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貧乏男爵家の次女に転生した私は魔法の天才と一族から期待を寄せられていますが、その才能は、いつになったら開花するのでしょうか? ~略称(貧そい)~  作者: アカホシマルオ
アリソン九歳編

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開花その117 凶星 前編

 


 巨大海亀スーちゃんの航行速度は素晴らしく、二週間ほどで中継点の島へ到着してしまった。


 この火山島へ来るのも、三年ぶりか。以前は小さな島だと思っていたが、今まで南の海で立ち寄った他の島に比べると標高も高く、一回りも二回りも大きく感じる。

 火山活動で島の大半が水没する前は、かなりの大きさだったのだろう。



「姫様。お久しぶりです」

「ああ、ソラちゃん。元気にしてた?」

 沖合に停泊するスーちゃんの背から、メタルゲート号でひとっ飛びした。以前船が漂着した入江に向かう。

 それに合わせるように、ソラちゃんが山の上から飛んで来た。


 この入江は、大型船も停泊できるような深さのある立派な湾である。猛禽類の姿をした魔獣が上空からゆったりと舞い降りるのは、猛烈な迫力であった。


 空を覆う威圧感に、プリスカが思わず剣を握りかける。しかしすぐに気付いて殺気を収め、その手を止めた。

「おい。そのまま剣を抜いていたら、上半身を食いちぎられていたぞ」

 私の指摘に、プリスカが肩をすくめた。ソラちゃんは本物の魔獣である。首を食いちぎられても復活するかという実験には、ちょうどいいかもしれない。


「それでも復活できるか、実験してみる?」

「いや、まだ止めておきます」

 うーん、まだ、と言ったな。やはりいつかはやる気なのだろうか?


 ウミちゃんが小さなウミヘビ姿でいるのを見て、ソラちゃんも姿を小さく変えて船の上に舞い降りた。



「地滑りの跡も消えて、すっかり元に戻ったようだね」

「ここのところ海の魔物もおとなしく、穏やかな日々が続いております」

 そうか。やはり、海の魔物は沈静化傾向にあるのか。これはこの島へ航路が伸びるのも、意外と早いかもしれないな。


 以前は気にしていなかったのだが、ここが南北大陸の交易の中継点であったことは、非常に大きな意味があった。

 つまり、大型の貨物船が停泊できる安全な港があり、南北の航路がここで交わる。


 私はただ航海の中継地点だったと思っていたのだが、恐らく違う。南北の船がここで乗客や荷物を積み替えて、また元来た航路を戻っていたのだろう。

 それにより、互いに不慣れな長い航路を辿る必要がなくなるのだ。


 ここは、単なる補給地ではなかった。

 南北の交易物資が一度島に降ろされ、荷物を積み替えて再び戻る。きっとそれが理由で、大きく栄えていたのだろう。



 今後はこの島にも人が住み、南の大陸への航路を開く拠点ともなるだろう。この先かなりの年月を要するとしても、その流れは止められない。

 ソラちゃんには、そのつもりでいてほしい。


「ウミちゃんも今後のために、ここへ残ってくれるかな」

「もちろんです」

「海と空の守り神のいるこの島は、きっとこれから以前のように栄えるよ」

「セルカ、この島を海図にしっかり書き加えておいてね」


 帰ったら、海の魔物の変容と共に、海の冒険者に伝えておこう。あと、エルフや王国の第三王子にもね。

 本当に、面倒なことだけど。

 南の大陸の新たな開拓史が、ここから始まる。



 かつてこの中継点の島に君臨した邪神ハイネス様はおとなしく休眠していたのだけれど、うっかり私が浄化してしまった。だけどこの邪心様、どうやらソラちゃんやスーちゃんの元主人であり、近隣の海域を守護する良き神であったようだ。当時の人々から畏怖されていたアンデッド系の魔物とはいえ、邪神呼ばわりは失敬な話である。


 滅亡前の南の大陸に暮らしていた住民が交易拠点を独占するために、ウミちゃんに邪神討伐の使命を与えて送り出したのだ。


 その意を汲んで、私はこの島をハイネス島と名付けた。

 山に一部残る神殿の遺跡もいつか整備して、ハイネス様を島の守り神として敬うよう伝えていきたい。


「それまで、遺跡はソラちゃんが守っておいてね」

「はい。きっとハイネス様もお喜びだと思います」


「姫様がまともなことを言うので、きっと今日はこれから嵐になるでしょう」

 ルアンナは、ろくなことを言わない。しかも今はプリセルの二人にも、この話は聞こえているのだ。

 こら、笑っている場合じゃないぞ。


 しかしルアンナの予告通り、その夜から嵐となった。

「ホント、私ってこの世界から祝福されていないと感じるわ」



 嵐で海が荒れて三日間島に閉じ込められたが、その間に海と山の恵みを大量に蓄えることができた。


 島で収穫した果実や捕らえた鳥や獣の一部を、スーちゃんの背に広がる原生林の新たな住民として運んでみた。

 家の近くには溜池を作っておいたので、貴重な水源として役立つといいのだが。


 残念ながら遠回りになるので帰りはカタツムリの島へは寄らず、そのままスーちゃんの背に乗って、まっすぐにフランシスたちの暮らすパーセルの港を目指した。



 昨年カタツムリの島から脱出した後、大陸のあちこちへ出向いて色々な話をしたのを思い出す。

 きっと今年も、似たようなことになるだろう。


 昨年にも増して、今年の経験はセンセーショナルだ。しかし昨年以上に何の証拠も見せられないので、信じてくれるかな?


「何か、決定的な証拠を持ち帰ることはできなかったのかなぁ?」


 思わず呟く独り言に、セルカが反応した。

「えっ、南の大陸の異変についてですか?」


「うん。あまりに荒唐無稽な話だからねぇ。あれをそのまま説明されても、中々信じられないよね」


 セルカも大きく頷き、少し考えた。

「海の魔物が減った真の理由とかじゃだめですか?」

「そりゃ何とでも言えるよね」

 言いたい放題だ。


「確かに証拠にはなりませんね。そもそもあの大陸での出来事が、全て夢の中のようでしたから」

 おい、遠い目をするな。今もまだ夢見ているようだぞ。



「あ、二人の従者が魔物化した事実を見せてやればいいか」

「若い娘に向かって、失礼なことを言わないでください!」

 おっと、魔物化はNGワード。


「じゃ、どう言えばいいんだよ」

「うーん、より高次の存在となって生まれ変わった、とか」

「ほう。パンダは元から高次の存在だったのか?」

 魔物はNGだが魔獣はOKのようだ。


「あれと比べないようにしてください。でも先生は元々、化け物じみていましたからねぇ……」

 おい、化け物はいいのか?


「確かにあれは、以前からパンダ並みに低次元の存在だった。だから今回ランクアップしてやっと普通になっただけ、という感じだな」



「私の話ですか?」

 プリスカが話に加わる。怒っていないので、ちゃんと聞いていなかったようだ。


「今回の出来事を他人に話しても、果たして信じてもらえるだろうかって話だよ」

「あっ、確かに何の証拠もないですね」

「そうなんですよ」


「あんたたち二人は出たり消えたりする以外に、何かできることはないのか?」

「はっ?」

「そんなことを言われても」


「無いのか。役に立たない魔物たちだな」

「魔物と言わないでください」



「あ、一つありました」

 プリスカが自慢げに小鼻を広げて私を見る。


「ほら、手足を切り落とされても、すぐに元通り!」

「あ、あれは凄い技ですよね!」

「技なのか?」


「でも、普通の人間にはできませんよ」

「だからこそ、人前であれを見せるのは禁止だからな」

「あ、もしかして姫様もできませんか?」

 何か自慢げに言われて腹が立つ。


「トカゲじゃないんだから、できないよ!」

 トカゲと言われた二人は少し傷ついたような顔をするが、これはトカゲみたいにスゴイことは私ごときにはできない、という意味だよ。オオトカゲのポチは私の大切な友人だから、トカゲをディスる気持ちはない。



 一応、私たちが南の大陸に行った証拠は色々残してきた。急激な気候変動や地質変動により地形が大きく変化した際にも目印となるように、私の謎金属製の巨大オブジェをあちこちに残してある。


 神殿のあった島には土魔法で巨大な山を作り、頂上に数百メートルの直立する銀の串を刺してある。

 その他要所には金の針やら銀の串を立て、戯れにナスカの地上絵のように土魔法で絵を描いて遊んできた。


 私一人でやったことなので、休眠中のプリセルの二人は知らない。

 でもそれは、いつの日か人類があの大陸へ到達した後に発見するであろう未来の話だ。今の段階で、どうすれば信じてもらえるかな。まぁいいか。


「とにかく、シオネとフランシスにはあんたたちの変異は伝えない。だからその部分を省いて、あの事件の説明をするから。忘れないでね」



 セル方が沖からカタツムリを使って、兄のシオネに無事帰還の連絡を入れた。

「おおお。姫様、一つ大きな変化がぁっ」

「何があった?」


「カタツムリが私の耳に引っ付きません」

 あれ、そうか。以前のセルカはカタツムリに好かれすぎて、耳に粘液をべっちょり出して貼り付かれていたよね。


「ああ、半精霊同士で仲間意識が芽生えたか。やっとおいしいご飯だと認識されなくなって、よかったね」

「えっ、以前のあれは、私が食べられそうになっていたのですか?」



 ということで、我々は沖でスーちゃんの背を降り、メタルゲート号で帰還した。

 フランシス師匠のお腹はかなり膨れていたが、出産はもう少し先らしい。


 無事の帰還を喜びながら一通りの説明を二人にしてから、セルカの作った海図を持って海の冒険者の本部へ行った。


 団長には昨年同様事件の核心部分は伝えずに海図の件を中心に話すと、海の魔物が比較的穏やかになっていることは把握していた。そして問題の南の大陸の話であるが、興味深く聞いた後、疑問も持たれなかったようだ。


 私たちの行動については、レッドバフの乗組員から詳細を把握していたようで、特に現実的な到達目標であるハイネス様の島の、より正確な位置を知り興味をそそられていた。

 今の成果としては、これで十分だろう。



 そうして私たちはエルフの里で長老のヘルゼと会談を持ち、次に北へ向かいドワーフの鉱山を訪ね、更に東へ向かってエドとネルソンの隠し金山を訪ねた後、愛しの故郷、谷の館へ到着した。


 既に初冬の気配を纏い始めていた高山地帯から少し下ると、山深い谷の領地はすっかり秋の只中である。

 セルカは初めてのウッドゲート領で、プリスカは二度目だったか。最近はやや豊かになった館の料理を楽しみ、一歳を迎える弟のテディ(セオドアの愛称だよ)と遊んで大いに和んだ。


 しかし、このまま春までのんびりするわけにもいかない。とにかく一度、王都へ戻る必要があった。

 今回は急ぎの旅なので、メタルゲート号による長距離夜間飛行が基本である。


 人間社会では基本的にプリセルの二人は今まで通りに普通の人間として暮らしてもらう予定なので、三人揃って船内でグダグダと過ごしていた。



 後編へ続く




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