89 サンゴ礁
「やったぞ! セレマイアを追い返せた!」
「カウカウラ様万歳!」
カマラカウラに降りかかった脅威は去った。
今なら人魚たちを説得して怪魚を受け入れてくれるかもしれない。
「ソロモンだったか、話がある」
話を持ち掛けようと思っていた矢先に人魚の長であるフートルーファーから先に話しかけてきた。
「なんでしょうか?」
「ヤツを退けたバリスタはワシが知っているものより数倍の威力があるようだな。しかも怪物に跳ね返されないときた。鏃にかけた魔法はお前にしか使えないものなのか?」
バリスタを強化した寓意術のことを言っているのか。
「いえ、寓意術は訓練すれば魔物にだって使えます」
「怪魚にも効くんだな?」
長が詰め寄ってくる。
「矢と泡の寓意術を試したことはありませんが、別の寓意術を怪魚に向けて放った際には動きを封じ込めることに成功しています」
「そうか。なら怪魚を飼うことを許可する」
なんだって?
あれだけ反対していた長が急に態度を変えたぞ。
「よろしいのですか、長?」
長の護衛も態度を変えたことに驚いているようだ。
「ワシは怪魚に無抵抗なのが嫌だっただけだ。なんだ、寓意術とやらで怪魚をいつでも始末できるなら使ってやってもいい」
本当にそう思っているのかよ。
単に頭の固いジジイだと思っていたが。
「いざセレマイアの連中が攻めてくるとな、ここを手放すかどうか迷ってしまった。それならいっそ怪魚を手懐けて、寓意術と魔法を使いこなしてセレマイアの奴らを叩きのめしてやったほうが気分がいいだろう。違うか?」
「長……その通りだ! もう怪物に怯えて暮らす必要なんてないんだ」
「毒を以て毒を制す。奴らに一泡吹かせてやろうぜ!」
血気盛んな賛成派が長の意見に同調した。
怪魚に怯えていた反対派はまだ不安を隠せない様子だが、業魔力の悪影響を受けにくい人魚だけが怪魚に接するなら問題は無いだろう。
「情報交換しましょう。ディルエットも怪魚の研究は始めたばかりなんです。水中に住む皆さんの方が怪魚の生態を解明しやすいはずです」
「もちろん構いませんが具体的にどうすればよいのですか? 海神様の像と渡された魔石板の使い方もまだ分かりません」
「……サンゴ礁を使おう」
パラスが魔石板を手に持って俺の方に向けてくる。
「ああ、そうだな。もしかしたら知識と記憶の樹録のモデルに適合するかもしれない。というわけでサンゴ礁をちょっと借りたいんだけどいいかな?」
「ええ、管理の者の監視を付けさせてもらいますが。何をされるのでしょうか?」
◇
「……荒れ狂う苦難の波受け止め、思想の多様性を庇護し、鰭持つ求道者の機知呼び覚ませ。回答者権限寓意術、知恵と記憶の樹録、モデルサンゴ礁。……これで怪魚についての研究結果を共有できるようになった」
パラスが知恵の塔との交信するための基地局の役割をサンゴ礁に与えた。
少し心配していたのだが、植物以外にも知恵と記憶の樹録のモデルは務まるようだ。
「ディルエットが持っている一部の情報も共有できているみたいだな。それで、君がサンゴに取り付けた魔石板の管理をしてくれるのか?」
監視役についてきた人魚の少女、クレイオーがこくりと頷く。
彼女はゾンビの腕に首を絞められて人質にされていたところを助けられたお礼がしたいと管理役に志願してきたのだ。
「任せて! 何か異常があったらすぐに連絡するよ!」
「よろしく頼んだ。向こうに着いたらまた連絡するから」
「うん、じゃあね! 悪魔のお姉ちゃんもありがとう」
パラスが恥ずかしそうに手を振っている。
監視役の人魚がカイギュウの手綱を取る。
海中牛車でカウカウラの住処の大木まで送ってくれることになった。




