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81 鱗化粧

 ヨルノンさんを知っている、木の属性の魔法を使う、遠くから睨みつけてくるこの魔物は紅樹の魔王か。


「随分、手荒い歓迎じゃないですか。あなたが、紅樹の、魔王なんですね」


「そんなことは聞いていない。私は人間が嫌いだ。だが珍しい風貌をしているお前を始末する前に聞きたいことがある。何者だ?」


 質問してくる割には強く締め付けてくるじゃないか。

 息が苦しくて声を出しにくい。


「ソロモンさんについては私から説明しましょう」


「黙れ! 私はこいつと話をしている。大事な話だ。お前はすぐに他人(ひと)を騙す」


 ヨルノンさんが何とかしてくれると思ったが、期待はできなさそうだ。

 いや、まずは自分の力で何とかできないか考えるんだ。

 

「ソロモンさんを離してください!」


 バーリャが声を張り上げる。

 無理だ。バーリャも襲われるだけだ。


「何だお前は? 見たところ魔力も少ないただの半竜じゃないか。戦えもしないくせに随分偉そうな態度をとるものだな。怪我をしたくなかったらそこで黙ってみていろ」


 バーリャの足元にも木の根が生えてきて、彼女の足に絡みつく。


「私だって守られてばかりいるなんて嫌だったんです!」


 そう言ってバーリャは果実を取り出して、大口を開けてかじる。

 あれは半竜にとっては猛毒のはずの竜智の実?!

 一体何をする気なんだ?


「知覚の偶意術(タルパ)、ドラクルス召喚!」


 バーリャが右手の2本の指を額に当てて呪文を唱えると、ドラゴンの頭を持つゴブリンのような醜い姿のタルパが召喚された。

 物質に憑依させずに霊体でタルパを使役できているのを見るに相当訓練を積んだようだ。


「おっと! なんだか怖そうな魔王様がいるじゃありませんか! あれあれ? もしかしてもしかして、バーリャちゃん大ピンチ?」


 俺から生まれてきたのが不思議なくらい騒がしい(タルパ)だ。

 バーリャと過ごすようになってからもその性格は全く変わっていなかった。


「今は時間がないの。あれお願い!」


「はいはい~あれねアレ! とうとう実戦で使えるんだね! 身体地図再構成、竜の知覚をバーリャちゃんに導入!」


 人型のドラクルスの霊体が、頭と4本の脚と翼がやけに強調された異様な姿のドラゴンに変形する。

 そしてその半透明なドラゴンはバーリャを完全に包み込んだ。


回答者権限寓意術(クアドラプルA)知恵と(ナレッジ&)記憶の樹録(メモリーツリー)、モデル竜智の木」


 ディルエットに集まっていたある魔力の流れがバーリャに向かってくる。

 もしかして竜脈の流れが強引に変えられているのか?


「なんだこれは!? 得体のしれない魔力が地中を伝って半竜の娘の体に集まっている?!」


「魔力解放鱗化粧(ドラゴンメイク)、竜の風詩」


 呪文を唱えたバーリャの目じりと頬から緑色の鱗が生えていた。

 突風が吹き荒れ周囲に落ちていた葉が巻き上げられる。

 バーリャとドラクルスの姿は消えていて、そこにはエメラルドの輝きを放つ1体の大きな竜がいた。


「風の竜に変身とはな。それで戦うつもりだったのか」


 風の竜となったバーリャが口を開くと吹き荒れている風の流れがカウカウラに一斉に向かった。

 周囲の小石や木の枝などの物体が風の勢いを得てその1つ1つが小さな凶器となる。

 カウカウラは自分の目の前に木の根を生やして壁にし防御する。

 防御のために魔力を回しているためか、俺の根の動きは止まって締め付けは緩くなった。


「はは! てっきりただの頭でっかちの半竜だと侮っていたよ。なあヨルノン、ディルエットはこいつのように魔王級の魔物がうじゃうじゃいるのか? ようやくお前たちも動き始めたということか」


「さて、何のことでしょう?」


「とぼけるな。お前たちが燃土の魔王を手に入れているのは知っている。堰堤(えんてい)の魔王はまだだが、水銀(みずがね)の魔王は動き始めている。どうして誰も彼も天頂にこだわるのか、私には理解できんよ」


 バーリャはカウカウラに近づいて、鋭い爪を使って立ちはだかる根の壁を強引に引き裂いていく。


「グルル……ソロモンさんを離せえ!」


「バーリャといったか。どうだ、取引しないか? 我がカマラカウラに人間や他の魔物が近づかないようにお前を雇いたい。そうすればソロモンとかいう悪魔は今すぐに放してやるし、給料だって支払うぞ」


 カウカウラも根の壁を壊された端から新たな根の壁を生成してバーリャを阻む。


「ガアアァ! 関係ない、ソロモンさんを今すぐ解放して!!」


「感情が制御できていないのか? それだけの力を使えるのに勿体ない」


 カウカウラとバーリャの力は拮抗しているように見えた。

 だがバーリャをこれ以上暴れさせるわけにはいかない。

 竜智の実を使った魔法がどれだけリスクがあるのか俺は全く知らない。

 バーリャが稼いでくれた時間で考えた策を実行して自力でこの根から抜け出さなければ。


「快刀フラガラック、この身を斬り裂け!」


 魔石板からフラガラックが飛び出した。

 そしてすかさず次の呪文を唱える準備に入る。

 せっかく預かったお土産だが仕方がない。

 イシュー様から渡された袋の中の石から土の魔力とアレゴリー魔力を同時に引き出す。

 俺の体は石になる感覚を知っている。

 この世界で目覚める前、この体はただの石でできた人形だった。

 イシュー様によって作られた魂の入っていないただの抜け殻だった。

 ならばイシュー様の魔力を使って再びこの体を石の人形に戻すことだってきっとできるはずだ。


「土の魔法、ゴーレムエフェクト」


 体の表面が石化する。

 そしてフラガラックが体にまとわりついた根を切断していく。

 フラガラックの勢いは強くときおり体の表面にも当たるが、十分に石化しているのでフラガラックが当たっても全く痛みを感じない。

 まとわりついた根が刻まれてあらかた体から取れたのを確認してから石化を解くための呪文を念じる。


「いつまでも期待外れの木偶人形ってわけじゃない。石の寓意術、ピグマリオンエフェクト」


 鼻から徐々に体の石化が解けていく。


「戻れ、フラガラック」


 さあ、バーリャとカウカウラの争いを止めないと。

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