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ウチの三姉妹が俺の青春へ介入してくるんだが  作者: 桜 寧音
15章 神宮大会とオフシーズン
493/495

1−2−5 神宮大会決勝・新富学館戦

 三回の裏、新富学館の攻撃は八番ショートの西嶋から。平としても球数が増えてきたために、ここからはとにかく失点を防ぐことを考えて全力で行くことにした。新富学館の方もとにかく球数を投げさせて平から自滅を引き出そうとしている。

 ショートの西嶋は一年生ながらレギュラーになっている。とはいえ打力はレギュラーの中で一番微妙なのでこの打順だ。とはいえレギュラーになれるだけの最低限の打力は持っているのでカットに徹することはできる。


 西嶋が左打者ということもあってストレートで攻める。相手がカット戦術に来るためにストライク先行、とはいえそれで甘いボールを投げていたら打たれるのでコースは厳しく攻めた。

 追い込むことはできたものの、追い込まれたらバットを短く持ってとにかくカットをしてこようとする。それが厄介で、最後はスクリューで引っ掛けさせてセカンドゴロでアウトにした。

 結局七球も投げてしまったので、平は息を吐きつつカット戦術をどうにかできないといけないなと考えていた。


(俺にも智紀のように絶対空振りが取れるボールがせめて二つはあればなぁ。待球される時はサークルチェンジの緩急もそこまで効果がない。となるとストレートの質を上げないと意味がないってことだ。それかドロップをもっと強化するか……。オフにやりたいことがたくさんあるな)


 強いチームと戦ったからこそ見えてくる課題。それを自覚しつつ、九番の門戸が右打席に入る。彼は投手専門のような選手で打力は全然ない。たとえネガティブになっていても打力がないので打率は低い。

 彼らからすればここで凡退してくれればネガティブを継続してくれるのでチームメイトは打てなくても気にしないが、凡退したら打てよと怒る。打撃練習はしているものの、才能がないのか打率は一割台。打撃はセンスとも言うので、門戸にはセンスがないのだろう。

 平はストレートで押す。打撃のセンスがないとはいえ、練習をしているだけあってバットに当てることはできる。それで粘ろうとしたが、結局四球目のドロップで空振り三振。


「クソ!」


 ネガティブモードになろうと、感情が昂らないということはない。ホームランを打たれて負けているという状況に変わりはなく、自分のせいで負けているという事実を悔しがる心はあった。戦っている以上負けたくないという原初の心があり、それが発露することは試合中でも何度かあった。珍しいことではあるが。

 たとえ自分の打力が低かろうが、出塁すれば誰かが返してくれると信じていた。だからこそ出塁できなかったことを嘆く。

 そんな屈折した心情を持っている人間だからこそ、チームメイトもこのエースのために頑張ろうと思えるのだ。ベンチに戻ろうとする門戸とすれ違う小金が声をかける。


「点は奪ってやる。お前は投げることに集中しろ。そもそも打撃には期待してねーよ」


「……任せた」


 その短いやり取りだけで小金は打席に立つ。左腕の長袖を少しだけ摘んで調整して、打席に集中する。

 その集中力は神宮決勝に出てくるだけあって高校生でもトップクラスのもの。対峙している平としてはゾーン状態の智紀に似ていると思った。

 練習の際にも智紀はたまにゾーン状態になることがあった。そんな智紀と対峙している時と似ていると平も高宮は思ったために、より慎重に配球を組み立てていく。


 初球、外れるスクリューを選択。アウトローから更に落ちていくボールなら振ってくれれば儲け物として要求。打ったとしてもそこまで飛ばないだろうと思っていた。典型的なプルヒッターなのでバットに当たったら凡打になるだろうと考えての選択だ。

 実際、要求通りにスクリューはきた。まずはボール球にして様子見をしようとしたのに、その外れた球へバットが伸びてくる。綺麗な金属音が響き、打球は右中間へ飛んでいった。


(おいおい、ボール球だぞ⁉︎しかもそんなに上手いバッティングができる奴だったか⁉︎)


 高宮はマスクを外しながらそう思う。アウトコースだろうがとにかく引っ張って強い打球を打つようなタイプなのに、今回は逆らわずに打ち返したのだ。まるでその打ち方を知っているかのように。

 情報の修正をしつつ、高宮は指示を出す。小金の足はそこそこなために右中間へ打球が飛んだとしても三塁打になることはなかった。智紀からの返球が速かったために小金は二塁ストップ。

 二アウトながらも得点圏にランナーが進む。新富学館の打線として上位打線の早い順に打てる打者が揃っているために、二番の上里の前にランナーを出したのはまずい。


 とはいえ、リードもしている状況で弱気になることもない。アウトハイのストレートで高さと速さを意識させてから低めの変化球で仕留めようとした。

 その、少しボール気味のストレートを叩き切るかのようにバットを振った上里。打球はファースト後方にフラッと上がって重松が捕球しようと必死に下がる。最後にジャンプをするものの打球に届かずにポテンヒットとなった。

 智紀がカバーに入ってボールを捕る。二アウトなこともあってランナーの小金は三塁を蹴ってホームに向かっていた。智紀は即座にバックホーム。内野の少し後ろだったこともあって低く速い送球がノーバウンドで高宮のミットに届きクロスプレイ。


 頭から滑り込む小金と高宮のミットが交差する。それを見ていた主審は手を横にしてセーフを宣言。高宮はすぐに状況を確認するとバッターランナーの上里が二塁に向かっていたので、高宮はすぐに退いて二塁のベースカバーに入っていた仲島へ送球。

 送球はそこまでズレずに来たのだが、仲島と上里のスライディングした足が更に交差する。タッチのタイミングをしっかり見ていた塁審がアウトを宣言したが、すぐに仲島へ近寄る。


 得点に喜んでいる新富学館だったが、異常事態に気付く。チェンジになったはずなのに仲島がその場から動かず、上里も呆然として立ち上がれていなかった。

 仲島の足から鮮血がグラウンドに落ちる。スライディングした際の足が脛に当たり、金属のスパイクの歯がソックスを貫通して肌を傷付けていた。そのことに気付いて周りの選手が仲島に肩を貸してベンチへ運ぶ。


「す、すまん!大丈夫か⁉︎」


「見た目ほど痛みはないから気にするな。よくあるプレイの一環だよ」


 やってしまった上里が謝り、仲島は出血の割に痛みを感じなかったので気にするなと伝えた。今は歩いていることとドーパミンが出ているために痛みを感じていないだけの可能性があるために本当に大丈夫かはわからないが、この後に影響が出てほしくなかったためにそう告げた。

 確かに見たところそこまで重傷ではなさそうだが、血が出ていてはプレイできない。上里はスライディングを注意されたものの、不可抗力ということで攻守交代を急かされる。仲島のことは他の選手にはどうすることもできない。球場の担当医がダグアウトに来て診察をする。


 帝王の攻撃は仲島の打順まで遠いために、そのまま続行される。グラウンドに落ちた血を対処するために、血の痕がある場所の上には土を追加してトンボで均していた。人の血なんて誰しも長く見たいものではない。

 出血自体は大したことなかったために、グラウンド整備はすぐに終わる。

 四回の表、3-1とスコアが動きつつも、不穏な空気が立ち込めていた。特にスタンドでは仲島を心配する声が多く、スタンドにいた仲島の彼女である会田は顔を青ざめさせていた。

 ダグアウトで仲島はベンチに座らされて処置を受けていく。東條監督と三間、智紀に千駄ヶ谷もやってきており、状態を確認していた。他にも数名、ベンチメンバーが確認していた。

 消毒と止血をパパッとしたが、処置はすぐに終わってもドクターストップがかかっていた。


「監督さん。私もこの球場に勤めて長いので言いますが、今シーズンは最後の試合ですよね?ここで無理をして選手生命を縮める可能性がないとは断言できないので、仲島君はここで代えるべきだと進言します」


「そうですね……。仲島、俺としてもここで無理をさせたくない。春の選抜や夏で万全にいてほしい。ここは我慢してくれ」


「……はい。三間、俺の代わりに打ってくれ」


「任せろ!次こそは打ってやる!」


 ここで仲島が交代になる。ショートに誰を入れるか、順当に考えればショートを守れる一年生の郡に代えるところだ。

 だが、そこで東條監督は智紀の方をじっと見る。

 そして、彼は一つ決断をした。


「千駄ヶ谷、鶴見にアップするように伝えてくれ。二番ライトで行く」


「わかりました。伝えてきます!」


 千駄ヶ谷が指示を受けてベンチに戻っていく。アップする時間も短いので、この伝言は重要だ。そして二年生で外野の控えの鶴見が出場するということは、今ライトを守っている智紀がどうなるか。

 智紀からの視線を受けて、東條監督がこれからのことを伝える。


「智紀、ショートを守ってくれ。サブポジションの兼ね合いで一通り動きは練習をしたから覚えているな?U-18でも練習していたと聞いている」


「はい、どこでの起用をするか一通り確認をされましたから。大澤監督にもショートとサードでお墨付きはもらってます」


「よし、じゃあ次の回からショートだ。三間、智紀も実戦では初めてのショートだ。フォローをしてくれ」


「わかりました!」


 そんな変更が決定される。仲島も含めてベンチに戻ると、時間を稼ぐために高宮がひたすらカットで耐久している様子が目に入ってきた。

 そんな高宮に感謝しつつ、智紀はこれから出場する鶴見とキャッチボールを始める。準備をしている柊の隣で二人はこの裏の準備を始めた。


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この怪我は痛いな…無事で居て欲しい。
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