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貧乏男爵家の次女に転生した私は魔法の天才と一族から期待を寄せられていますが、その才能は、いつになったら開花するのでしょうか? ~略称(貧そい)~  作者: アカホシマルオ
アリソン九歳編

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開花その115 赤い迷路 後編

 


 あやかしの力が強まっている。


 両足を赤く染めたセルカが、すがるようにこちらを見ている。

「姫様、手足の感覚がありません」

「大丈夫だ、私が何とかするから」

 口に出すと、それがいかに困難な事かがわかり心が痛む。


「そうだ、セルカ。姫様に任せておけ」

 私の腕の中で、プリスカが笑う。その笑顔が、赤く染まる。

 このまま二人を動かぬ置物にしてたまるか。

 私は自分の身に起きているであろうことから意識を逸らして、二人の魔力を全身で感じた。


 二人の魔法が、二つのライトボールを浮かべている。この明かりのある限り、まだ命は永らえている。



 そして結局、私一人だけが暗闇に残された。



(ルアンナ、明かりを灯してくれないか)

 ずいぶん時間が経過したような気がするが、恐らくほんの短い時間だったのだろう。

 しかし、ルアンナからの返事が無い。


(ウミちゃん、私がわかる?)

 同じく、返事が無い。

 私も赤い彫像になってしまったのだろうか?



 しかし、全身の感覚は残っている。

 自分で魔法の明かりを灯すと、私だけが暗闇に立っていた。特に肉体に異常はないし、普通に魔法も使えるようだ。なぜ私だけが残された?



 私に今できることは何か。

 この災厄の元凶を見つけて一矢報わねば、死んでも死にきれない。


 異変と呼ぶか、あやかしと呼ぶのか。しかし、彫像の記憶から得た妖気という言葉が心に残っている。

 私にも、その妖気が感じられるだろうか?


 やってみた。この何もない空間でただ一人、私は生まれて初めて何の気兼ねもなく全魔力を開放する。

 どうだ。これが北の国の魔王様だぞ。

 静かな怒りが力に変化する。



「見つけた」

 それは最初から、そこにあった。この暗闇自体が奴の居場所であり、空間の歪みとか次元の裂け目とか呼ぶような、異世界と、この世界を結ぶ通路である。


 そうか。私が前世と呼ぶ記憶は、同じような異世界からこちら側へやって来た記憶だ。

 私は半分異世界人であり、この穴を通ってこちら側へとやって来た妖さんとは、似た者同士だった。


 この建物に恐怖を抱いたプリセルの二人と、何も感じなかった私との大きな違いは、そこにあったのかもしれない。


 だがしかし、私の半分以上はこちらの世界の人間だ。例え千年過ぎようが、大陸中の命を奪った罪を私は許すことができない。

 早急に罪を償い、お帰りいただきたいものだ。



 今、妖の力が強くなっているのはきっと、その通路が広がっているからだと思う。私はその歪みに向けて、強引に魔力を伸ばす。確かにそこに、何かの存在が感じられた。


 自己の存在を賭けた侵攻だって?

 私の知ったことじゃない。

 窮地に陥った末の最後の希望だった?

 今の私にも、まだ希望は残っているぞ。


 得体のしれぬ異界の意識との押し合いの末、私の全力で放った魔力が歪んだ空間を覆い、妖の本体をその歪みの向こう側へ押し込んだ。


 私の意識の一部がその向こう側へと持って行かれそうになり、慌てて引き戻す。歪みの向こう側でちらりと感じた懐かしい世界に一瞬だけ気が取られて、そこから戻るのには全力で抗う必要があった。


 思ったよりも、妖は弱っていた。千年の間に、この大陸の命を食い尽くしていたのかもしれない。



 私は全力で歪みから逃げ、そして空間の歪み自体を消し去った。

 あらゆる魔力を込めた次元の綱引きは、あっという間に終わった。


 そして気付けば周囲の闇は消え、まばゆい太陽の光の下で、湖上の島に私一人だけが立っていた。


 頭上を覆っていた結界が消え、熱い風が吹いている。透き通った湖水は青空を映し、反射した太陽が眩しい。



 戻って来た。この気温だと湖水が急速に蒸発して、嵐が来るだろう。


「おい、ルアンナ。いるか?」

「はい。おお、風の精霊が挨拶をしに来ましたぞ」


「ウミちゃん、いる?」

「はい。ここはどこですか?」


「いいよ、地上に出てこなくても。変な仲間が二匹増えたから、面倒を見てあげてくれる?」

「承知しました」



「じゃ、嵐が来る前に、メタルゲート号まで戻ろう!」

「どうやって帰るのですか?」

「そりゃ、空をひとっ飛びするのさ。ルアンナ、結界をお願いね」

「了解!」

 私は風魔法で、空高く飛び上った。



 さてあの時、暗闇の中で何があったのかというと。


 目の前で、二人の命の灯が消えようとしている。私もさすがに焦っていた。それでも、考え付く限りの手を試していた。


 しかし赤黒く変色した肉体は修復不可能で、いよいよ二人の全身は彫像化しつつあった。何度も光属性を最大化した治癒魔法を使ってみたが、無駄だった。

 二人の命の灯は、戻ろうとしない。


 他に、何か方法はないのか?

 私は自身の魔法収納に収めている数多くの物を片端から確認するが、そもそも私の魔法収納には、ロクなものが入っていない。


 残るは賢者エドの巾着なのだが、これの中身を検索するのには結構骨が折れる。



 そこで私は自分の魔法収納に収めてある邪魔物を全て廃棄して、巾着の中身を空になった収納場所へとぶちまけた。

 これならもっと直感的に、収納物の区別が可能になる筈だった。


 そして調査の結果、私は一つの可能性を発見した。

 一か八か、これに賭けるしかない。プリスカの大好きな、博打だよ。


 私には、どうかプリスカの致命的な博才の無さが私に乗り移りませんように、と必死で祈ることしかできない。


 そうして祈りつつ、二人の魂が主の体から消え去る直前に、私はエドの巾着に残されていた秘薬を二人の口に流し込んだ。


 これは人の肉体を一時的に分解して、精霊化するという秘薬だ。本当だといいんだけどね。


 およそ五分の刻限を過ぎれば肉体は再び再構成され、元の人間に戻るのだそうな。いや、そうらしいよ。


 物理的に閉じ込められたダンジョンから脱出する最後の機会を得るために考案された古い薬らしいのだが、あまりにもリスクが大きいので滅多に使われることは無かったらしい。そりゃそうだ。


 普段なら目にも止めない怪しい液体の入った小瓶だったが、今回は夢と希望に光って見えた。



 そして命が消える寸前に、二人は秘薬により肉体を一時的に失い精霊となった。赤黒くて汚い精霊だ。いや職業に貴賤は無く、精霊に色は無い。

 そして私は精霊となった二人に対して、精一杯の祝福を与えた。


 そのおかげで、薬の効果が切れても精霊となっていた二人の肉体が再構成されることはなく、あの孤島のカタツムリと同じような半精霊化して最終的に私の使い魔となった。


 もしかするとカタツムリ一族のように、全人類を私の使い魔にしてしまうのではないかと恐怖に怯えもしたが、そうはならずに胸を撫で下ろした。


 冷静に考えれば、この二人が全人類を代表するとは思えないのだったけどね。

 いやしかし、これは非常に危険な賭けであった。


 半精霊となった二人は、まだ私の影の中で眠っている。

 さて、目を覚まして影から外に出たら、何と言うだろうか。

 それが怖い。


 このままずっと、影に眠らせておこうかな。

 ウマシカの魔法を使えば、いつまでも寝ているかもしれないし。



 そしてその後、私以外に生きる者のいなくなった大陸の中心部で、生まれて初めて全力の魔法を使い、全精力を傾けて邪悪を排した。


 私の尋常ではない魔力に時空が歪み、邪悪な異変はその歪みの中へと消え去った。これで、めでたし、めでたし、だ。



 しかし何度も言うが、この世界は、私をどうしても魔王にしたいらしい。何しろ今の私は、この南の大陸を統べる魔王そのものである。


 まあ、この大陸が元の姿を取り戻すにはまた千年くらいの時間が必要なのかもしれないが。

 でも、先ずはこの南の大陸を私が支配している。私以外には、誰もいないんだけどね。


 ふふふ。北の大陸も、既にほぼ我が手中にあると言っても良いだろうな。

 待っていろよ、ハイランド王国。


 すぐに魔王が降臨するぞ。ああ、早くおうちに帰りたい。



 南の大陸の危機は去ったが、荒廃した土地は容易に戻らない。海を埋め尽くす魔物も、すぐに減ることはないだろうし。

 だが大陸には新たな精霊が生まれ育ち、緩やかな回復を迎えるだろう。



 プリスカとセルカという尊い犠牲を払ったが、仕方がない。


 ただ、二人の見た目は、今までと何ら変わらないだろう。いや今後もずっと変わらないのが一番の大問題なのだろうけど、放っておいてもあと数年は本人も気付かないだろう。


 あとは、精霊化という特殊能力を得ただけだ。


 それにより、私も面倒な使い魔を二人抱える羽目になった。

 いつまでも黙って放置しておくわけにもいかないので、二人が目覚めた後で、ちゃんと説明しましたよ。



「で、黒猫枠はドゥンクで埋まってるから、あとはカラスとヒキガエルか。二人はどっちにする?」

「えっ?」


「だから、カラスとヒキガエル、どちらになりたいのだ?」

「どっちも、嫌ですよ……」

「このままがいいですっ!」


「このままって、あんたたち今は私の影の中にいて、実体がないのに気付いてないのか?」

「えええっ?」


「これは、いったいどんな呪いですか!」

「私の体はーっ?」

 うるさいが、飽きるまでひとしきり言わせておこう。



 二人はそれを呪いと呼ぶが、命があるだけマシだ。何を命と呼ぶかは微妙だがなぁ。


「カラスとヒキガエル……どうしてその二つなのですか?」

「知らんのか?」

 こっちの世界には、魔女の使い魔とかの概念は存在しないのかな。


「仕方がない、元の姿に戻してやるか」

「できるのなら、最初からそうして下さいよ」

「それじゃ少しも面白くないし」

「私たちは、全く面白くもなんともありませんよ」



 二人を地上へ呼び出し実体化させると、目を白黒して驚いている。

「ほら。プリスカの脚も、ちゃんと生やしておいたから。もう勝手に斬るなよ」

 別に私が生やしたのでは無い。自然とこうなったのだ。


「おおお。でも脚は好きで斬ったのではありません」

「これからも人を斬りたくなったら、自分の脚を斬って我慢しておけ」

「……」

 ともかく、大体元通りの姿に戻ったようだ。


「それとも、お肌はすべすべの赤黒い色にしておけばよかったか?」

「ふざけないでください!」

「姫様、変です。私の胸はもっと大きかったような……」

「調子に乗るな」


「喜べ。これで二人とも、パンダの後輩だぞ」

「ゲッ」

「死にたい」


「ご希望通り、一度人生を終えているとも言えるぞ」

「まさか」

「うわぁ、微妙……」


「今のこの時があることを、もっと喜べよ」

「はいはい」

 まだまだ、二人からは色々言われるのだろうなぁ。



 終




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