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神様のギフト、配ってます(ただし返品不可)  作者: 成瀬りん
第3章 大聖堂にて安らぎを
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内緒の依頼

 1週間後、メルヴィナは驚愕した。

 そんな短期間で、真偽鑑定官であるミラの実力が、見るからに上がっていたのだ。


「ザインさんは――

 『異能の天球儀』の破壊について、『どちらかといえば破壊した』と考えているようです」

「えぇ……」

「それは自分の意思で破壊しましたか? ……『いいえ』。

 やむを得ない状況で破壊することになってしまいましたか? ……『はい』。

 その原因はアリアさんにありますか? ……『はい』」


 ミラはあらかじめ用意していたチャートに従って、状況を細かく絞っていった。

 そして得られた最終的な結論としては、『アリアから受け取るときに落として壊れた』……という、実際に近いものだった。


「そこまで確認できれば、問題はありませんよね?」


 一通りの鑑定が終わると、アリアは幕引きを求めた。

 これ以上絞り込んでいくと、アリアがザインにわざと落とさせた……というのがバレる可能性があるからだ。

 オリバーは客観的な立場として、これ以上の確認は不要という認識を示した。


「うむ、問題ないだろう。

 ここまで細かく鑑定をすれば、主教殿も文句は言うまい」


 オリバーはミラから紙に書かれたチャートを受け取って、自らもサインを入れた。

 これによって、立ち合いが正当に行われた、公式な書類として扱われるのだ。


「……分かりました。今回の事件は故意ではないもの……として、報告いたします」

「メルちゃん、そもそも事件ではないですよ。あくまでも、事故だったということで♪」


 アリアの軽い口調に、メルヴィナは苛立った。

 自分の想定外の結果と、そもそもミラの、不自然な急成長……。

 せめて、それくらいは主教に報告をしなければいけない。


「……ミラさんは、何で急に実力が上がったんですか?」

「異能については、アリアは局の誰よりも詳しいからね。

 熟達するための手助けができる、ということさ」

「興味があれば、メルちゃんも修行してあげますよー。ふふふ、神職者のよしみでねぇ♪」


 メルヴィナは思わず、ミラの方を振り向いた。


「あ……その、もし悩んでるのであれば……。良いと思いますよ……?

 振り子を眺めたり、マッサージやストレッチをやったり……。あとは、心の持ち様を教えてもらったり……でした、けど」


 ミラはメルヴィナの圧に押されて、やった内容を自然と口に出してしまう。

 変哲のない行動にしては、得たものは大きく……それがまた、胡散臭さを増幅させる。


「やり方は人それぞれですからね。

 ミラちゃんの方法を聞いて実践しても、上手くいかないと思いますよ~」


 主導権は自分にある。そんなアリアの言い方が、メルヴィナの感情を逆撫でする。


「……私は、今のところ困っていませんから。今日は失礼します!!」

「ああ、主教殿にもよろしくな」


 メルヴィナが不満そうに去ったあと、オリバーの執務室のソファに全員で座る。

 ミラは遠慮していたが、オリバーの言葉でようやく着席した。


「――ふぅむ。アリアはやっぱり、異能に詳しいのだね」

「日々これ精進、ですよぉ」


 アリアはしれっと答えた。

 そういえば、祝福で異能や才能を与えられるのは……秘密にしておいて欲しいんだっけ?

 ザインはダンジョンに籠っていたとき、アリアからそう聞いていた。

 ……ちなみにバラしたら、変な才能を付けてやる、とも脅されていた。

 本当に変なものを付けられるのかは謎だが、実際に付けられても困るので、ザインはアリアの言う通りにしよう……と心に決めていた。


「まぁ、異能が育つ……なんて、あんまりイメージできないからなぁ」

「そうそう見ることが出来るものではないからね。

 結局は、日々を積み上げる者が一番強いのだよ」

「わ、わたしも痛感しました……。せっかくオルビス神からギフトを頂いているのですから、わたしももっと努力しないと……」

「ミラちゃんはエライね~♪

 みんながこうだと、しっかり応援したくなるんだけどねー」


 ……さりげない言葉だが、ザインは深く頷いた。

 結局アリアは、日々を積み上げる者が好きなのだ。この辺り、オリバーと価値観が一致している。

 全員で少し話をしてから、ミラは用事があると執務室を去っていった。


「――さて。『異能の天球儀』については、ひとまず問題は無いかな」

「はい。まったく、迷惑な魔導具でした」


 そもそも『異能の天球儀』は、主教が血眼になって探していたものだ。

 オリバー自身は破壊するのも止むなし、と思う節があったが、どうしても主教の動きは気になる。


「うん、アリアの意見には同意だな。

 事態の収束もご苦労だった。ただ、それにしては大聖堂に戻るのが遅かったが」

「ええ、はい。それは、まぁ。……実はこちらの情報屋が、借金に苦しんでおりまして」

「急にその話!?」

「それで早く解放されたいと、ダンジョンで金策をすることになったのです」

「え? 元々はお前がまだ戻りたくないって――」


 アリアはテーブルの下で、ザインの足を踏んだ。

 ザインの口は『へ』の字を描き、出そうになった言葉も一気に引っ込む。


「まぁ、借金自体は悪ではないがね。

 ザイン君、身を滅ぼすほどのものは止めておいた方が良いよ」

「ははは……。左様でございますね……」


 ザインは横目で、アリアを静かに睨んだ。

 アリアは平然と、ザインを見ようとすらしない。


「そういうことですので、引き続き彼のお手伝いをしたいと思います。

 『異能の天球儀』の報告も終わりましたので、そろそろ教都からは――」

「では、彼にも手伝ってもらうことにしよう。もちろん、依頼料は支払うからな」


 オリバーの言葉に、アリアはぎくりとした。


「えっと……、オリバー様? 何を仰っているのやら……」

「先ほどの続きなんだが、主教が何で『異能の天球儀』を欲しているのか、調査して欲しいのだよ。

 異端諮問局は、教団内部の調査も業務に含むからな」

「それに俺も加わる、と?」

「うむ。ザイン君はアリアのサポートとして、調査を手伝って欲しい」

「むぅ……」


 アリアの嫌そうな表情に、ザインは何も言えなかった。

 こうもあからさまな不満顔は、アリアにしては珍しい。


「それでは、私はザイン君と少し話をしていこう。

 アリアは一旦、自分の部屋に戻っていてくれ」

「……はい、わかりました」


 執務室を出るとき、アリアはザインを軽く睨んだ。

 余計なことは言うな……という注意だったのだろう。


「――ふぅ、行ったかな?

 一応、防音の魔法を掛けさせて頂こう」


 オリバーはそう言うと、右手の先に魔法陣を作り、周囲には静かな光が満ちていった。

 光が消えると、音の反響がいつもより不自然な、少し慣れない空間になった。


「おお……、これは良い魔法ですね。私も覚えられたら、便利そうですけど」

「ふふ、ザイン君は情報屋をやっているそうだからね。

 さて、まずは最初に言っておきたいのだが――」


 オリバーは真面目な顔をした。ザインは唾を呑み込み、次の言葉に備える。


「……アリアはなぁ……。

 全ッ然ッ、大聖堂に戻ってこなくてなぁ……」

「……は?」

「定期報告をしろと言っても、全然連絡を寄越さないし……!

 寄越してきても、さっさとすぐに終わらせようとするし……!」

「は、はぁ……」

「そのたびに、何とかいろいろと話を引き出そうとして、お互い気まずくなるし……!」

「何か、親子みたいですね……」


 完全に、父親と思春期の娘である。

 先ほどまでの直接の面会は、普通の上司と部下にも見えていたのだが……。


「……実はね、アリアを大聖堂に誘ったのは私なんだよ」

「そうだったんですか?」

「昔、異端諮問局が追い掛けていた男がいてね……。

 ようやく私の部隊が追い詰めたとき、その男がアリアを襲っていて……」


 異端諮問局の部隊が追い掛けていた、というのであれば、そこら辺のチンピラというわけでもないだろう。

 しかし襲われるといっても、アリアは異能の『対象化拒否』を持っている。

 そんな彼女を襲うことが出来るだなんて、一体その男というのは……?


「オリバーさんたちが、その男から……アリアを助けた、ということですね?」

「ああ、いや。アリアが、その男を倒していたんだ」

「……残念ながら、私の知るアリアでした」


 ザインの言葉に、オリバーは笑った。


「あの子は実際、稀有な力を持っている。

 ただ、詳しくは聞けないのだが……いろいろと、背負い過ぎている気がするんだよ」

「確かに、何を背負ってるのか、どこまで背負ってるのか……さっぱりですよね」

「だからな、たまには……少しくらい、休んでもらいたいんだ。

 私はアリアの味方だ。君だって、そうなんだろう?」

「そうですね……。仲間、兼、債権者……ですかね」

「ふふっ、良い関係じゃないか。

 そんなわけだから、ザイン君もしばらく一緒に休んでいってくれ」


 ザインは笑顔で頷いて、オリバーの依頼を受けることにした。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 オリバーの執務室から出ると、扉の横でアリアが待っていた。

 ザインはオリバーの愚痴……のようなところを除いて、話した内容をアリアに伝えていく。


「――はぁ。結局、しばらく滞在しないといけないのかぁ……」

「たまには良いんじゃないか? 久し振りに帰ってきたんだろ?」


 そう言うザインを、アリアは微妙な目で見て返す。


「報告が終わって、さっさと立ち去れなかったのはあたしの失態でもあるからね。

 ……ええ、いいですとも。甘んじて受けましょう」

「お前は自由な人間だからな。多分、ここは窮屈なんだろうなぁ」

「そうだね。そういうのも、大きいのかな」


 アリアは諦めたのか、手を組んで大きく伸びをした。


「――アリアさん」


 突然、後ろからメルヴィナの声がした。

 彼女は手ぶらで、執務室を出ていったときには持っていた紙の束を、今は持っていない。


「メルちゃん、仕事は終わったんですか?」

「だからメルちゃんって――」

「注意しても、呼ぶのは止めないだろうなぁ……」


 ザインの言葉に、メルヴィナは彼をキッと睨んだ。

 しかしそんな気もしたので、メルヴィナは次の話に入っていく。


「先ほど、主教様から新しく命令を頂きました。

 私はしばらく、アリアさんのお目付け役になります」

「あ、結構です」

「結構です、ではないんです! 教団のトップからの命令なんですよ!?」

「えぇー……? だってあたし、異端諮問局だし……」

「組織的には独立しているとはいえ、この命令は覆せません!

 明日から一緒に行動しますからね!!」

「えぇ……。情報屋ぁ、助けて~……」

「助けたい気持ちはやまやまだが、今回に限っては助けられそうにないなぁ……」


 この辺りの命令系統は、大聖堂の内部のものだ。

 だからザインにはどうしようもない、というのもあるが――

 ……これくらいのことなら、自分でどうにか出来るだろう、と思ったのも正直なところだった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 アリアたちは大聖堂に泊まるということで、ふたりには広い客室が用意された。

 部屋は隣同士になっていたが、今は何となく、ザインがアリアの部屋に押しかけていた。


「あーもう。どんどん、がんじがらめになっていく~……。

 もう死にそう……」

「ははは、2か月や3か月もいるわけじゃあるまいし」

「1か月でもイヤなんだけど……?」

「ははは。それじゃ、出来るだけ短くなるようにしような」


 アリアはふくれっ面をしながら、机の上に卓上カレンダーを置いた。

 マメな彼女らしく、どこかに滞在することになると、たまにこれを出すことがある。

 しばらく話しながら、ザインがふとカレンダーに目を移すと――

 ……とりあえず、目先のスケジュールが書き込まれていた。


 ――ただ、予定の中でひとつ……1週間後の日付の欄に、『IPGOO』とだけ、書かれていた。

 他の予定とは違い、ずっと前から書かれているような感じではあるが――


「何か決まったら、そこに書いていくから。お互い、忘れないようにしようねぇ」

「おう!」


 ……しかしこれだけ見ても、どういう意味かは分からない。

 アリアに聞けば答えてくれるかもしれないが……、何となく良い気分がしなかった。


 ……自分にとって、手を出してはいけない場所に、手を出してしまうというか。

 最近はすっかり慣れたが、アリアには恐ろしく深い部分もある。


 だから、この感覚は大切だ。一線、というものは本当に大切だ。

 ……とりあえずザインは、自分の勘に従うことに決めた。

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