表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様のギフト、配ってます(ただし返品不可)  作者: 成瀬りん
第3章 大聖堂にて安らぎを
26/32

異端諮問局、局長

 アリアはしおしおとしていた。

 しかし教都に入るにつれ、大聖堂に近付くにつれ、しゃきっとしていった。


「うおぉ、やっぱりでけぇなぁ……」


 大聖堂を前にして、ザインが呟く。

 建物がそもそも大きく、全てが立派で荘厳であり、信徒があちらこちらを常に行き交っている。

 王都でも神職者を見かけたが、教都では圧倒的に目にする機会が多かった。


「情報屋は、大聖堂に来たことがあるの?」

「以前、ちょっとな。調査の依頼があってさ」

「へぇ……。ところで情報屋って、何の仕事をしてるの?」

「……お前、マジで言ってんの?」


 アリアは改めて考えてみるが、常々口にしている『情報屋』こそが、彼の仕事だと気付いた。


「おぉ……、慣れって怖いね。灯台下暗し……」

「それ、ちょっと違う気がするなぁ……」

「で、何の調査をしたの?」

「ああ。お前と知り合った街でさ、異能の調査をしてる……って魔法使いの旦那がいてな」


 そういえば、そんな人もいたなぁ……。アリアは思った。

 確かそのとき、『脇の甘い情報屋』についても話をしていた気がする。

 ……それがまさか、今や一緒に行動をしているとは。


「なるほど。人生、わからないものだねぇ」

「……そうだな?」


 アリアとザインはいつも通り話をしながら、大聖堂に入っていった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 大聖堂に入り、天井の高い受付を通り、豪華な内装の廊下を歩いていく。


「……やっぱり、凄い場所だよなぁ……」

「信仰だからね、見た目が大切なんだろうね」


 どこか他人事のように言うアリアだったが、すれ違う神職者とは上手く挨拶や礼を交わしている。

 さすが懐に飛び込むのが上手いやつ……とザインは思いながら、処世術とはやはりこうなのだな、と納得する。

 大聖堂に入ってからしばらく経ち、奥へ奥へと進んだ先の、重厚な扉。

 アリアは軽くノックをして、ゆっくりと開けて入っていった。


「ただいま戻りました、オリバー様」


 その言葉に、ザインは少し戸惑った。

 アリアが他人を『様』付けで呼ぶなんて……。

 組織に属する以上は当然のことだが、それにしても不自然に感じられる。


「おお、アリアか。久しいな!」


 奥にいる初老の男性は、嬉しそうに椅子から立った。

 何かしらの作業をしていたようだが、今は何よりアリアが優先――


「おうおう! 全然育ってないなぁ、はっはっはっ!」

「余計なお世話です」


 ……ふたりの楽しげな会話に、ザインはどこか嬉しい感情を抱いた。


「ところで、こちらの男性は?」


 オリバーはザインを見た。すかさず、アリアからの紹介が入る。


「こちらは旅の途中で出会った、情報屋です」

「ほう、以前も報告でちらっと聞いていたかな?

 それで、名前は?」

「情報屋です」

「待て待てぇ!? そう呼んでるのは、お前だけだからな!?

 ――失礼しました。私はザイン・ヴェイルといいます」


 ザインの自己紹介を聞いて、そういえばそうだった……と、アリアは思った。

 彼女の中では、とりあえずザインといえば『情報屋』、になっていたのだ。


「ごめん、ごめん。そういえばそうだった」

「お前、俺のことを何だと思ってるの?」

「情報屋」


 ザインはもう、溜息をつくしか出来なかった。


「ははは、ずいぶんと仲が良いようだね。

 私はオリバー・C・エイマーズ。異端諮問局の局長を務めている」

「……ということは、アリアの上司なんですね。お初にお目に掛かります」

「まぁ、そう緊張せずに。

 お茶を淹れさせるから、今までのことを色々と教えてくれたまえ」

「えぇっと、今は少し時間が――」

「はい、喜んで!!」


 アリアの言葉を打ち消すように、ザインが短く答えた。

 下から突き上げるような視線を感じながら、ザインはここで、アリアのことをできるだけ聞いてみようと画策したのだ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 小一時間も話して、ザインは違和感を覚えた。

 いろいろと聞こうとしていたのに、むしろ自分ばかりが話してしまう……。

 栄養を吸い取られるような、生気を吸い取られるような。

 自分のどこかが、しおしおし始めているように思えた。


「さて、それではあたしたちはそろそろ――」

「ああ、そうだ。それで、本題なんだが」


 アリアが終わりを切り出した途端、オリバーが始まりを切り出した。

 アリアからは、また面倒なことを……という嫌気が出始める。


「先日、『異能の天球儀』が壊れてしまったことを聞いている。

 実物はあるかな?」

「……ですよね」


 アリアはそう言いつつ、帽子に手を突っ込んで、袋に入った『異能の天球儀』を取り出す。


「おお――

 ……これは見事なまでに、ふふっ」


 ザインはオリバーの笑みに疑問を感じながら、背中を伝う汗にも気付いた。

 そんなザインを横目に、オリバーは手元のベルを鳴らした。

 廊下からふたりの少女が現れ、つかつかと3人の元に歩いていく。


「――さぁ、ご挨拶をなさい」

「はじめまして。私は聖務典礼局のメルヴィナ・N・ローネルと申します」

「はははじめまして。わたしは教理監査局のミラ・R・ハストンですっ」


 メルヴィナは所作が美しく、堂々としている。控えめにも見えるが、どこか強さも感じられる。

 ミラは所作も言動もぎこちなく、頼りなく見える。控えめな性格が完全に露呈しているようだ。

 彼女たちの自己紹介を受けて、アリアとザインも自己紹介をする。


「彼女たちも、異能をそれぞれ持っているんだよ。

 メルヴィナは『光の饗宴』というもので、聖務の方で活躍してもらっている」


 『光の饗宴』については、アリアも知っていた。

 光を使って、宙に様々なものを描き出す異能。

 完全に見た目だけの異能ではあるが、信徒を魅せる演出用の力としては、かなり優れている。


「ミラについては、『真偽鑑定』を持っている。

 ……実際、真偽鑑定官という職務についているんだ」


 『真偽鑑定』についても、アリアは知っていた。

 相手の承諾は必要とするが、その真偽を正しく判定することができる。


 ……メルヴィナは、テーブルの上の壊れた『異能の天球儀』を見据えた。

 そして静かに、厳しい口調で言った。


「主教様が懸念していらっしゃるのです。

 『異能の天球儀』が、わざと破壊されたのではないか、と」


 主教というのは、オルビス教団で最も権力のある神職者だ。

 しかしその名前を出されても、アリアは何ともない表情を浮かべている。

 メルヴィナはオリバーに対しても同じように、強い視線を送った。

 それを見たオリバーは、仕方の無さそうに笑う。

 ……まるで父親が、思春期の娘を見守るように。


「――私としても、異端諮問局が疑われているようで嫌なのだがね。

 主教殿がしつこくてね」

「つまり、あたしたちをミラちゃんの真偽鑑定に掛ける、ということですね」


 ふぅ……息をついて、アリアは立ち上がった。

 そして静かに、ミラに話し掛ける。


「はい、どうぞ。

 あたし、アストリア・S・ノクスは『異能の天球儀』について……嘘偽りなく回答します」

「あ……、はい。それでは……当時の状況を思い描いてください。

 あなたは自らの手で、『異能の天球儀』を破壊しましたか?」


 ミラはアリアの額に、手をかざした。

 やわらかな光が包み、少しの余韻をもって消えていく。


「……答えは、『いいえ』でした。

 アストリアさんは、『異能の天球儀』の破壊をしていません」


 オリバーは頷き、メルヴィナは不満そうに首をかしげる。

 ザインは……、あれ? と思った。


「それではザイン君にもお願いしよう。

 君はずっと、アリアと一緒に行動していたからね」


 場の視線が、一気にザインに集中する。

 嫌な気しかしないが、ここで断るわけにはいかない……。


「俺……いや、私、ザイン・ヴェイルは……。

 『異能の天球儀』について嘘偽りなく……回答、します」


 ザインはアリアの言葉を思い出しながら、ミラの前に立った。

 アリアのときと同じように、ミラは『真偽鑑定』を使い――


「ザインさんの答えは、判定不能……でした」

「……はぁ。

 真偽鑑定官は嘘が言えない誓いを立てているので、本当に判定不能だったのでしょうけど……。

 オリバー様、他の真偽鑑定官はいなかったのですか?」

「そもそもが希少な異能なのだ。そう言ってくれるな」


 明らかに不満そうなメルヴィナと、それを取りなそうとするオリバー。

 目の前のやり取りに、どうにも付いていけないザイン。

 そんな彼に、アリアがそっと耳打ちをする。


「『真偽鑑定』は扱いにくい異能なんだよね。

 『はい』か『いいえ』で答えられるものなら楽なんだけど、微妙なものは『判定不能』になっちゃうの。

 ……実力が足りないと、ね」

「ほう……」


 ザインは考えた。

 今の状況とは、つまり――

 ……アリアは100%、自分では壊していないと考えている。

 ……逆に自分は、100%ではないにしても、少しは壊したと考えている……?


 そもそも『異能の天球儀』が壊れたのは、アリアに放り投げられたときに、取り損なったのが原因で……。

 ……それ、アリアは全然悪くないと思っているのか?

 そこまで思考が及ぶと、目の前で悪戯に笑う少女の策略を感じた。


「まったく、これでは主教様に正しく報告できません。後日、他の真偽鑑定官をご用意ください」

「まぁまぁ、そうつんけんせずに♪」

「は、はぁ?」


 苛立ちを隠さないメルヴィナに、アリアが突っ込んでいった。


「見れば、ミラちゃんもすごく緊張してますし。メルちゃんも落ち着いてくださいよぉ」

「だ、誰がメルちゃんですか!!」

「良いじゃないですか。

 代わりにあたしのことは、『あーちゃん』でも、『アリア』でも、どっちで呼んでも構いませんよ」

「幼馴染でもありませんし!?

 アリアさんと呼ばせて頂きます!!」


 ……そうは言うものの、『アリア』というのも愛称なんだよな……。ザインはそう思った。

 しかし、さすが自分のペースに乗せるのが相変わらず上手い。


「メルちゃん。オルビスも言っているではないですか。

 人々を切り捨てるな。手を伸ばす者には、手を差し伸べよ……と」

「それとこれとは別でしょう!? ミラさんは神職者なのですから――」

「まぁまぁ♪ 異能については、異端諮問局の方が詳しいんです。

 少しばかり、ミラちゃんに修行を付けてあげますので!」


 アリアはミラの腕を取り、身体を引き寄せた。

 ミラは突然のことに、照れながら緊張している。


「――だからその後に、もう一度やってみましょう♪」

「異能はオルビス神から愛された証拠。

 だからこそ、異能を使いこなせないのは神の冒涜、裏切りです。

 そんな人が、ちょっとくらい修行をしたところで、使いこなせるようになるとは思いませんけど!?」

「まぁまぁ♪」


 アリアはメルヴィナの口に、小さな飴玉を押し込んだ。

 メルヴィナは口元に手を当て、驚きながら一歩引く。


「――ふむ、今は他の真偽鑑定官も出払っているからな。

 主教殿には申し訳ないが、少しお待ち頂くように伝えよう」

「ミラちゃんの上司にも調整しておいてください。

 教理監査局の局長は、オリバー様とは仲が良いですよね?」

「ああ、任せてくれ。それではみなさん、今日はこのあたりで!」


 オリバーが両手をぱんぱんっ、と叩くと、あとは後日……という流れになった。

 場からは一気に緊張感が引いていったが、ただひとり――

 ……希望が受け入れられなかったメルヴィナだけは、釈然としない気持ちで手を握りしめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ