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神様のギフト、配ってます(ただし返品不可)  作者: 成瀬りん
第2章 星のように、紡がれて
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その手が選ぶ先

 ――街には、人の気配が戻ってきた。

 静かに、だが確実に。魔物に対抗しよう、という空気が生まれてきた。


 魔物に対応すべき騎士団が、ようやく動き始めたこと。

 騎士団と冒険者たちが、上手く連携を取り始めたこと。

 この街を治める男爵にドウェインが掛け合い、緊急予算を出させたこと。

 ……今まではカーティスが自主的に行っていた物流が、ここに来て、公的な支援として動き始めていた。


「――まったく、アイツは……。

 ケツを叩かないと、まるで動かないんですから」

「ふふっ。あなたからの言葉、ずいぶんと効いたみたいですからねぇ」


 街の中、魔物から少し離れた食堂の店先では、炊き出しが始まっていた。

 家を無くした者もいるし、冒険者のお腹も満たさなければいけない。

 そんな需要を見越して、カーティスが以前から準備を進めていたのだ。


「……ところでアリアさん、お味はいかがですか?」

「美味しいですよーっ。いや、材料は値ごろなものを使っていると思うんですが、下ごしらえが完璧ですね!

 ほら、これなんてトロトロで!」

「ははは。しっかり食べておいてくださいね」

「はい、ありがたく! ……ああ、あたしはお金を払いますからね」

「気にしないでも良いのですが、それがお望みなら是非」


 そんな会話をしていると、そこにドウェインがやって来た。

 魔物の確認と、それに加えて街中の視察……といったところだろう。

 ドウェインが食堂の列に向かう途中、カーティスと真正面から鉢合わせた。

 ……かつての親友。今は立場を違えている関係。

 緊張感が走ったが、しばらくの無言のあと、ふたりはすれ違っていくだけだった。


「――おい、小娘」

「あれ、あたしには話し掛けるんですか? えへへ、こんにちは」

「……相変わらずだな。だが、世話になった。一応、礼だけは言っておく」

「お礼なら、お菓子1か月分でいいですよ~♪」

「ふんっ。魔物の件が片付いたら、いくらでもくれてやるさ」


 それだけ言うと、ドウェインは食堂の主としばらく話をして、そのまま去っていった。


「ふふっ、男の子ですねぇ。……不器用、なのかな?」

「ああ。あいつは不器用なのさ……」


 昔に戻ったような、カーティスの言葉。

 アリアに向けられたものではなく、今は遠い、親友に宛てられたものだったのだろう。


 アリアが食べ終わると、カーティスと街を歩くことになった。

 そこに、レイラの明るい声が飛んでくる。


「アリア様~っ!」

「あ、おかえり。何か問題とか、あったかな?」

「怪我人がいたので、何度か教会に連れて行ったのと……。あとはそこで、少しだけお手伝いを。

 ……ああ、そうだ。瓦礫の下に、大切なものが埋まってしまったって人がいまして……。それを探すお手伝いもしました!」

「結構、いろいろやってくれたんだね。

 思い出っていうのは、命が掛かってるってわけじゃないけど……大切なものだもんね」

「はい、思い出は大切なものです! ……それで、アリア様は思い出して頂けましたか?」

「え? もしかして、前世……のこと?

 いやぁ、そういうのは覚えてないからなぁ……」

「私が――遠い記憶ですが、私が覚えていますよ!」

「えぇっと……、まぁ……。今はいろいろ大変だから、その話は後にしよう?」


 アリアとしては、一生あとにして欲しかった。

 そもそもレイラのその記憶は、少なからず『異能の天球儀』が影響したもので、信憑性もまるで無いのだ。

 暇であれば想像を膨らませるのも楽しいかもしれないが、今はそれどころではない。


「おーい、レイラーっ!」

「冒険者ギルドで依頼をもらってきたから、行こうよーっ!」

「あ、はい!」


 遠くの方から、若い男女がレイラに声を掛けた。

 ぎこちないながらも笑顔を見せるレイラに、アリアは微笑ましくなってしまう。


「……新しい仲間、見つけたんだね」

「はいっ! アリア様のおかげで、少しだけ自信が持てるようになって……。

 だから、もっともっと! 私はアリア様に、相応しい人間にならないとな……って!」

「えぇ……。

 あのさ、そもそも……その前世とやらで、あたしとレイラはどういう関係だったの?」

「ずっと、アリア様を見ていました。まだ詳しくは思い出せませんが、あのときの気持ちは変わらずに――

 ……ふへへっ♪ 時間が出来たら、またすぐに会いに来ますね!」


 そう言うと、レイラは彼女の仲間の元に走っていった。


「前世の記憶、ですか……。もしかして、禁断の恋……みたいな?」

「ちょっと……。カーティスさんまで、変なことを言わないでくださいよ……」


 ……真実は闇の中。知らぬ過去も闇の中。

 今となっては確認のしようが無いし、そもそも確認する必要があるのかすら分からない。

 アリア自身は興味が無かったため、問題はレイラを今後どう扱うか……そこだけ、小さな悩みの種になっていた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ――アリアは一旦、拠点にしている建物に戻った。

 以前よりも人の気配が減ったせいか、少し寂しく感じられる。


「おう、アリア! 戻ってきたんだな」

「情報屋も、おかえりなさい。どこに行ってたの?」

「俺は情報屋だからな! もちろん情報を集めてきたぞ!」

「おぉー。あなたの情報、たまに役に立つんだよねぇ」

「たまに?」

「うん、たまに」

「……見返してやる!」


 ザインは素直に、もっと良い情報を持ってこようと思った。

 実際のところ、意味不明に神出鬼没なアリアを驚かせることは、密かな楽しみになりつつもあった。


「ふふっ、期待してるよ。それで?」

「まぁ、いろいろあるんだが――」


 ザインは街で集めた情報を、アリアに順序よく伝えた。

 たまに良さそうな情報があると、アリアからは飴玉の報酬が出た。


「――それで、最後に……特大の情報なんだけど」

「えーっ!? そういうの、最初に教えてよ!」

「俺は、美味しいものは最後に食べる派なんだ!」

「あたしはちょびちょび食べる派だよ!」

「気が合わないな!

 それで、これは騎士団からの情報なんだが……。牢獄の下に、巨大な地下空間があるらしい」

「……地下空間? 洞窟とかの……自然物?」

「いや。どうやら昔の街の建造物らしいんだが……」

「……昔の、街?

 えぇっと、この辺りは歴史的には――……。

 地理学的には――……。

 それ以外には――……」


 ザインの前で、考えを巡らせるアリア。

 1分ほど経ったところで、一息ついてから話を続ける。


「――たぶん、ロマンあふれる展開……みたいなのは無いね! 今回の魔物とは無関係!」

「ええ!? 騎士団では、人手を割いて調査をしてるんだぞ?」

「調査をしたからって、因果ができるわけじゃないからねぇ……。

 ……でもまぁ、あの魔物がそこを利用する可能性は……あるかもね」

「んー? と、いうと?」

「例えば……攻撃を受けて地上で追い詰められたら、地下に逃げ込んじゃう……とか」

「それならそれで、良いんじゃないか? 地上には平和が戻るわけだし」

「いやいや。やっぱり、ちゃんと討伐しないとダメだよ。地下に潜られたら、そのあと何をするか分かったものじゃないから。

 ……最悪、油断したときに地上に戻ってくるかもしれないし」

「まぁ、確かに。

 それにしても、あんな魔物をどうやって倒すんだろうなぁ……」


 あの魔物は瓦礫を自分の身体にしているため、刃の類が通らない。

 そのため今は、騎士団と冒険者の連合が試行錯誤をしているところだ。

 鈍器での物理攻撃や、魔法攻撃。その他、爆発物での攻撃など……。

 多少なりともダメージが入ることは確認されたが、それにしても、それだけではキリがない。


「戦略級の魔法が使えれば良いんだけどねぇ」


 『戦略級』とは、街ごと破壊をするとか、大量の人間を虐殺するとか、戦争で扱うようなレベルのものを指す。

 基本的には国が厳密に管理しているため、おいそれと出番がまわってくるものではない。


「そりゃ、そんなものを使えばあの魔物は倒せるだろうが……。

 そうしたら、この街も消し飛んでしまうなぁ」

「そうなんだよねぇ」


 全てが完全に消え去る……ということはないだろうが、少なくとも、人が寄り付かない土地にはなりそうだ。


「――それで、アリア的にはどうなんだ? 魔物を倒す方法はあるのか?」

「んー……。どうだろうねぇ。

 今のところ、少しずつダメージを与える……消耗戦しか、思い浮かばないかなぁ」

「やっぱりそうだよなぁ。どれくらい時間が掛かるのかは不安なところだが……」

「……ただ、気になるところはあるんだよね。

 今後一斉に攻撃をする……って話もあるから、それに便乗して――」

「――なぁ、アリア」


 ふと、ザインは真面目な顔でアリアに話し掛けた。

 突然の落差に、アリアも不思議そうに答える。


「ん? 急に、どうしたの?」

「そういえばお前って、異能を持ってるんだよな。

 『対象化拒否』……って言ったっけ? 今までも、何故かお前に手を出せないことがあったけど……」

「あはは、便利でしょう?」

「握手、したいんだが」


 そう言いながら、ザインは右手を出した。

 アリアは引き続き、不思議そうな表情を浮かべる。


「突然、なぁに? まぁ、別にいいけど――」


 アリアはザインの手を掴みにいった。しかしアリアの手を、ザインは避けてしまう。


「……俺から、お前の手を握ることって出来る?」

「まぁ、調整できる異能だから可能だけど……」


 アリアは辺りを少しきょろきょろしてから、ザインに軽く手を出した。

 ザインはその手を、そっと握る。


「――安心したよ。ちゃんと握れるんだな」


 ザインはその手を、まじまじと見つめる。


「俺は、お前の手を取れるんだ。だから、困ったときはちゃんと手を伸ばすんだぞ」

「あ……。ちょ、ちょっと!?」


 アリアの言葉を待たずに、ザインはその場を走り去っていった。

 アリアは珍しく、その場で呆けてしまった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ――夜。宿屋の自室で、アリアは考え事をしていた。

 そろそろ、あの魔物を何とかしなければいけない……。

 倒すことはなかなかに難しい……。

 ……しかし、その前に、どうしても決めなければいけないことがある。


 ――"選別"。

 『アレ』が役に立つのか、どうなのか。自分には果たして、必要なものなのか……。


 アリアは自分の手を、そっと眺めた。

 困ったときは――……か。


「そんなこと、言われたのはいつぶりかな……」


 アリアはそう呟いてから、テーブルに身体を預けて、再び自分の思考に戻っていった。

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