表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冷酷と噂の名家当主に嫁ぐことになりましたが、私はただの雑用係です  作者: 月森 かれん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/31

25話 夜会、開催

 午後六時半。


 澪達を乗せた馬車は、芙蓉街にある金蘭亭に到着した。

 停まると同時に桜井が手早く扉を開けて降り、桂木律も続く。

 澪は未だにドキドキしている胸を押さえながら、一瞬遅れて馬車を降りる。


 ――まさか律様の真正面に座ることになるなんてっ……


 馬車は四人乗りだった。

 奥側に桂木律、その隣に桜井。澪は不慣れということもあり、奥側に座るように桜井から指示を受けた。

そのせいで桂木律の視線を真正面から受けることになり、高鳴る胸を押さえるのに必死で、他のことは全て頭の隅に追いやられてしまった。


 澪は改めて金蘭亭を見上げる。

 夜に慣れていない澪の視界にも、真っ白な大理石で造られた外壁は暗闇でもハッキリと浮かび上がっていた。 

 

 桂木律は馬車の手配を終えると先頭に立って、澪と桜井を振り返る。


 「では、行くぞ。肩の力は抜いておけ」


 「承知致しました」


 「し、承知致しました」


 桜井の凛とした声の後に澪は返事をしたが、緊張で普段より震えてしまった。




 大広間に入った瞬間、澪は思わず息を呑んだ。

天井からいくつもの燭台が吊るされ、広間は昼のように明るい。

色とりどりの衣装を纏った人々が談笑し、楽団の音が静かに響いていた。


 ――これが、夜会……

 

 澪の視界に入る物全てが新鮮だった。 

 洋風の服を着こなし、キラキラと光る装飾品で身を飾った婦人達。

黒や赤等の蝶ネクタイを首元に結び、彼女達をエスコートする紳士達。 


 澪は思わず足を止めて魅入っていると、桜井が軽く肩をつつく。


 「柏木さん柏木さん、行きますよ」


 「え……あっ!? す、すみません!」


 澪はハッとして顔を上げると、桜井の後に続いた。

 

 桂木家のテーブルは広間の中央寄りに位置していた。

桂木律は置かれている札を確認すると、桜井と澪に声をかける。


 「俺は挨拶回りに行ってくる。

その間、二人は待機していてくれ」


 「承知致しました」


 二人の声が再び重なる。

 澪は声が震えなかったことにホッと胸をなでおろした。



 桂木律の姿が雑踏に消えたのを見届けると、澪は小声で桜井に声をかける。


 「桜井さん、先ほどはすみませんでした。

初めて見るものばかりで目移りしてしまって……」


 「初めて訪れる場所では誰しも、そうなります。

かく言う私も、最初は目移りしてしまいました」


 「え……桜井さんが?」 


 澪が驚いて聞き返すと、桜井は恥ずかしそうに頷いた。

しかしすぐにスッと目を細めると、少し真面目な声で話を続ける。


 「さて、積もる話は帰宅後にお話しましょう。

ここは夜会の場ですので」


 「すみません……」


 「いいえ」


 桜井は短く返してから、何かを思いついたように黒目を大きくした。


 「そうだ。待機している間、夜会の流れについて説明しましょう。

まだお話していませんでしたし……」


 「ぜひ、お願いします!」


 ――今までお茶の訓練しか頭になくて、当日のことをほとんど何も伺っていなかったわ。今のうちに聞いておかないと!


 澪の張りのある声を聞いて、桜井は少しだけ口元を緩めた。


 「では軽くお話しますね。

 今はまだ自由時間ですが、開会時間――今回は午後七時ですね。

その時間になると司会の方が壇に上がり、開会の言葉を述べられます」


 「はい……」


 「それが終わると会食・談笑の場となります。

そこでようやく私達の出番です。

柏木さんは桂木家のテーブルに来られた方にお飲み物を差し出してください」


 「わ、わかりました」


 ――初対面の方にお茶出し……。溢さないように気をつけなきゃ……


 澪は少し不安になりながら、ふと桜井の動きが気になった。


 「あの、桜井さんは?」


 「私はテーブルの付近を回っています。

お気づきかもしれませんが、この辺りは五大名家のテーブルなのです」

 

 澪は慌てて周囲を見回した。

誰も席にはついていなかったが、側には他の貴族達とは一際違った雰囲気を纏った男女が数名、挨拶を交わしている。

 澪はゴクリと唾を飲み込むと、震えながら桜井に一歩近づいた。

 

 「ま、全く気がつきませんでした……」


 「私もお話していませんでしたので……。

ですが、そう緊張しなくても大丈夫ですよ。

 皆様が挨拶として微笑まれることがあるかもしれませんが、こちらも会釈を返しておけば、間違いありません。」


 「しっかり頭に入れておきます!」

 

 澪が意気込んで返事をした時だった。

 シワ一つない黒いスーツを着こなした老紳士が、奥に設置されている壇に上がった。

彼は背筋をピンと伸ばすと、マイクを片手に(よど)みのない声で話し始める。


 「皆様方、本日はご多忙の中夜会にお越し下さり、真に感謝申し上げます。

つきましては――」


 貴族達は動きを止め、老紳士の挨拶に耳を澄ませた。

 遠くに見える桂木律も、目を閉じ少し俯いて静かに聞いている。

 老紳士はそこから二分ほど話し、最後にこう締めくくった。


 「それでは皆様方、本日はごゆるりとお楽しみくださいませ」

お待たせしました!

次回の更新は4/18の予定です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ