同期
F35Bの点検がとりあえず落ち着き、栗山は休憩を与えられて格納庫の外に出た。
スマホを取り出す。
何が起きているのか、ブラウザやSNSアプリを使って調べようとする。
この時期、未だにスマホの使用制限について、自衛隊として統一された正式な通達は無い。
一応、基地司令部から不要不急なスマホ使用は、思わぬ暴露に繋がるから、使用は控えることとされていた。
F35Bの存在については、触れることは無論厳禁だ。
栗山は一応インターネットを見ていることを他人に見られないよう、周りを伺う。
だが、彼は知らなかった。硫黄島と本土を繋ぐ海底ケーブルは繋がっているものの、その接続先の関東圏では、中国の大規模なサイバー攻撃によって輻輳が起きて、ネットには殆ど繋がらない状態だったのだ。
「くそ。繋がらない。サイバー攻撃か?」
そこへ誰かがブラウザが表示されたスマホを差し出す。浦木だった。
「使えよ。先月、衛星サービスにしたんだ」
「おっ。浦木!サンキュ!さすが高給取り!」
「まあね。それより、何か情報は無いかい。僕は中身には詳しいつもりだけど、ネットの情報を集めるのは苦手なんだ」
「知ってる。技術には整備の人間よりセンスあるのに、妙だよな」
2人の会話は、格納庫内とは違って、上下関係を感じさせない。昔からの付き合いなのだ。
栗山と浦木は航空学生同期。
ただ、浦木が過程を最後まで突破していたのに対して、栗山は初球操縦過程でエリミネート。いわゆる「免」となって、パイロットの夢を絶たれていた。
パイロットに成れないのなら、航空自衛隊に居ても無意味との思いから、航空自衛他そのものから去ってしまう者も多い。
全身全霊をかけ、これぞ我が人生という思いでいた道が絶たれたのだから無理も無い。
だが、栗山はパイロットに成れないなら、他に戦闘機に近い場所で仕事をする道を選んだのだった。
当然、かつての同期がパイロットとなった姿を見て、眩しい思いをすることも有るが、折り合いを付けながら自分の途を歩んでいる。
なんのかんのと航空自衛隊はパイロットが中心の社会だから、かつての同期とは言え、立場の違いには歴然としたものがある。
だから、他人の目がある時は、パイロットと整備員。2尉と士長という関係。だが、二人だけの時は同期の関係に戻るのだ。
臨時飛行隊が編成された時、久しぶりに再会したが、立場が変わっているから、ちょっぴり気まずかったものの、それは最初だけだ。
編成されたばかりの部隊の中にあって、タメ口で遠慮の無い会話の出来る相手は、二人ともに貴重だったのだ
浦木はネットの操作が下手な割に、ソフトウェアには詳しい。
何せ、航空学生の2次試験の面接で「良くみるテレビや動画はどんなものがあるか?」
という質問に対し、
「両方ともあまり見ません。部活の無い日は、日経ソフトウェアを見てラズベリーパイを弄っています」。
と答えるような高校生だったのだ。
技術面の理解があることが、F35Bの最初期メンバーに浦木が選抜された理由の一つだった。
だが、浦木にはもう一つの選抜理由がある。
「これは・・やばいな。」
「そんなにマズイのかい。」
「見てみろよ」
栗山はあっさりと、衛星通信でSNSを使用して、海外のSNSアカウントが発信する情報を見つけていた。
添付された動画を再生する。
「・・・!」
・崩壊した防衛省
・炎上する「いずも」と福井県の石油備蓄基地、関空、宮古島のコンビニ。
・攻撃をうける宮古島駐屯地
・自爆ドローンで攻撃される嘉手納のF15
・弾道ミサイルが降り注ぐ那覇基地と那覇駐屯地
・崩壊する関空の商業施設から、辛くも避難する子供を背負った若い女性
「フェイクじゃないのかよ。これ?」
特に最後の動画の女性は、自分達と年齢が近いように思えた。そんな女性が文字通り戦火に追われている様は自衛官として堪えた。官民問わず、相当犠牲が出ているだろう。栗山は格納庫で浦木がイラついていたのも、分かる気がした。
さらに、テキストだけだが
・台湾海峡で強襲揚陸艦アメリカが撃沈
・宮古島と与那国島に中国軍が上陸。ほぼ制圧。
・台湾に大空襲
・三重県の尾鷲市沖で災害派遣中の「はくおう」が炎上中。
「ほんとうかよ・・?はくほうはホテルシップになって、避難民が・・くそっ!」
彼は、浦木に礼を言って、スマホを返そうとして、その表情にギョッとした。
浦木は怒りと悔しさで顔面が蒼白になっていた。その髪の毛は今にも逆立ちそうだ。怒るとアドレナリンが一気に出て、極度の興奮状態になる。普段はおっとりしているが、怒らせると何をしでかすか分からない。
そして極度の負けず嫌いでもある。栗山はここまで怒る浦木を久しぶりに見た。そしてこれが、自分と浦木の差だと思う。
(センスとかじゃなくて、こういう部分で俺はパイロットに成れなかったんだろうな。この闘志こそが、浦木がこの部隊にえらばれた理由なんだろう。)




