表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
33/34

29話 わずかに痛む心

 午後九時半。

 

 長かった夜会も終盤にさしかかっていた。

まばらではあるが会場を後にする家も出始めた。


 桂木律はカップのコーヒーを飲み干すと、おもむろに立ち上がった。


 「俺達もそろそろ帰るぞ。

挨拶回りをしてくるから、その間に帰る準備をしておけ」


 「承知致しました!」


 澪と桜井の声が重なる。

それからすぐに桜井は澪に指示を出した。


 「私達はテーブルの片付けです。

グラスや湯呑、おしぼりなどをあちらのテーブルに持っていきます」


 桜井は会場の隅に配置されている大きな黒い四角いテーブルを指さした。


 「わかりました」


 澪の返事を聞くと、桜井は頷いて無駄のない動きで片付けを始める。

テーブルを三往復して片付けを終わらせた。 

 二人が小さく息を吐いたと同時に、桂木律が戻ってくる。


 「ご苦労。では、帰るぞ」

 

 「はい!」


 堂々と歩く桂木律の後を澪達は背筋を伸ばして追う。

 しかし、ドアを通ろうとした時桂木律はふと足を止めると、桜井達に声をかけた。


 「野暮用ができた。

お前達は先に馬車の所へ行け」


 「承知致しました。柏木さん、行きましょう」


 「はい……」


 ――野暮用? こんな時に?


 澪は後ろ髪を引かれる思いで桜井に続く。

 しかし我慢できずにチラリと後ろを見ると、桂木律が女性と話し込んでいるのが目に映った。

 その女性は背中まである艶のある黒髪で、薄い黄色のドレスを着こなしていた。あまりの美しさに澪は思わず息を呑んだ。


 ――綺麗な方。私なんて足元にも及ばない


 桂木律も普段より表情を和らげて談笑している。

その光景から目を離すことができなかった。

 澪はそんな彼を見て、少し胸が痛んだ。


 ――あんなに楽しそうな表情初めて見るわ。

とても親しい間柄なのね。

 

 「柏木さん? どうかしました?」


 「はいっ!?」


 不意に桜井に声をかけられて澪は肩を震わせた。

振り返ると桜井が不思議そうな顔で澪を見つめている。 


 「す、すみません。

野暮用が気になってしまって……」


 「そうですね。私もそう思っていました。

おや? 律様のお隣にいらっしゃるのは白鷺院(しらさぎいん)様ですね」


 「白鷺院様?」


 「ええ。桂木家と同じ五大名家の一つです」


 澪は驚いて思わず手で口を覆った。


 ――五大名家!? なら、婚約とかされているのかしら?

あんなに親しそうなら、していてもおかしくはない……。

って、私ったら何を考えているのかしら。私は雑用係なんだから……


 自分には関係のないことだとわかっていても、澪の頭はそのことでいっぱいになってしまう。

 澪は慌てて話題を作った。


 「さ、桜井さんはよくご存じですね……」


 「時々訪ねてこられますから。

もちろん、他の五大名家の方々もです」


 澪は瞬きを繰り返しながら話を聞いていた。

五大名家は桂木家しか知らなかったからだ。


 「そうなんですね……」


 「はい。

これからは、お茶出し等でお会いすることもあるかもしれませんね。

少しずつ覚えていけば大丈夫ですよ」


 「頑張ります。ありがとうございます」


 「どういたしまして。

では、行きましょうか。律様に叱られてしまいます」


 「は、はい! 行きます!」


 叱るという言葉に反応した澪は、早足になった。

次回は6/20更新予定です。

よろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ