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神様のギフト、配ってます(ただし返品不可)  作者: 成瀬りん
第3章 大聖堂にて安らぎを
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去り際は賑やかに

 主教が失踪し、大司教が亡くなったことは、ただちに知られることとなった。

 しかし、彼らが永遠の命を求めていたこと、信徒を使って凄惨な実験を行っていたことまでは、明るみには出なかった。

 ただ、表から見えないだけで……大きな傷は、大聖堂の奥深くに残されていた。


「――これで、良かったのかな?」

「良かったんだよ。信仰の拠り所が、問題なんて起こしちゃダメなんだから」


 例によって、人目のつかない屋根の上。

 ……オルビス神の生誕祭も終わり、大聖堂は静かに、悲痛な空気を漂わせていた。


「あとはオリバー様に任せて……。あたしはまた、外回りに出ようかな」


 明るく言うアリアだったが、その実、ザインは見てしまっていた。

 異端諮問局の中で、圧倒的に浮いているアリアの姿を。

 オリバーはアリアに対して好意的だが、それ以外の多数は――

 ……アリアに対して、冷たい扱いをしていた。


「まぁ、お前としてはそれが良いのかもな」

「あれ? もしかして、心配してくれてるの?」


 アリアも当然ながら、自分の立場はわきまえている。

 オリバーに拾われたという立ち位置、特務裁定官という特殊な立ち位置、オルビスから与えられた……『S』という職位。


「そういえばさぁ。神職者って、みんな職位があるの?」

「んー? 無い人も多いよ。

 異端諮問局だって、無い人はたくさんいるし」

「へぇ……。俺が会ってきた人は、みんな付いていたからさ」

「確かに、そうだったねぇ。でも、あったところで良いことなんて何も無いよ」

「なら、お前のは捨てちゃえば?」


 ザインの言葉に、アリアは微妙な顔を浮かべる。


「……意味深なことを言うねぇ。

 でも、捨てたい気持ちが半分、取っておきたい気持ちが半分……ってところかな」

「ふーん? やっぱり、複雑なんだなぁ」


 高い空に、鳥が飛んでいく。

 平和だ。実に平和だ……。


「……それにしても、ようやく終わったな」

「本当にね。身内のごたごたに巻き込んじゃって、ごめんねぇ」

「ははは、気にしない、気にしない。

 でも、最後の戦いは俺も参加したかったぜ……!」


 ザインは誰もいない場所に向けて、パンチを2度3度繰り出した。


「あはは。主教殿は、バリアを張ってたよ~」

「え、バリア……? ……それじゃ、俺がいても役立たずじゃん……」

「でも情報屋は、可能性の塊だからね。もしいたら、何かしらは出来ていたかも?」

「そうかなぁ……。

 結局のところ、俺は神職者じゃないって理由で……最後の結末を、教えてもらってないんだよな」

「いやいや、ちょっと待って?

 仕事が情報屋の人に、詳しく教えるわけがないでしょ?」

「……なるほど、そりゃそうだ!」


 そう言って、ザインは明るく笑った。

 そんな彼に、アリアは仕方の無さそうに微笑む。


「――まぁ、実のところ……。

 主教殿は、ここにいるんだけどね」

「え?」


 アリアは帽子から、大きな金属塊を出した。


「……何、これ?」

「主教殿を封印した、金属の塊」

「は? ……またまた、ご冗談を……」

「ふふふ、どうだろうねぇ?」


 アリアは敢えて、意味深な表情をザインに向けた。

 ザインとしては、アリアのこの表情は……未だに、判断することができない。


「まぁ、それが本当だったとして……。どうやれば、封印は解けるの?」

「この世界の技術じゃ、解くことはできないよ」


 その言葉に、沈黙が流れた。

 アリアは爽やかな顔をしているが、ザインは気持ち悪くて仕方がない。


「……もしかして?

 この世界じゃない……別の世界って、どこかにあるの?」


 再び沈黙が流れる。


「さぁ――、ねぇ?」


 アリアは金属塊をどうしようかと考えていたが、結局は帽子の中に戻していった。

 あとで、オリバーに押し付けるのだと……それだけ、ザインは聞くことができた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ザインがオリバーの執務室に行くと、椅子に座るオリバーと、その前に立つアリアがいた。

 その間の机には、アリアが見せてくれた金属塊が置かれている。

 ……本当にオリバーに見せたのか、とザインは素直に思った。

 そうすると、アリアの話は本当だったのか……? とも思ったが、深入りはしたくないので忘れることにした。


「ザイン君、よく来てくれたね。今後のことで、話をしたくて」

「あ、私にですか?」


 とはいえ、オリバーからザインに話が……というのであれば、話題は絞ることができる。


「……君はこれからも、アリアと旅を続ける気かね?」

「はい」


 突然の質問だったが、ザインは即答した。

 嘘偽りはなく、当然のように、自然に返していた。


「オリバー様のポケットマネーで、情報屋の借金は全部返してもらったよ。

 だから、そこは心配しないでね」

「え、本当ですか? オリバーさん、ありがとうございます!!」

「君にはとても世話になったからね。正直、口止め料……という意味でもあるのだが」

「なるほど。しかし私はこう見えて、安心安全な情報屋。

 余計なことは、絶対に他言しませんっ!」


 ザインの言葉に、アリアは引きつった笑いを浮かべる。


「ははは、信じているよ。

 それで、借金は無くなったことになるが、アリアとは――」

「はい、一緒に行きます」


 またもや、ザインは即答をする。


「……だ、そうですよ。オリバー様」

「アリアもなかなか、頼りになる仲間を見つけたものだ。

 滞りなく任務をこなしてくれること、今後も期待しているよ」

「はい。予定通り、あたしは外回りに戻ります」

「ああ、それそれ。外回りの話なのだが――」

「はい?」


 オリバーは机の引き出しを開けて、1枚の紙を取り出した。


「アリアが探していた例の……聖女の件だが、主教殿の遺物から情報が見つかったんだ」

「え? 本当ですか?」


 アリアはオリバーから紙を受け取ると、真剣な顔でそれを読み始めた。

 一方のザインは、聖女という響きに何か素敵なものを感じていた。


「……聖女というのは、一体?」

「神に愛された子。超越した力を持つ存在。

 当代の聖女は、死者にすら命を与えられるという話だ」

「死者を……復活させる……?」


 ザインはアリアを見た。

 もしかして、アリアは……誰かを生き返らせようとしている?

 当然ながら、今までにそんな話を聞いたことは無かったが――

 ……アリアだもんなぁ、とザインは思った。


「詳しくは、情報が少なくて分からないのだがね。

 アリアは……もちろん、探しに行くのだろう?」

「はい。しばらくはまた、オリバー様ともお別れですね。寂しくなります」

「……定期連絡ならできるだろう? 必ず、欠かさずに連絡を入れるんだぞ?」

「可能な限り、努力します」


 ――アリアをよく知る人物、オリバー。

 ここだから見られるアリアの顔があった。

 自分の立ち位置だからこそ見られるアリアの顔もあった。

 ……ザインは何となく、そんな自分を誇りに思ってしまった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 オリバーの執務室を出て、アリアとザインはふたりで歩いていた。

 大聖堂には、これ以上の用が無い。

 教都を出たら、しばらくはまた、以前のような旅を――


「……あれ? メルちゃん」


 大聖堂の出口の……大きな柱の下に、メルヴィナが立っていた。

 神職者の服装ではなく、清潔感のある私服を身にしている。


「アリアさん!」


 メルヴィナはアリアの元に走り寄り、恥ずかしそうに、もじもじと向かい合った。


「あの……。今回のことは、本当にありがとうございました」

「ううん、気にしないで。今日は、仕事はおやすみ?」

「いえ……」


 メルヴィナは視線を下げたが、すぐにアリアの顔を真っすぐに見た。


「一緒に……私も、連れていってもらえませんか?」

「は、はぁ!?」


 アリアは思わず、ザインと目を合わせた。

 思いがけない提案に、ふたりは心の底から驚いてしまう。


「私は……今回の件で、大聖堂にはいたくなくて……。いるのが、つらくて。

 でも、オルビス神への信仰はあるんです……」


 メルヴィナは徐々に俯き、声も小さくなっていく。


「――今のままでは、気持ちに整理が付かない。

 今は……私を助けてくれたアリアさんと、一緒に行ってみたい……。

 だから、お願いします!!」

「す、すぐに戻ってくることはできないからさ。

 メルちゃんは大聖堂で、立派な仕事があるんだから――」

「仕事は、辞めてきました!」

「えええぇーっ!!?」

「……やれやれ。お前は人気者だなぁ」


 ザインの言葉に、アリアはとりあえず拳で突っ込んでおく。


「――はぁ。付いてくるのは……まぁ、百歩ゆずるとしても。

 辞めるんじゃなくて、せめて長期休暇にしておこう?」

「いえ、私の決意はそんなものでは――」

「あたしが気にするの!!」

「もう辞めたんですッ!!」


 メルヴィナは声を叩きつけた。

 ……あの場所に、もう自分の居場所は無いと。

 そう、思ったから。


 メルヴィナの勢いに圧されたアリアは、息を荒くする彼女を改めて見つめる。

 短期間の間で彼女の顔はいろいろ見てきたが、こんな表情は初めて――

 ……アリアは溜息をついて、天を仰ぎながら頭を掻いた。


 いつの間にか一緒に旅をしているザインと、これから一緒に旅をすることになるメルヴィナ――


 新たなる仲間を加えて再び旅へ……に、なるのか。

 あるいは――

 新たなる荷物を抱えて再び旅へ……に、なるのか。


 今はまだ、どちらになるのか……アリアには、判断が難しそうだった。

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