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87 トビウオ補給隊

 人魚たちに裏切られる前にディルエットまで逃げてしまおうかと思い始めていた時だった。

 魚の群れがゾンビの腕を避けながら、こちらに近づいてきた。

 それはトビウオの群れだった。


「カウカウラ様からこんなに大量に便りが来るなんて今までにないことだ」


「見て、体に何か括り付けられている! 手紙じゃなくて小さな木の棒みたいだけど何かしら?」


 トビウオの体に縛り付けられているものをよく見ると、それはヨルノンさんが持ってきた泡の魔法を使うのに必要な杖だった。

 どうやらヨルノンさんはカウカウラを説得するのに成功したらしい。

 これで弱い人魚を守ってやれということなのか。


「人魚の皆さん聞いてください! そのトビウオたちが持ってきてくれたのは泡の魔法の杖です。ホヨホヨという声に反応して泡を作り出せます。呪文を唱えて捕らわれている子供たちを奪い返してください!」


 人魚たちがトビウオから魔法の杖を取って呪文を唱える。

 すると杖が向けられた先に大きな泡が次々に生み出されていった。

 そして泡が捕らえられている人魚をゾンビの腕ごと包み込むと、フォルミーカの船から離れるように移動していく。

 人魚を掴んでいるゾンビの腕も抵抗するが、割れてもすぐに復活する泡の力に負けて引っ張られていく。

 人魚たちの近くに引き寄せられてしまったゾンビの腕は、人魚の兵士たちの銛によって貫かれていく。

 大きく損傷した腕は動かなくなっていった。

 人魚の子供やカイギュウたちを無事に保護することに成功した。

 後はあのゾンビの船をどうにかするだけだ。


「私に協力してくれないんだぁ。だったらちょうどいいやぁ。人魚のゾンビも作ってみたいと思ってたところだしねぇ! 私のとっておきを見せてあげる!」


 突然背後からゾンビの頭が噛みついてきた。

 が、パラスの操るウミヘビのタルパがそれを粉々に噛み砕く。


「ありがとうパラス、助かったよ」


「……うん。それよりもあれを見て」


 船からゾンビの頭が大量に降ってくる。

 それはマストから噴き出していたのとよく似た色の煙を撒き散らしながらこちらにゆっくりと向かってくる。

 そしてフォルミーカから発せられる業魔力の強さがさっきまでとは比べ物にならないほど強くなっている。

 嫌な予感がする。


「おい、あのゾンビたちがこっちに来れないように大量に泡を出すぞ!」


「まだ杖はあるんだよな。だったら手の空いてる奴に回していけ!」


 杖の使い方を覚えた人魚たちがフォルミーカの攻撃を防ぐために呪文を唱える。

 大量発生した泡がゾンビの頭を水面の方へと押し上げていく。

 しかし、船底に泡が触れると泡は消滅してしまった。


「そんなの効かないってぇ! 目くらましにもならないよぉ? 魔法でできた泡なんて片っ端から消えていくんだから!」


 ゾンビの腕や頭に泡が触れていても持ちこたえられたが、どうやらゾンビの船の業魔力には耐えきれないようだ。

 魔力を使って疲労した人魚から別の人魚へと杖が渡される。

 だがこうして順番に魔法を使っていても時間稼ぎにしかならないだろう。

 もうこの場所から逃げるしかないのか。


「もっともっとたくさん泡を出せば残るんじゃねーのかよ! ホヨホヨホヨ!」


「おい、魔力を無駄遣いするな!」


「少しずつ途切れないように泡を出すんだ! そうしないと持たないぞ」


 1人の人魚が辛抱できずに一気に魔力を杖に込めた。

 大量に発生した泡は船に触れると同時に一瞬で消えていった。

 やはり無駄だったか……と思って見ているとゾンビの船に起きた変化に気付いた。

 大量に泡が消えた箇所だけ周りより凹んでいるように見える。

 もしかすると少しの泡の魔法が触れただけなら平気だが、大量の泡の魔法が触れると船が脆くなるんじゃないか。


「今のをもう1度同じ場所にやってくれないか!」


「だから無駄なんだって。すぐに泡が消されてしまうぞ」


「じゃあ俺がやってみるから、泡が消えた箇所をよく見ておいてほしい」


 そうして同じ場所に向かって杖の力を使って泡を大量に発生させた。

 泡はさっきと同じようにすぐに消えてしまった。

 しかし泡が消えてから船底の様子を確認すると、やはり周囲より明らかに凹んでいるのが分かった。

 それに気づいた人魚たちが歓声を上げる。


「セレマイアの奴に一矢報いてやったぞ!」


「すげえ。でも魔力の消費も半端じゃねえからむやみにできないな」


「いや待て。あれだけ船が弱くなっていればバリスタが通るんじゃないか?」


「なるほど! なら俺たちはバリスタの用意をしてくるぜ」


 ようやく反撃のチャンスが見えてきた。

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