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神様のギフト、配ってます(ただし返品不可)  作者: 成瀬りん
第3章 大聖堂にて安らぎを
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よく分からない人

 ザインの前には、しおしおとした少女がふたり座っていた。

 アリアとメルヴィナである。

 彼女たちは中庭に設けられた木製の椅子に、ぐったりと座っている。


「どうしたんだよ、ふたりとも……」

「また、オリバー様に捕まって……」

「アリアさんが神出鬼没すぎて……」


 ……どうやら、どちらも苦手なタイプの人間に振り回されているらしい。


「まぁ、メルヴィナの方は何とかなるだろう。

 ……アリアが気を付ければいいわけだし」

「自分の正義は、自分の中にあるんだよ」


 アリアはそう断言した。いかにも含蓄深そうな言葉である。


「それ、いつも以上に意味が無いだろう……。本気で適当に言ってるよな……」

「すごいなぁ……。その通りだよ……」


 アリアは感心した。

 ついつい口から出た言葉であり、そんなことは今の今まで、思ったことはなかったのだ。


「ザインさんも、アリアさんに振り回されてるじゃないですか……。

 アリアさんがオリバー様が苦手なのは別の話として――

 ……アリアさんを振り回せる人って、いないんですか?」

「ははは。そんな奇特なやつは――……いや、ひとりいるか?」


 その言葉に、アリアはぴくりと動いた。


「……もしかして、レイラの話?」


 レイラというのは、以前訪れた街で『直感の才能』を授けた魔法使いの少女だ。

 その後『異能の天球儀』と不思議な反応を示し、前世の記憶が一部だけ……戻ったらしい。


「そうそう。結局あいさつも碌にしないで、あの街を出ていっただろう?」

「まぁ、そうだけどさ。

 ここは、あの街からは結構離れてるからねぇ」

「アリア様ーっ!!」


 どこかから聞き覚えのある声がした。

 今もこんな空耳が――アリアは懐かしそうに笑うが、しかしその声はいつまでも続き、しかも近付いてくる。


「おい、アリア。あれって、もしかするとさぁ……」

「――え゛」


 ザインとアリアの視線の先には、キラキラと走ってくるレイラが見えた。

 それを見た瞬間、アリアは立ち上がり、そのまま建物の屋根に逃げていく。


「ばか……! こんな人目のつくところで……!」

「幸いにして、誰も見てはいないようでしたけど――」

「あ、ザインさん! お久し振りです!

 ……あれ? アリア様はどちらに?」

「えぇっと……、少し用事があるんだってさ!

 いやぁ、残念! 見事なすれ違いだったなぁ!」


 ザインはどちらかといえば、アリアの肩を持っていた。

 これからもずっと一緒なのだから、レイラが不憫に思えても、その立ち位置が一番良いのだ。


「そうですか……。ようやくお会いできると思ったのですが……」

「残念だったな。またの機会に、だな!」


 ザインがレイラを慰めていると、遠くの方から頼りない声が聞こえてきた。


「レイラさ~ん、急に走らないでください~……っ!!」

「あっ、ごめんなさい!」


 レイラはその男性に、申し訳なさそうに謝る。

 話を聞いてみると、レイラが今組んでいるパーティの戦士らしい。

 アリアが戻って来なさそうだったので、一同はそのまま分かれることになった。


「それでは私は用事があるので、また……」

「おう、またな!」


 レイラは名残惜しそうに、ザインの前から去っていった。

 彼女も大聖堂に用事があるそうなのだが、到着したときに直感が働き、あちこちを探し回っていたらしい。


「あの方が、アリアさんを振り回せる人……ですか。

 確かにあの勢い、私も苦手かもしれませんね……」


 メルヴィナはどこか同情するように、ぼそりと零した。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 翌日、メルヴィナは主教の執務室を訪れていた。

 主教からの命令で、彼女は毎日、アリアの行動を報告しなければいけないのだ。


 今は昨日の報告をしているところだが、やはり途中でアリアが消えてしまったため――

 ……どうしても、期待に応えられない形の報告になってしまう。


 主教の雰囲気が、今日も恐ろしい。

 『異能の天球儀』を壊したのはわざとではないと確定したのに、何でそこまで、彼女に執着するのか……。

 ……主教の直属でもなく、基本的には外回りの人間。

 職位だって、メルヴィナの『N』に比べて、それよりも下の『S』……。

 最も多い職位の『R』よりも、さらに下……。

 希少ではあるが、最も下の職位――

 ……それなのに、主教から執着されるのは、何故?


「アリアさんって、何者なんだろう……?」


 主教の執務室を出て、廊下の窓から空を見上げる。

 ずっと一緒にいるザインですら、彼女を正しく示すことはできない。


「もしかして――

 異端諮問局の、特務裁定官……だから?」


 特務裁定官は、諮問を飛ばして執行を――異端と認めた者に、裁きを与えることができる。

 教団トップの主教であっても、ナンバー2の大司教であっても、そこから逃げることはできない。


 話によれば、特務裁定官はオルビス神の神託によって作られたもの、と聞いている。

 つまり本来であれば、主教も大司教も、こんな存在はあって欲しくないのかもしれない。

 そして今……アリアが大聖堂に留まっているのは、オリバーの指示らしいから――


「大聖堂の中で……、不正が?」


 歴史を振り返ってみれば、教団の中枢部が汚職をしていた、という事例もある。

 しかしメルヴィナは、主教にも大司教にも、今までとても目を掛けてもらっていた。


「……はぁ。また、アリアさんに振り回されてる……」


 窓から廊下に視線を移すと、どこかで見覚えのある少女がうろうろとしていた。

 忘れるはずもない。自分を振り回すアリアを、唯一振り回すことのできる人物――


「どうかされましたか?

 アリアさんのお知り合いの、レイラさん……ですよね?」

「あ、昨日の!」

「はい、私はメルヴィナと申します。レイラさんは、こちらで何を?」

「はい。アリア様に用事があって……。それで、ここまで来たのですが……」


 ここは一般の人間が入れるような場所ではない――

 ……警備の騎士もいるし、隙を見て入り込んできたのだろうか……。

 神出鬼没の人間を追い掛けられるのは、やはり神出鬼没な人間だけ?

 メルヴィナはそんなことを思ってしまった。


「……アリアさんをお探しなんですね。

 そういえば私、アリアさんと昼食をご一緒する予定だったのですが……場所をお教えしましょうか?」

「え? いいんですか!?」

「はい、もちろんです。ただ、私は少し用事ができまして……。

 申し訳ないのですが、代わりに行って頂けますか?」

「わかりました、アリア様にも伝えておきますね!」


 メルヴィナは、してやったり……という気持ちで、レイラに約束の場所を教えた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 メルヴィナは広い食堂で、他の神職者に紛れるように食事をとっていた。

 少し先にはアリアとザインがいて、そこに……レイラが加わった。

 レイラはアリアのまわりをうろちょろとして、アリアが逃げられないようにしていた。


「不思議な動き……。袖のひとつでも、掴んでやればいいのに」


 そう思いながら、メルヴィナはスープをひと啜りする。

 わんわんと嘆くレイラを前に、アリアは観念して椅子に座った。

 レイラは身を乗り出しながら、嬉しそうに、興奮気味に話している。


 ……あんなにも慕われて。

 相手がいくら迷惑な人だったとしても、その気持ちはやはり大きい……。


 ふと、メルヴィナは自分に当てはめて考えてみた。

 自分には、あそこまで自分を追ってくる存在はいない。

 自分は今まで上手くやってきたと思うが、でも、どこか羨ましい……。


 しばらくすると、レイラはパーティの仲間である、戦士の男性を連れてきた。

 距離が離れていて話は聞こえないが、何かを訴え掛けているようだ。

 しばらくすると、アリアはその男性と食堂を出て行ってしまった。

 レイラも着いて行こうとしていたが、ザインに首根っこを捕まえられていた。

 ふむ……と思い、メルヴィナは立ち上がる。


「ザインさん、アリアさんはどうしたんですか?」

「おう、メルヴィナ。

 用事はもういいのか? えっと、アリアは――」


 一瞬目を逸らして、再び続ける。


「レイラの知り合いが困りごとがあるってんで、相談に行ったよ」

「へぇ……? 神職者らしいことをしてますね」

「いや、ちゃんと神職者だろ!?」


 ザインの指摘に、メルヴィナは何ともいえない思いを抱いてしまった。

 そして思わず、アリアたちの消えた方に走り出す。

 アリアが自分のいないところで何をするのか、しっかり確認しなければ――


「あ、ちょっと!?」


 ザインが立ち上がる気配を感じたが、メルヴィナはそのまま走り続けた。

 しばらく走ってから後ろを見ると、ザインはレイラを押さえ付けていた。

 恐らくレイラも、一緒に行こうとしたのだろうが――

 メルヴィナは心の中で、レイラにお礼を言った。


 食堂を出てから、青い空の下でアリアたちを探す。

 人々がやはり多く行き交い、混み合っている。これでは、すぐに見つけることはできないだろう。

 しかし、ふと、建物の影から大きな声が聞こえた。


「うおおぉーっ! これで俺、大丈夫そうです!!」

「でも、無茶はしないでね? あなたは仲間を守る側なんだから。

 力に溺れて、犠牲を増やさないように」

「はい、もちろんです! レイラにも感謝しないと!!」

「あはは……。

 それじゃ、あたしの仲間が困ってるだろうから、早く行ってあげて……」


 そんな会話が聞こえてきたあと、飛び出てきた男性と鉢合わせになった。


「あ、すいません!」

「いえ、お構いなく……」


 軽く言葉を交わすと、その男性は食堂の方に猛ダッシュしていった。

 はて、アリアはこんな場所で、祝福でもしていたのだろうか……。

 メルヴィナはそんなことを考えたが、そのあと、溜息をつきながら出てくるアリアと鉢合わせになった。


「――うわぁ、メルちゃん!? こんなところで、どうしたの?」

「え? えぇっと、その……。

 用事が思ったより早く済んだので、まだご一緒できるかな、と思いまして……」


 メルヴィナは取り繕うように、そう言った。

 アリアはその言葉を聞いて、嬉しそうにメルヴィナの両手を取る。


「それじゃ、一緒に食べようねぇ♪

 ハンバーグ定食とか、美味しそうだったよ? あたしも食べようかなー」

「え? まだ食べるんですか?」


 アリアは一瞬不思議そうな顔をしたが、屈託のない笑顔で続ける。


「一緒に食べた方が、美味しいじゃない?」


 メルヴィナの中で、疑念や嫉妬、困惑や共感……様々な感情が入り乱れた。

 本当に、よく分からない人……。


「それではご一緒しましょう。

 ところで、昨日会ったレイラさんとは……どういう関係なんですか?」

「外回りで行った街で会ったんだけど……。前世で、あたしと会ったみたいでねぇ……」

「はぁ……。アリアさん以外にも、よく分からない人がいるものですね」

「そうなんだよねぇ――

 ……あれ? あたしも?」


 アリアの言葉に、メルヴィナは今日一番の笑顔で返すのだった。

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