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死霊の黒騎士と黒猫のルル  作者: 鮭雑炊


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155

155「光るのは」



 星を見上げるように。


 人々が舞台の上の俺を見る。

 口を開けて。呆けて。


 やつらの瞳に映る俺という存在はここに一人のみなれど、やつらの心の中に創り上げた虚構の世界にはそれぞれにひとりずつ、俺がいる。


 天使だの。悪魔だの。


 勝手に創り上げて、勝手にあがめ、もしくは勝手に憎む存在として、無数の俺が存在する。

 奴らの中に創り上げられた無数の俺とここに居る俺とは完全に違うものだ。だが。


 そのどちらが正解でどちらが間違いという問題ではなく、どちらもが正解。そういうことだ。そんなことを思いながら、前へと進む。


 フランスの地の動乱を収めよとのローマ教皇の命を受けてここに居る男。


 黒檀の様に黒く輝く鎧を着た俺と、黒い猫を抱く少女。二人と一匹。舞台を降りて進む。

 俺たちの行く手を阻む勇気のあるものなど、とうにいない。


「騎士様!」


 男の近くに居て男をかばうようにして立っていたリュミエラが叫ぶ。


「大きな声を出すな。ちゃんと聞こえている」


 耳があるかどうかもわからなかった骨の時と比べて、女のものであってもこの体には耳がある。血の通った耳だ。


 泣きそうな顔で俺を見るリュミエラ。ようやく助けが来たとでも思ったか。

 その横、こちらは消え入りそうな声で。


「…………黒様」


 俺を呼ぶ。


 プリュエル。元・盲目の女僧侶。

 なにやら俺たちがルーアンに居る時に起きた騒動の際、怪我をしたという。すでに手当はされているが、顔には当て布がされ、血の跡が服に残っている。


 にしても黒様、か。

 黒い色。

 どこかの言葉でクロが持つ意味の言葉。

 好きに呼べと言ってプリュエルが俺のことを呼び出したのが黒騎士からとった黒……黒猫め、やはり俺の名を適当につけたのではなかろうな。


「申し訳ございません。黒様。私が不甲斐なくこのような……」


 俺に向けて何やら言い訳めいたことを口にするが、別にプリュエルに落ち度のあることでもあるまい。


 大勢の人が多くのことを思い、それぞれの思いの元で行動し、それは大きな流れになって、さらに大勢の人を巻き込む。巨大な流れに巻き込まれた際、人個人の力など取るに足らないものになる。


 白地に銀の意匠を施した立派な僧衣に身を包む女僧侶は、着ている服の格に合わないとばかり身をすくめる。


「ルル。プリュエルを癒してやれ」


 癒す力があるのだから癒してやれと、軽い気持ちで言うのではない。

 奇跡は無償ではない。現象には理由がある。奇跡に見えるものがあるならば、裏でそれを行う者がいる。俺はもう知っている。


「ふふ、黒騎士さん。彼女を癒すのならば、黒騎士さんがやってあげてちょうだい」

「あん?」


 少女の腕に抱かれたままの黒猫が言う。


「ちょっとプリュエルさんに向けて手をかざしてごらんなさいな」

「黒猫よ、俺に癒しの力などあるわけが……」

「まあまあ。その体は私が君だけの為に作った特別製。今の黒騎士さんに奇跡の力が宿っていないと、どうして言い切れるの?」

「なに?」


 願い。焦がれ。ついには別世界の俺が身を焼くほどにまで狂っていった奇跡の力の行使。


 それが俺の……この女の身に宿っていると?


「……こうか?」


 黒猫の口車に乗せられて、ついうっかりプリュエルに向けて手をかざしてしまう。体が勝手に動いたというやつだ。


 直後、俺の体が光り、その光はプリュエルにも移り、すぐに消える。


 果たして癒しの奇跡は為され、プリュエルに当てられていた布が落ちた後には、傷の一つもない女の顔。


「……おお」

「……奇跡」


 言葉を失う人々を前に、立派な僧衣を着た女僧侶は、大切に首からかけられていた黒檀のナイフを祈りの形に握りしめて神への感謝の言葉を述べる。


 癒しの奇跡。


 プリュエルと出会った時の再現とも言うべき状況。

 違うのは、あの時には俺たちしかおらず、今は大勢の者が見ていることくらい。


 俺は手を見て。


「……何かをしたという気にならんのだが?」


 と、正直な感想を述べる。

 奇跡にしては、あまりにも簡単すぎる。


「そらそうよ。黒騎士さんは手をかざしただけで、実際に癒したのは私だし」

「……………………」


 こともなげに言う猫。

 手を挙げたままの間抜けな姿で固まる俺。


「……………………わかっておったわ」


 身に奇跡を宿したと言われて、疑うこともなく動いた俺に、貴様はこう言いたいのだな? いつになったら学習をするのかと。いつまで奇跡に憧れる子供のままかと。


 おのれ。


 今すぐ黒猫を捕まえて遠くにぶん投げてやりたい。視界にも入らないくらい遠く遠くにぶん投げてやりたい。


 しかし、それは今じゃない。


 それにそんな雰囲気でもない。じゃれ合うのも時と場合だ。今はこぶしを強く握りしめて我慢をする。いつか、俺が強くなり知識を蓄えた後で、必ず復讐してやるからな。覚えておけよ。


「騎士様! ルル様!」


 癒しの奇跡の衝撃を前に、いち早く立ち直ったリュミエラが元気、というには、いささか切羽詰まった声で俺たちを呼ぶ。


「戦争が! 私が光らないから! どれだけ祈っても光らないから! 戦争が始まってしまう!」


 そんなことを言う。


 リュミエラ。貴様が光るのと戦争が始まるのに何の関係がある?






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