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神様のギフト、配ってます(ただし返品不可)  作者: 成瀬りん
第3章 大聖堂にて安らぎを
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人々は加護の下

「うおぉー、地上に出てきたぞぉーッ!!」

「やっぱりいいねぇ、外は」


 アリアとザインはこの1か月、ダンジョンに籠っていた。

 ダンジョンとは、超越的な力によって創られた迷宮の総称である。

 もちろん世間では、オルビス神による創造物……と考えられていた。

 そこ以外では見られない財宝や魔導具、魔物などが現れるため、冒険や挑戦を求める者が後を絶たない。


「――さて、これからどうする? 王都にでも行ってみる?」

「そうだなぁ……。手に入れたものを売りさばくなら、やっぱり王都がいいよな」


 今いる場所からは、この国の政治の中心である王都と、オルビス教の中心である教都が近い。

 取り引きがしたいなら王都、オルビス教に用事があるなら教都……といった具合だ。


「美味しいものも食べたいし、一旦そうしよっか」

「おう! 特に今回は、貴重品の転移スクロールがゲットできたからな。

 高く売ろうぜ!」

「あ、それはあたしが買い取るよ」

「え? かなりの高級品だろ?

 俺は借金があるから、身内だからって値下げはしないぞ?」

「うん、気にしないで。あまり出てこないものだから――

 ……前回オークションの落札額から、2割増しで良い?」

「ありがとうございます、アリア姉さん!

 さすがアリア様! アリアちゃん、かわいい!」

「あはは。何よ、それ~」


 一番の目玉はあっさり買い手が決まったものの、ふたりは休息のため、王都に向かうことにした。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 王都に着くと、アリアとザインは別行動を取ることにした。

 それぞれが用事を済ませたあと、待ち合わせの場所にはザインが先に着いていた。

 そこに、アリアが少し遅れてやって来る。


「ごめん、ごめん。列ができてて、遅れちゃった。整理券まで配ってる状態でさぁ」

「へぇ? どこに行ってたの?」

「要らないもの売ってから、タナカに寄ってたの」

「……タナカ?」

「うん、純金積み立てをしてくれるお店」

「ああ、あれか。何だか不思議な店の名前だよな」

「あんまり聞かない響きだよね。さて、これがダンジョンの収入の分け前」

「さんきゅ!

 ……受け取ったのは少ないが、借金は半分くらい返せたかな……」

「今回は大当たりだったからねぇ。この短期間で半分返せたなら、いい進捗だと思うよ」

「そうだな、まずは身を綺麗にしないといけないから……。

 まぁそれはそれとして、メシでも食おうぜ!」

「おー、いいねぇ♪」


 改めて辺りを見渡すと、街は大勢の人で賑わっていた。

 神職者も散見されるが、それを見てザインは口を開く。


「そういえばお前の服って、普通の神職者とは違うんだな」

「うん、あたしは旅してるからね。動きやすい特注品だよ。

 ほら、スカートにはスリットも入ってるし……」

「いやいや、見せないでいいから!

 ……まぁ実際問題、お前は飛んだり蹴ったりするからなぁ」

「神職者の嗜みだよぉ」

「全員が嗜んでたら、他の全員にもスリットが入るんだろうなぁ……」


 そんな想像をすると、ザインは薄ら寒いものを感じてしまった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 昼には食堂でしっかり、陽が傾き始めた頃には甘味をどっさり、夕方からは酒場でがっつり。

 今日の食事はそんな感じだった。


「いやぁ、落ち着いてグルメ三昧する日はなかなか無いからねぇ。

 ふふふ、今日はしあわせ、しあわせ~♪」

「食べすぎじゃないか……? かくいう俺も、一緒になって食べてるけど」

「甘味とお酒でバランスを取ってるから、大丈夫だよ~」


 ちなみにこの国では、飲酒は15歳以上から可能だ。

 いわゆる成人と認められる年齢で、結婚も男女ともに15歳から可能になる。


「トータルで見れば、糖分が凄いことになっていそうだけど……。

 ダンジョンでは我慢してたからな。今日はもう、この調子でいこう!」

「そうそう、メリハリが大切だよ!」


 ふたりが楽しく会話をしていると、少し離れた場所で、客同士の騒ぎが起こった。

 ずいぶんと賑やかで、周囲の客も揃いも揃って、騒ぎの中心を眺めている。

 歓声や怒号が飛び交い、店員も仲裁に入ったり、殴られたり……と、散々だ。


「あーあ。楽しい気分のときに、アレはないわぁ」

「まったく、だねぇ」


 そう言いながら、ふたりはテーブルの上の食事をつまみ続ける。

 から揚げは正義である。この席には誰も、無断でレモンを掛けるような人間はいない。

 食の好みや価値観といったものは、アリアとザインでは割と近いものがあった。


「――でも困ったことに、追加の注文ができないんだよねぇ」

「おう、そうだなぁ……」


 ザインはふと、アリアを見つめた。

 しばらく続く視線に、アリアは疑問を投げる。


「……どうしたの?」

「こういうときって、お前が仲裁に入りそうだったからさぁ……」


 ザインの視線は、騒ぎの中心に移された。

 アリアとザインは、今は騒ぎに直接巻き込まれている……というわけではない。

 しかし注文できないという形で、間接的には巻き込まれているのだ。

 こんなときには、ひょいっとその現場に行って、ちゃちゃっと解決するイメージが、アリアに対して強くあった。


「あはは。あたしだって、何でも首を突っ込むわけじゃないよ?」

「そうなの――ぶほぁ!?」


 突然、ザインが椅子から叩き落とされた。

 喧嘩が徐々に広がり、アリアたちのテーブルにまで近付いてきて――

 ……殴られてバランスを崩した男が、ザインに思い切りぶつかったのだ。


「大丈夫?」

「いてて……。俺にぶつかったやつは――ああ、もう喧嘩の輪に戻ってやがる」

「楽しい場所で、血気盛んだねぇ」


 気にも留めず、アリアは陽気に酒を飲んでいる。

 そんな中、アリア目掛けて木のコップが飛んできた。


 ――スコーンっ


「きゃんっ!?」


 アリアは異能の『対象化拒否』を持っているが、偶然飛んでくるものは普通に当たってしまう。

 当てようとするものは当たらないが、当てようとしないものは当たってしまうのだ。


「おいおい、大丈夫か!?

 くそ、俺のかわいいアリアちゃんに何てことをするんだ!!

 おいてめぇ――うわっぷ!?」


 腕まくりをして喧嘩の輪に入ろうとするザインの足を、アリアが引っ張った。

 ザインはそのまま転び、アリアの額と同じような場所に、軽い怪我を負う。


「酔いすぎだって。はい、治癒薬」

「……俺は怪我をさせられて痛くなった上に、治癒薬でまた痛くなるのか……」


 見ればアリアはもう使っていたようで、ザインも同じように、額の傷に治癒薬をちょんちょんと付ける。

 傷は浅かったので、痛みはほどほどだ。


「うーん……。

 さすがに巻き添えを食らったら、お前も首を突っ込むと思ったんだけどなぁ」

「ふふっ、いつもならそうかもねぇ」

「うん? 今日は特別だ、と?」

「まぁ、そんなところ?

 昨日とかなら、がっつり行ってたかもね」

「ああ、女の子の日か」

「違うわ!」


 アリアの拳が飛んだ。

 ふたりはテーブルを挟んで座っていたので、その距離にザインは油断をしていたが――


「うぉっ、リーチが伸びたぞ!? これがアリアの奥義……ッ」

「いや、普通に軽く立ち上がっただけなんだけど……。

 まぁ、それはそれとして。今日は『オルビスが人間を眺める日』って言われていてね。

 あんまり目立ちたくないの」

「ふぅん? でも普通、頑張ってるところは見せたいものじゃない?」

「普通なら、そうかもねぇ」


 アリアはグラスを手に取って、目を細めて笑った。

 どこか色気を感じてしまいそうだったが、少女の見た目がそれを中和した。

 ザインは不覚にも、一瞬ドキリとしてしまったかもしれない。

 ……ただ、既に酒がまわっていたため、単なる動悸だったのかもしれない。


「……でも、中身はコイツだからなぁ」

「うん? アリアちゃんの中身は、100%アリアちゃんですよぉ~?」

「お前、酔ってる?」

「ほどほどに……?」

「そういえばさ、王都の次は教都に行くんだろ?

 大聖堂に寄らないと……って、この前しおしおしてたし」

「あーっ、今そういうことを言っちゃう!? せっかくいい感じで酔ってたのに!」

「いや、明日行くなら、今の内に話しておかないとダメだろ……」

「うぅーん……。1か月くらい、王都に滞在していかない?」

「そんなことを言って、しばらくダンジョンに潜ることになったんだろう?

 面倒なことは、さっさと先に済ませちまおうぜ?」

「むぅ……。ここで正論を出してくるか……」


 アリアは額に手を当てながら、天井を仰いだ。

 正直、大聖堂に行く用事はあるのだが、あまり寄りたくはないというか――


「……大聖堂が忙しいうちに、済ませちゃった方が良いかなぁ」


 再び、喧嘩の輪からコップが飛んできたが、アリアはそれを見事にキャッチして、すぐさま綺麗に投げ返す。

 少し離れた場所で、小気味いい音がスコーンっと聞こえてきた。

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