を背景に、枯れた樹々のシルエットが地平に黒く浮かび出す。

 寂しくも明るく、寒々しい光景。しかし、悲しいまでの神秘性。

 そんな中、静かな空気を微かに震わせる、誰かの声がふたつ――


「ちっ! こんなところまで追いかけてくるとは!!」

「三流にしては、よくやった方よ。誇りなさい」


 見慣れぬローブをまとった司祭に、黒のローブをまとったアリアが距離を詰める。

 彼はヴェルガ教を率いる司祭長で、名前をレナルドといった。

 レナルドは1か月ほど前にアリアの祝福を受け、そして手に入れた異能で――

 ……この地の周辺に、『滅び』をもたらしてきたのだ。


「俺に異能を与えておいて、都合が悪くなったら処分をするというのか!?」

「違うわ。都合が良かったから、刈り取るの」

「ど、どういう意味だ!?」

「あなたは私の警告にまるで従わなかった。だからもう、選択肢は無いの。

 ……それを、理解する必要も無い」


 ……ここには他に、誰もいない。

 レナルドの部下も、アリアの仲間も。


 ふたりの戦いは静かに始まったが――

 魔法で守りを固めてすらいないレナルドは、アリアの数発の打撃ですぐに力を失った。

 アリアはそんな彼の胸倉を掴み、自分の方へ無理やり引き寄せる。

 そして右の手のひらに――5本の指に力を入れて、頭を強く掴んだ。


「くそ……! ヴェルガの神よ……我に力を……。オルビス教に、滅びを――」

「――ならば力で奪い去ろう」


 空に浮かぶ、明るい月。

 地面に生まれた輝きは、その月の光さえも無力に打ち消していった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 一方その頃……ザインとメルヴィナは、ひとり消えたアリアを追っていた。


「今日は月で明るいとはいえ……。あいつ、黒くなってたからなぁ」

「そうですね、黒くなってましたもんね……」


 息を弾ませながら、ザインは走るのを止めた。

 メルヴィナの体力を考えると、これ以上先に進むことは難しい。

 近くの岩を指差し、椅子ほどの大きさの場所に腰を下ろす。


「……ところで、ザインさん」

「ん?」

「アリアさんって……何でこう、黒くなるんですか?」


 今日見た姿、そして主教との戦いで見た姿。

 形としてはオルビス教の服装……ではあるものの、あんなに黒くしたローブは見たことが無い。


「……知らん」

「ああ、やっぱり……」


 ザインの言葉を、メルヴィナは当然のように受け止めた。

 ザインは文句を言いそうになったが、反論の言葉も予想がついたので、それは飲み込んでおくことにする。


「いや、俺が見たのはまだ2回だしなぁ……」


 今日と、そして牢獄のあった街――そこで、ギデオンと戦ったとき。

 ザインとメルヴィナは、見るタイミングは違ったものの……同じ回数の2回だけ、その姿を見ている。


「アリアさんのことだから……。きっと、聞いても教えてくれないんでしょうね」


 メルヴィナは夜空を見上げて、徐々に低くなる月を眺めた。

 しかしそこへ、突然――


「ただいまー。メルちゃん、そういうのに興味津々?」

「きゃっ!?」


 アリアはメルヴィナを微笑ましく見ながら、その隣に座った。

 ローブの色は白く、口調もいつも通りだ。


「おう、おかえり。司祭長はどうなった?」

「痛い目に遭わせておいたよー。しばらく、悪いことはできないでしょ」

「ほう。お前にしては、ずいぶんと軽い結末――」


 ……そう言い掛けて、ザインはオルビス教の主教のことを思い出した。

 忘れようと思っても、なかなか忘れられるものではない。

 彼はアリアの『痛い目』によって、今はとんでもない状態になっているのだ。


「……それでは、ヴェルガでの用件も終わりですね」

「そうだなぁ。ややこしくしたのは、アリアだったわけだが……」

「えぇー?」


 そもそもヴェルガという土地では、最初からヴェルガ教が影響力を及ぼしていた。

 司祭長であるレナルドは、アリアの祝福によって、異能の『再生不能』を手に入れたのだ。

 ……傷は塞がらず、土地は痩せ、人は衰える。

 生きようとする行為を、一方的に否定する力。

 人や物、大地など――多くのものに適用することができる、忌々しい異能だった。


「アリアが探している『生命付与』とは、まったく真逆の異能だったな」

「私もそれなりに異能を知っていますが、どちらも格の高さ……というものを痛感させられます」


 メルヴィナは自分の手のひらを見た。

 彼女の異能である『光の饗宴』は、見た目重視の異能だ。

 主教や大司教から買われていたとはいえ、実際にできることは少なかった。


「そんなことを言ったら、あたしなんて……攻撃の対象から外れるくらいなんだし?」

「……それにしてはお前、何でもできるんだよなぁ……。一体、どうなってるの?」

「乙女の秘密ぅ~」

「おぉ、新パターンだな……」

「あの……ローブを黒くすることも、秘密ですか?」

「え? そんなに気になる?」


 アリアの言葉に、メルヴィナとザインは力強く頷いた。

 アリアは少し考えてから口を開く。


「……あれはねぇ。カッコいいでしょ?」


 メルヴィナとザインはずっこけた。

 そんなふたりを見て、アリアは静かに言葉を続ける。


「実は、あの状態のときは――」


 メルヴィナとザインは顔を上げた。今度こそは、と、次の言葉を期待する。


「オリバー様に教わった、杖をまわす『カッコいい構え』でね。

 杖を3回、まわしてるんだよ……っ!!」


 メルヴィナとザインは、再びずっこけた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 しばらく休憩したあと、3人はヴェルガ教の本山に戻っていた。

 建物の状況を確認したり、残りの残党の処理をするためだ。


「――しょ、っと」


 アリアは杖術と体術で、目に入った信者を倒していく。

 ザインも自分なりの戦闘術で、敵を無力化していく。

 メルヴィナは安全なところで、ふたりを影ながら応援している。


「……私、何かやることはありますか?」

「それじゃ、倒れてる人を縛っておいて~。あとで、近くの街に連れてってもらうから」

「あれ、殺さないの?」

「情報屋も、物騒なことを言うねぇ。あたしは一応、神職者だからね?」

「そういえば、そうだったな……」


 アリアは帽子から、縛るための紐をたくさん取り出した。

 メルヴィナはそれを少しずつ拾い、ヴェルガ教の信者たちを縛っていく。

 そうこうしている間に、この場所での戦いの跡が目に入ってきた。


「――改めて見ると、トラップが多かったな」

「大体はアリアさんが、さくさくと解除してきましたけどね……」


 ザインとメルヴィナは周囲を見ながら、記憶を辿りながら口にする。


「特にこれ……鎖付きの、巨大な鉄球。

 突然、振り子みたいに飛んできて……」

「これも、アリアさんが杖で受け止めてましたよね? あれは魔法ですか?」

「神様の意思ぃ~」

「いや、結局それって何なの!?」


 ……たまに出てくる『神様の意思』。

 しかしそうは言っても、メルヴィナですら何が何だか分からない。


「……うーん?

 アリアちゃんの秘密暴露カード、ここで切っちゃう?」

「え? そんなもの、俺は持ってたの?」


 ザインの戸惑いに、アリアは腕を後ろに組んでから、楽しそうに答えた。


「あれはねぇ……。

 あたしの研究していた――最新の古代魔法、だよ~」

「最新の……」

「古代魔法……?」


 ザインとメルヴィナは、宙を仰いで考えた。

 秘密が暴露されたはずなのに、何の答えにもなっていない……。

 当のアリアも、これ以上はもう答えない……という感じで、建物の奥に進み始めている。


「……古代魔法なのに、最新とはいかに……」

「相変わらず、よく分かりませんね……」


 ふたりは引き続き、アリアの後を追って、建物の奥を調べていった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 全ての確認が終わったのは、夜が白み始める頃だった。

 今からは近くの街に行き、生存しているヴェルガ教の信者を連れていってもらわないといけない。

 その後彼らはどうなるのかは、連れていった先で勝手に決まるだろう。


「――さて。ふたりとも、お疲れ様~」

「よーし……。何とかアリアのしりぬぐいは、終わったな……」

「ここに暮らす人たちにも、これでようやく面目が保てます……」

「いや、まぁ……。

 ヴェルガ教は元々が迷惑を掛けていた人たちだし、全部があたしだけのせいってわけでは……ねぇ?」

「そもそも、あんな連中に祝福を与えなければ良かったんじゃないか?」

「んー? ……ほら、力は使い様だから。それに、見込みもあったし……」

「残念ながら、それは外れましたね」


 メルヴィナの言葉に、アリアは静かに微笑むだけだった。


「――それにしても。

 いもしない神を崇めるなんて、空虚なこと、この上ないよね」

「そういうこと、お前が言うの? オルビス教はどうなんだよ……」

「オルビスは、いるんだよねぇ」

「え!? ああ、アリアさん……。信仰自体は持っていたんですね……!

 さぁさぁ。今日こそはオルビス神に、祈りを捧げますよ……!!」

「パスぅ」

「あれぇー?」

「逃げないでくださーい!!」


 アリアは逃げ出した。

 そのあと捕まったが、当然のように、アリアが礼拝することは無かった。

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