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貧乏男爵家の次女に転生した私は魔法の天才と一族から期待を寄せられていますが、その才能は、いつになったら開花するのでしょうか? ~略称(貧そい)~  作者: アカホシマルオ
アリソン九歳編

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開花その118 龍震 後編

 


 伝説では、山に眠る龍がほんの僅かでも動けば、その影響で大地が揺れるという。それを、龍震と呼ぶ。


 北の山脈を震源とする地震が起きると龍が寝返りをうったなどと言われ、一般的にはそれが龍震と呼ばれている。しかし本当に龍は何体かが北の山脈に眠っていて、身動き一つしない。

 それは魔獣の封印された山よりも更に北方の山奥で、人跡未踏の地である。


 そしてその龍のうち何体かが、もぞもぞと動き始めているのだ。このままでは、本物の龍震を起こす可能性は高い。少し動いただけで、それなのだ。本気で目覚めたらどうなるのか、誰にも分らない。



(きっと、あのあやかしがこちらの大陸へ来なかったのは、北の山脈に龍がいるからだね)

 ルアンナが、さらっと言う。


(あんた、気付いていたなら、もっと早く言いなさいよ)

 では、今度は龍が嫌だとか怖いとか言っていられないくらいに、相手が追い詰められているということなのだろうか?


(背水の陣で向かって来るような敵は、相手にしたくないなぁ)

 下手に刺激して龍が目覚めただけでもこの大陸は滅びそうだし、何とか追い返す方法はないものか。


(ルアンナ、相手が嫌がりそうなこと、何か思いつかない? ほら、こういうのは性格の悪いあんたの得意分野でしょ)

(それはそのまま、姫様にお返ししますよ)

 ダメ精霊に返されて、私は少し傷ついた。


「ねぇコマ。私ってそんなに性格悪いかなぁ?」

 突然の問いに、コマが目を丸くした。

「それは、私がここにいる事実が証明しているのでは?」

 うっ、こいつも中々だぞ。


 さて、どうしようか。

 船は上昇を続けるが、一向に凶星に近付く気配はない。あれ、これって南の大陸で経験したアレと同じか?

 そうなると、これ以上の物理的な移動は無意味だろう。



 海水が苦手なのかもしれないと考えて、空になった魔法収納には念のため大量の海水を保管しておいたのだが、よく考えればそんな単純な話ではなかろう。

 ただ、一応あの歪みに海水をぶち込む案も、プランの中には残している。


 さて、凶星は見えるのに近付けない。大陸を覆っていた障壁のような何かが、接近を阻んでいるのだろうか。


 それならそれで、南の大陸のように、充分に引き付けてから対処すればよい。ただ不安なのは、この大陸のどこから侵攻を始めるのか。そして不安定にざわつき始めた龍が起きてはこちらも困る、ということだ。


 相手はもう意を決していて、龍と戦う気が満々なのかもしれない、でも巻き込まれるこちらは、非常に迷惑な話だ。



 とりあえず次善の策として、私は大陸に散らばっているデンデンムシのネットワークを呼び起こした。

 昨年せっせと配った甲斐あって、今では二十体ほどのデンデンムシが大陸のあちこちへ散らばっている。


 普段は眠っているそのネットワークを通じて観測範囲を広げ、異変の起きる場所を予測しよう。決してデンデンムシの持ち主には気付かれぬように。



 私は、デンデンムシのネットワークに没入する。


 ほう。この凶星、エルフの森からは東に見えているのか。

 龍の動向については、一番近いドワーフの鉱山から監視する。

 そしてフランシスのいる海辺では、凶星の出現とともに大陸南岸に魔物が押し寄せていた。やはりあの魔物たちは、妖を包囲していたのだったか。


 ここから先は、その観測情報を元に、私が解析を進める。

 やはり凶星の位置は、王都南西に位置する荒野か、その南に広がる森林地帯のようだ。南の大陸でも、始まりは人跡未踏の山野であったらしい。

 さて、どうする?


「一度屋敷へ戻ろう」

 あっさりと私が言うので、コマは心底ほっとしたようだ。

「あれ、もう少し飛びたかった?」

「いえ、もう充分です」


(姫様。そういうところですよ)

 あ、なるほど。



 一度戻って、作戦を練り直さねば。

 そう思って地上へ降下しているのだが、どうも変だぞ。


「ねえ、コマ。私たち、戻れなくなったみたい」

 これは本当に、南の大陸での経験と同じパターンだ。全く学習能力がない間抜けだな。


「も、戻れないとはどういう意味ですか?」

「うん。このまま墜落するとか?」

「ひっ!」


「冗談だって。なんかこの空間に捕らえられているというか、そんな感じ」

 察してほしい。あと、まだまだ何日でも飛んでいられるぞ。


「あの、南の大陸で彷徨っていたような感じですか?」

「そうそう、それだよ。ほら、嘘じゃなかったでしょ」

「いや、別に疑っていませんよ」

 まぁ、そうだね。



 しかし、何度も同じ手が通用すると思われても困る。

「ふふん。私だって、対策を考えていたさ」

「おお、頼もしいです」


「ただ、考えてはみたものの、良い対策を思いつかなかっただけだ」

「ダメじゃないですか」

「いや、良い対策はないが、良くない対策ならある」

「……」


 だから、ここで黙らずに、もう一息何か言えよ!

 すぐに思考停止になっていては、長生きできないぞ。



 大陸に広がる多くの目により観測した結果によると、あの凶星の座標は、ある一定の地点を指している。しかも、その地点にはちゃんと妖の気配があった。

 つまり、本体はそこにいて、偽装はできていない。だからこそ、それを守るためにおかしな結界的な何かで守っているのだろう。


 それなら最初から、全力で本体を叩く。一度それで敗退しているからこそ、私の攻撃に対しては過剰に反応するはずだ。間違いない。きっとそうに決まっている。


(何かと思えば、いつもと同じ強引な力業ちからわざですか)

(そうだよ。悪いか)

 ルアンナに何と言われようが、どんなにスマートさの欠ける方法だとしても、これは必ず大きな牽制になるだろう。

 願わくば、それで慌てて撤退してほしいものだ。



「じゃ、ちょっと見ててね」

 黙り込んだコマに手をかざし、おとなしくしているように指示する。

 さて、では始めるか。


 単なる力業だけでは、本当にルアンナから笑われる。少しだけ、今の状況を考慮してみた。今回は距離が遠いので、遠隔射撃を中心に組み立てよう。

 私の遠隔攻撃リストで一番命中率の高そうなのは、エルフの弓である。

 矢は自動追尾式の魔法矢で、妖を押し返した時と同じでトッピングは全部乗せのフルバージョン。


 それが一の矢。二の矢は冗談で大量の海水を含んだスプ石もどきを装着。三の矢は同じく最近また屋敷のゲロ温泉から延命薬を取り除いた後の毒水を仕込んだ。単なる嫌がらせシリーズである。

 最後の矢は本気の呪い。ルアンナの闇魔法の粋を集めた暗黒の矢である。

 さて、このうちどれかがあそこへ届いて、ダメージを与えられればよいのだが。



 私は弓を持ち、最初の矢をつがえた。

 目を閉じて、感覚を研ぎ澄ます。そして、第一の矢を放った。続いてすぐに、第二の矢を放つ。第一の矢が本体のいる亀裂に突き刺されば、二の矢三の矢も内部へ届くはずだ。

 見届ける間もなく、三の矢を放つ。


 順調であれば空間を引き裂いて、そろそろ一の矢が届くだろう。

 ほら、目に見える赤い凶星が、瞬いた。

 届いた!


 次に二の矢、三の矢が向かう。

 最後の矢を弓につがえた時、唐突に周囲の空気が震えた。

 


「コマ、脱出するよ」

 捕らえられていた空間から、船が落ちている。

 凶星を守っていた異空間の壁が消えて、通常の空に戻ったのだ。


 落下する船を空に引き留めながら、徐々に高度を落とす。

(姫様、龍震です!)

 ルアンナの声なき叫びに、北西の方角を見た。


 ここからでははっきりと見えないが、北の山脈の一部が揺れ動き、それが大陸中に地震となって伝わっているようだ。


(これは大きいです)

 ドワーフの鉱山のデンデンムシからの情報によると、北の山脈では大きな雪崩が発生しているらしい。

 幸い、まだ龍が目覚めてはいない。



 私は第四の矢を放つことを諦めて、王都近郊の森へと降下した。

 行きと逆のルートで屋敷へ戻ると、もう午後遅い時間になっていた。


「変だな。そんなに時間が経った気がしないんだけど」

「そ、そうですね」

 しかしコマは、どっと年老いたような気配ではある。


 凶星を取り巻く結界は消えた。本体を叩くなら今のうちであるが、龍震による被害状況を知りたい。それに、これ以上龍を刺激したら、どうなるのかが怖い。

 どうにも身動きの取りにくい事態に陥っていた。


「龍震の被害はどう?」

 屋敷に戻り、ドゥンクとシロちゃんに街の様子を探りに行かせた。



 その間に、魂の抜けたコマの世話をプリセル二人にお願いして、私は再びデンデンムシたちによる情報収集を始めた。

 各デンデンムシの所有者には、特に異常はない。


 龍の眠る山脈に近く、一番被害の大きそうなドワーフの鉱山組合長ゼルフを呼び出した。

「組合長、ごめんね、こんな時に。そっちは大丈夫?」

「ああ。姫さん。こっちは大きな被害もなく、平気でさぁ。そっちは王都ですか?」


「うん。あの赤い凶星に少しちょっかいを出したらさ、龍震が起きちゃったの」

「やっぱりあれは、姫さんの言っていた南の大陸の……」


「うん。このままだと龍が起きそうだから、今日はもう手を出さない。私が何とかするから、みんなには落ち着くように言っておいて」

「へい。頼みましたぜ」


「うん。悪いけど、そこが一番近いから、龍をよく見張っていてね。何かあれば、すぐに連絡を頂戴」

「それなら、お任せ下さい」



 私は王都の無事を確認後、デンデンムシで関係各所と連絡を取り合い、ひたすら謝り、言い訳をしまくった。ああ情けない。


 すぐに日が暮れて、我が屋敷の住民が集まり一緒に夕飯を食べた。

 コマとプリセルにより大まかな事情は皆に伝わっているが、今後のことについては白紙である。

 私としても、次の手を考えねばならない。


 幸い、この大陸に迫りつつある本当の危機について、知る物は数少ない。そしてそれに対抗しうるのは、私以外に心当たりがないよなぁ。


(いつかはこうなる定めだったとは言え、これは姫様の始めたことですから、責任重大ですよ)

 ルアンナが真面目な話をするのだから、いよいよ本気でヤバいのだ。


(そんなことは、ちゃんとわかっているって。一度は退けた相手に、私が負けるわけがないでしょ!)

 ルアンナには一応強がって見せたが、さてさて、今度ばかりはかなり厳しいなぁ。

 なんかさくっと終わらせる新魔法でもあればいいけど……



「姫様。コマが最後の晩餐とか変なことを言っていますが、今夜はたっぷり食べてゆっくり寝て、明日はしっかり頼みますよ」

 夕飯の席で、プリスカが妙に優しい。どんな魂胆だ?


「よし、今夜はたっぷり飲んで食うぞー」

「昨夜もたくさん飲みましたよね?」

「もう忘れた」

「では、ムラノと追加の料理を用意します」


「それなら、今日はとっておきのブルーボトルでも開けるかっ!」

 最高級のワインで乾杯し、その夜は大いに盛り上がった。

 誰も、凶星については触れようとしない。どう見ても、全員がひたすら現実逃避しているだけだったよなぁ。



 終







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