82 カウカウラ
カウカウラは既に、俺が木の根から脱出したことに気付いているようだ。
竜の力を身にまとったバーリャの攻撃を受け流しているカウカウラがこちらを一瞥する。
「ほう、完全に動きを封じたと思っていたがそんな武器を隠し持っていたか」
「待ってくれ、あんたは俺のことが気に入らないのかもしれないけど、俺はあんたに敵意はないんだ! これが何かあんたなら分かるんだろ」
そう言ってイシュー様から預かったカウカウラ宛のお土産が入った袋を掲げる。
「それは……!!」
直接お土産を渡そうと思ったが、カウカウラが伸ばした根に絡み取られて勝手に持っていかれてしまった。
「おお、これだこれ。ヨルノンが見えたらこれが楽しみなんだ!……ってあれ、いつもより魔力が少ないな。イシューの奴とうとうケチりだしたか? おいおい、ディルエットの財政状況は大丈夫なのか?」
嬉しそうに袋の中を漁っているが、いつもと様子が違うことに気が付いたようだ。
土の魔力とアレゴリーの両方を引き出したから劣化しているのだろう。
「俺がさっき石化の魔法を使ったときに魔力を使わせてもらいましたよ」
「なんだと。なぜこれを持ってきたことを早く言わない? 手厚く歓迎したのに!」
人間の魂を感じるといって警戒していたのに好物を見るなり態度が激変した。
魔王というのはどいつもこいつもこんな感じなんだろうか。
「いやいやいや、早くも何もこっちは命がけだったんですから。自業自得です。それで我慢してください。言っときますけど俺は悪くありませんからね」
風の竜に変身していたバーリャの動きが鈍くなる。
竜の体からタルパであるドラクルスの霊体が湯気が立つように溢れ始めている。
合体を維持するのも限界のようだ。
「バーリャちゃん、そろそろヤベーのよ! 魔力封印、竜鱗解除」
同化していたドラクルスが唱えた呪文でバーリャの変身が解ける。
分離したドラクルスの姿は消えていった。
「バーリャさん大丈夫ですか?」
「ごめんなさい。私は大丈夫です」
かろうじてヨルノンさんに応えることはできているがふらふらとしている。
「まだ竜智の木の力を完全に制御できていないんですね。でもバーリャさんが頑張っているのはすごく伝わってきました。おかげでソロモンさんも解放されましたよ」
「良かった……」
安心して力が抜けたのか、バーリャが目を閉じてそのままヨルノンさんにもたれ掛かる。
口頭ではなく魔石版を通じてメッセージがきた。
<目を覚ますまでゴーレムに抱きかかえてもらっておきます。半竜が研究している完全竜化魔法の反動は大きいようです。あと、ソロモンさんが転生者であることはカウカウラ様には伏せておいてください>
<バレると面倒くさそうですもんね。分かりました。イシュー様の実験で生まれたってことにでもしておきます>
◇
「なるほどな。セレマイアの連中から運よく奪えた怪物から卵を採取できたので、それを育てて操るのに人魚の協力を仰ぎたいと」
カウカウラが色とりどりの石を頬張りながら話す。
「ええ、敵の本拠地を攻めることも視野に入れると、魔法に耐性のある怪物を戦力に加えたいのです」
「それにしても業の深いことだ。敵が人間と怪物とはいえ、何の罪もない怪物の子供を使うとは。それに魔王である私の近くで怪物を飼わせろとはな」
「無理を言っているのは重々承知しています。それでもこれがディルエットとカマラカウラにとって最善だと思うんです」
「そうだな……そろそろ私も覚悟を決めないといけないということか。怪物を近くに置いておきたくないが、確かに私だけの力ではもうこの集落は守り切れない」
「では……!」
「だが私よりも人魚たちのほうが抵抗を示すだろう。特に年老いた者たちはな。彼らを上手く説得できたのなら許可しよう」
「ありがとうございます」
「人魚たちには故郷を失う辛い思いはさせたくない。私が世話になった彼らに人間に対抗するだけの力を与えてやってくれ」
カウカウラが俯きながら答えた。
人間に滅ぼされたという以前治めていた土地のことを思い出しているのだろうか。
暗い雰囲気になってきたので、今の集落の話題に切り替えた。
「そういえばカマラカウラという名前は魔王様の名前に似ていますね。それだけ人魚たちに歓迎されたのですか?」
「いや、普通魔王が治める土地には魔王の名前を付けるものだろう? それに私は匿われた身だったし、前にいた場所と同じ名前を付ける気にはならなかったから、カマラという集落の名前と合わせたんだ。というかディルエットだってそうじゃないか? 今は石の魔王が治めているが」
「ソロモンさんにはまだ教えていませんでしたね。ディルエットは先代の岩の魔王のお名前なんです」
そうだったのか。
半竜の言葉についてもそうだが、魔石板が自動で翻訳してくれるおかげで語源について考えたことなんてなかったな。
魔物たちの文化を理解するためには翻訳に頼ってばかりじゃダメなのかもしれない。
「造ってもらったときに記憶も一緒に入れてもらえばよかっただろうに。イシューのゴーレム造りの腕は確かに凄いが、中身に関してはまだまだだな」
ヨルノンさんのフォローもあって、カウカウラに転生者でないと信じさせることもできた。
そしてしばらく休憩させてもらってから、バーリャを除いた3人と1体のゴーレムで人魚の集落に向かうことにした。




