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神様のギフト、配ってます(ただし返品不可)  作者: 成瀬りん
第2章 星のように、紡がれて
23/27

光射す、闇の底で(1/2)

 ――決戦の日は、割と早くにやってきた。

 魔物の中心部……かつて牢獄だった場所を中心に、地盤沈下がいくつも発生したのだ。

 場所によってはかなり大きな穴が空いており、20メートルほどの深さで闇が覗いている。


「魔物の触手も、穴に落ちてるところがあるねぇ」

「でも、結局は何も変わらなくない? あの魔物、そもそも動いてないし」


 確かに魔物の被害は広がっているが、それは魔物自体が大きくなっているためだ。

 だから穴に落ちて動けなくなろうが、実際の影響は無いだろう。


 アリアたちが遠くの建物から魔物を眺めていると、騎士団が何かを運び、複数の場所で組み立てていた。

 あれは――


「おっと、攻城兵器か。

 しばらく動きがなかったのは、アレを準備していたせいか?」


 攻城兵器とは、城などの巨大建造物を攻める際に使う兵器である。

 巨大な矢を射ることのできるバリスタ、巨大な石を放物線で投擲する投石機が主力のようだ。


「人間が持てるサイズの武器じゃ、ろくにダメージが入らないからね」


 物理的な攻撃としては、やはり攻城兵器が理想的なのだろう。

 爆薬という手もあるにはあるが、関係のない場所にまで被害を出す可能性がある。

 それに、大量の爆薬を準備するのもなかなか大変だ。


 それ以外の手段としては、魔法使いによる魔法……というものもある。

 しかし残念ながら、この街に来ている魔法使い自体、人数が少なかった。

 実のところ、アリアも裏で魔法使いの何人かに祝福を与えていたが、役に立つような結果にはならなかった。

 ……むしろ、魔法使いの数を減らす結果になっていた。


「――ああ、そうだ。ドウェインには話しておいたからな」

「え? 何を?」

「お前、地下空間に行くんだろう?

 だからさ、騎士団が攻撃を始めると同時に、地下空間に向かう……ってな」

「ふむふむ。また、勝手なことを」

「いやいや。お前が地下で何かをやらかしたら、地上で攻撃しているやつらが困るからな?」

「あー、確かに。さすが情報屋、いい仕事してるねぇ!」


 アリアの言葉に、ザインは微妙な顔をした。

 そして、アリアを直視せずに、少し拗ねたように言う。


「……あのさぁ。何でお前、俺のこと名前で呼んでくれないの?」

「え?」


 突然の質問に、アリアは一瞬考えた。そして、静かに答えを口にする。


「……だって。名前、知らないし」

「え……。え? ええええぇー!? うそォ!?」

「今まで、名乗られたことがないよ?

 だから情報屋って仕事は、そういうものかなーと思って」

「んなわけあるかーっ!!」


 ザインは大声でツッコんだ。

 彼の人生で、最高のツッコミだった。


「おぅおぅ……。いつもより、キレのある……」

「この際、ちゃんと伝えておくぞ!

 いいか、よく聞け。俺の名前はなぁ――」


 ――その瞬間、地面が大きく揺れた。


「あっ、騎士団の攻撃が始まったね。……多分、地下空間には人を配置してないよね?」

「そ……そうだな。

 騎士団が調査で下りるときに使った穴があるからさ。俺が案内してやるよ」

「あたし、そこら辺の穴からでも入れるよ?」

「俺が入れないの!」


 ああ、なるほど……と、アリアは思った。

 今までは自分ひとりで動いていたから、どうにもこういう考慮は苦手だ。


「それじゃ、案内して!」

「おう、走るぞ!ちゃんと付いてこいよ!」


 ザインとアリアは、地下空間に下りるべく走り始めた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「――ちゃんと付いてきてよ!!」

「走るの速ぇよ!!」


 ザインは息を切らせながら、地下空間に続く格子の鍵を開けた。

 アリアを見てみれば、息のひとつも切らしていない。


「……体力も、凄いんだなぁ」

「純粋な体力じゃないから、自慢はできないけどね」


 そう言いながら、アリアはどんどん先に進む。

 ザインは慌てて、それを追う。


 まずは浅い穴を下りて、横穴を抜けて……そして、下に向かう大きな穴に入っていく。

 上から地面が落ちてこないかと心配になるが、岩や壁に生えているコケが年月を感じさせ、崩れやしないと言っている。


 アリアたちは松明に火を点けて持ってきていたが、もう少し先に進んでみると――

 ……明るかった。

 頭上にある天井の何か所かが崩れており、そこから光が射し込んでいるようだった。

 光で照らされているのは、大昔のもの……と思われる建物だ。

 概ね崩れてはいるが、地下空間は広く、昔あった街が丸ごと閉じ込められているようにも見える。


「はぁ、すげぇなぁ」

「詫び寂びだねぇ。

 ……まぁ、偉大な古代文明! って感じではないね。残念だね」

「見知らぬ文明だったら、もっとこう……。しかし、これはこれで凄いと思うぞ?」


 周囲の様子を見ながら歩いていると、天井の穴から、魔物の触手が下がってきているのを見つけた。

 遥か上の方では、微かに戦いの音が聞こえてくる。

 その触手も、たまにぴくり、ぴくりと動いている。

 反面、穴からは瓦礫や砂埃が落ちてきて……光の中に影を描くのが、とても美しく見えた。


「――はぁ。結局、あの魔物は倒せるのかね? さっくり倒しちまう方法は、やっぱり無いかな?」

「あたしは魔物の中心部、みたいなのを探したいんだよね。

 ……結局この魔物って、ギデオンとヴィクトリアがこうなったわけでしょう?」

「ふむ……。それなら、牢獄の真下まで行けばいいのかな。方角的には向こうだから、行ってみようぜ」

「しっかり付いてきてね!」

「走るなよ! お前は小走りで来いよ!」

「はいはい」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「――何で小走りに、俺の本気走りが負けるんだ……」

「あはは。純粋な脚力じゃないから、あんまり気にしないでって。

 それよりも、これ――」


 牢獄の真下に到着すると、今までになかったものを見つけた。

 天井の大きな穴から、他の触手よりも太いものが下りてきていて……そこで巨大な塊を作っている。


「お、おう……。気味が悪いな……」

「本当だねぇ」


 その塊は、地上の姿や他の触手とは異なり、瓦礫をほとんど取り込んでいなかった。

 汚れた乳白色の表面は滑らかで、横にも縦にもかなり大きく、形状も歪だった。


「燃やしてみる?」

「早速の残酷な提案!!」

「冗談だよぉ♪ あたしは、この魔物の中心を探したいんだよね。

 多分、あるとすればこの塊くらいだよね? この大きな塊のどこかが中心……、つまり頭みたいなものってわけ」

「うーん。さすがのお前でも、判断方法は無さそうだな。

 ……よし。困ったときは、聞いてみることにしようぜ!」

「え? 誰に?」

「そりゃ、もちろん本人にさ」


 アリアが言葉を失っていると、ザインは魔物の塊に少しだけ近寄った。

 そして大きな声で呼びかける。


「おーい、ギデオンさーん!! 聞こえてますかー!?」

「いやいや、さすがにそれは――」

「……うぐ……? この声……誰か、いるのかァ……?」


 どこからともなく、ギデオンの苦しそうな声が聞こえてきた。

 ザインは笑みを浮かべ、アリアは目を丸くしている。


「ほら見ろ! 世の中、計算だけじゃ上手くいかないんだよ!!」

「えぇ……。でも……いやぁ、正直見直しちゃったよ……」

「この声……。兄ちゃんと、嬢ちゃんかァ……?

 俺は……? ああ、動けない――」


 心なしか、魔物の塊がもぞもぞしたような気がした。


「――うぐっ!? 身体中に痛みが走るゥ……。俺は……一体、どうなった……?

 空は見えるのに、お前たちのことは全然見えん……」

「あなたはヴィクトリアと一緒に、魔物になりました。『異能の天球儀』の暴発だと思います」

「……何てこった。くそ……、あんなものを手に入れなければァ……。――痛ッ!?

 ああ……、身体が勝手に動く……。だが、……うぐぁッ!?」

「意識もあり、感覚もある。でも、コントロールは効かない……」


 アリアはギデオンの現状を分析した。

 地下では何もしていないが、地上では騎士団や冒険者たちから攻撃を受けているはずだ。


「……そういえば、ギデオンさん。ヴィクトリアはどうなったんですか?」

「んあぁ……? い、意識がァ――」


 アリアの問い掛けに、ギデオンの声が小さくなっていく。

 その代わりに、別の声が喋りかけてきた。


「――ヒヒヒ? そこに、誰かいるの……?

 ここはアタシと、ギデオンだけの、ふたりの世界……。アタシはずっと、このヒトと暮らしていくのよぉ……」

「お、お前……? 俺は、そんなことは望んじゃァ――……」

「ギデオンさん!? ギデオンさーんッ!!」


 ギデオンの声は途中で、まったく聞こえなくなってしまった。

 ザインの呼び掛けは虚しく響き、徐々に消えていく。

 それを上書くように、ヴィクトリアは歓喜の叫びを地下空洞に満たしていった。


「ヒャハハッ! アタシにはギデオンさえいれば、それでイイ……!!

 だからこんな街、アタシが滅ぼしてあげるのオオォォオッ!!!!」


「……そう、わかったわ。この魔物を動かしているのは、全部あなたなのね。

 異端。人々を恐怖に陥れるあなたを、オルビス教の異端と認めます」

「な……? この光はァ――……

 ――うぐぁアアァッ!?」


 魔物の視界は複数あるものの……そのひとつは強力な白に焼かれ、次の瞬間、闇が訪れた。

 魔物は他の視界を作り出して確認する。

 そこにいたのは、先ほどまでとは明らかに雰囲気の違う少女だった。

 黒いローブに黒い帽子、黒い靴。金色と赤色の刺繡や装飾が沈むように施されたデザイン――


「――異端諮問局、特務裁定官。

 アストリア・S・ノクスの名において、私がお前に終わりを告げる」

「え、えぇ!? アリア、お前――」


 アリアは杖を構えて、ヴィクトリアの声が聞こえた辺りに向かって走る。

 途中、乳白色の塊から分岐した細く鋭い触手が襲い掛かるが、アリアは難なく避けていく。


「……単調な攻撃ね。当たる気もしないわ」

「あれ!? お前、異能は!?」


 アリアは自身の異能を解除していた。

 魔物の本体がピンポイントで分からない今、攻撃の動きから、ある程度の推測を行おうとしたのだ。

 向こうの攻撃の練度は高くない。激しく暴れられる前に、今は防御よりも時間を最優先にして――


 一瞬、魔物の塊が大きく震えた。アリアの攻撃が無かった瞬間。地上での攻撃が原因……?

 アリアの目は、塊の中に生まれた大きな違和感を見逃すことは無かった。


「本体は――そこか!!」

「グギャアアアァッ!!!?」


 アリアが杖を突き立てると、今までとは違った叫びが響き渡った。

 苦悶の色が滲みだし、塊全体が震えているような気もする。


「……な、何よォ……! 来ないでよォ!? アタシはずっと、このヒトと一緒にいるの!!

 愛しているのよ……!? だからアタシたちは、ずっと一緒なのォ……!! もう、アタシたちを離すことなんてェエエエ――ッ!!!!」


「――ならば絆を引き裂こう。

 汝は神に身を委ね、静謐なる孤独に還るべし――」


 アリアは詠唱した。跳躍した。

 そして魔物に向かって杖を振るうと、ばっさりと、鋭い断面が姿を見せた。


「ギャッ、ギャアアアアアアアッ!!!?」


 一閃、二閃。三閃、四閃。

 淀みなく走る杖の斬撃は、魔物を細かく斬り飛ばして――最後にひとつ、塊を残した。

 その塊は地面に転がり、口のような部位から言葉を発する。


「ウゴァ……。な、何で……。アタシの、しあわせの邪魔ァ、……する……のよォ……?」

「他のしあわせを、邪魔したからよ」


 アリアが杖を地面に突き下ろすと、その塊は弾けて散った。

 そして彼女の眼差しは……ギデオンの意識が残った魔物の身体に、真っすぐと向けられた。

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