点火
栗山は話題を変えようと思う。
「浦木。こんな時になんだけど」
「・・・何だい?」
「幹部候補生学校で出会った、一般幹部のクールビューティ。時枝だっけ?彼女とはどうなったんだ?アタックしたんだろ?」
息を止めているようだった浦木が吹き出す。
「お前なあ・・。」
「で、どうだったんだ。ま、撃墜できてたら、自慢してるよな」
「ああ、その通りだよ。惨敗。何回告っても撃墜されました。今はそれどころじゃないでしょうってね。」
「なんだよそれ。まるでお姉ちゃんじゃん?あっ。一般だから実際齢上か」
「・・部隊配属されて、強くなったら付き合ってくれるか?って言ったら、爆笑されて弟扱いされたよ・・。楽しみにしてるねって」
それを聞いた栗山は手を叩いて爆笑した。
「話聞いてる限り、よっぽど頭いいみたいだよな。最後までパイロットってことはないだろうし、多分、30歳くらいで除隊して、どっかの毛並みのいい男と・・」
「そうはさせん!」
「怒るなよ。そういえば、彼女はどこに配属されたんだっけ?」
「第9航空団だよ・・生きてるといいな。」
「あ・・。すまん・・」
沖縄は文字通りの最前線と化している。状況は分からないが、相当な苦戦のはずだった。
しばらく気まずい沈黙になる。
「なあ。浦木。彼女とSMSは繋がってるんだろ?安否は聞いてみたか?」
「いや?」
「聞いとけよ。生きてることを信じて。陸自の前線部隊だったら、連絡はマズイかもだけど。それに衛星通信の会社のセキュリティは、ウクライナの戦訓で相当に強化されてるって話だろ?」
「・・そうか」
促されるままに、浦木はポチポチとSNSで「無事か?」とだけ、時枝にメッセージを送る。
期待していなかったのに、時枝から即レスがある。てっきり交戦中か、最悪既に戦死しているとばかり思っていた。
「えっ!時姉生きてる!?北大東島に不時着?よくあんなところに着陸できたな。で、燃料切れ、どことも連絡がつかないって?」
情勢が緊迫化してからというもの。程度の差こそあれ、自衛官達は有事となった場合、どのような展開になるかについて考えている。中国の装備についても自分で勉強している者も多いし、その動向もだ。
無論、部隊からは中国軍の動きについて、適宜情報は降りてはいるが、自分の運命に関わる情報だから、上からの情報だけで満足できないことも多い。
浦木も公私の情報から、その頭の中には中国軍の配置がインプットされていた。
(F35Bのミッションコンピューターもだ。)
その情報から判断すると、からくも沖縄を脱出した時枝だったが、まだ危険な状態のはずだ。
何せ北大東島空港には、基地のような格納庫が無い。中国の偵察衛星に簡単に見つかってしまう。見つかったらどうなる?戦闘機1機に弾道ミサイルを使ってくるかは分からない。だが、太平洋上に進出した中国艦隊の巡航ミサイルや、機動部隊の艦載機に爆撃されることは考えられる。すくなくとも浦木にはそう思えた。
なんとか北大東島空港事務所に燃料を提供してもらって、北大東島からさらに安全なところに避難をするべきだと思う。
だが、どこへ?本州の滑走路はどこが無事だかは分からない。いっそ硫黄島へ?いや、そんなことしたら硫黄島への攻撃を誘発しないか?
そもそも時枝が避難している時に、たった1機の彼女を中国の艦隊が見逃すだろうか?
J15差し向けられ、追いかけ回されて嬲り殺しになりかねない。
そこまでで浦木の脳裏に閃くものがあった。
悪くない考えに思える。自分では。だが、そもそも一介の2等空尉に自分に実現できるのか?
そこでまた浦木は時枝との幹部候補生学校での会話を思い出す。
その時、浦木は一般幹部のリーダーになった時枝が自分の意見を全体のものとして次々実現したり、皆の意見をまとめるのを見て、その手腕に感心していた。何かコツでもあるのかと尋ねた時、彼女は笑ってこう言った。
「難しい話じゃないわ。いくら自分ではいい考えだと思っていても、自分1人だけだとだと通らないのよ。よっぽど暴君リーダーでもない限りね。だから私は、なるべく多くの人、できれば影響力のありそうな人を巻き込んでから動くようにしているの。それだけよ。それがコツかな?」
「なるほど。こうやって、意見具申っていうヤツが生まれていくんだな。時姉、その考え貰うよ!」
バシッと手を打ち合わせた。
「浦木?」
「栗山。僕の考えを聞いてから、斎藤3佐のところへ付き合ってくれないか?」
そういうと、時枝に「僕に考えがあるから、任せてくれ」とメッセージを送る。
「ありがとう。頼りにしてる。」と返信が来た。メッセージを見た浦木の心に火が付く。
(時姉を俺が助ける!)




