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80 人魚の集落カマラカウラ

 4人と1体のゴーレムでひたすら森の中を歩いていく。

 ディルエットを出てからずいぶん歩いた気がする。

 いや、きっと普段は魔石板に乗って楽に移動しているから、余計にそう思ってしまうのだ。

 バーリャとヨルノンさんは疲れているようには見えない。

 むしろ久々にディルエットから出て楽しそうだ。

 パラスは相変わらず無表情で何を考えているのか分からない。


「ヨルノンさん、カマラカウラはまだなんですか?」


 歩くのが嫌になってきて、ついそんな質問をしてしまった。


「頑張ってください、もうすぐですよ。そうですね、このあたりだと集落が見えると思います。少し高いところから見てみますか? 大きな木が生えているからすぐに分かりますよ♪」


 疲れているのを見透かされてばつが悪くなった。

 すぐに魔石板に乗り体内の魔力を込めて浮上させ、森の上空へと飛び上がった。

 森の向こうに海が見える。

 海が近いが砂浜は見当たらず、砂地の代わりに緑が広がっている。

 そして海水と陸地との境界線には木が立ち並んでいる。

 あのあたりが紅樹の魔王が治める領域だと一目見て分かった。

 人魚は海中にいるのか見当たらない。

 5メートルほどの高さがある大木からはわずかに魔力の気配を感じる。

 あそこに紅樹の魔王が住んでいるのだろうか。

 魔王が住むにしては小さい住処だが、他にそれらしい場所は地上にはなさそうだ。

 

「どうですかー、ソロモンさーん?」


「ああ、カマラカウラが見えたよバーリャ。ごめん、いま下に降りるから」


 目的地が分かると少し気が楽になった。





 森を抜けて岸辺に近づいたところでヨルノンさんとゴーレムが立ち止まった。


「さて、この辺りでテストしておきますか」


「テスト?」


「今の格好のまま水の中に入ると作戦に支障をきたします。ですので怪魚の外骨格とセレマイア兵士が着ていた鎧を素材にして水中活動用に特別な鎧を作っておいたんです」


「そんなものを? 流石ヨルノンさんですね!」


「ええ、パラスさんとバーリャさんにはもう下に着てもらっていますよ。さあ、ソロモンさんに披露してください!」


 俺の分は用意されていないようだ。

 まあ特に水に弱い体というわけでもないし、いざとなれば下着1枚でもいいか。


「えっ、ここでですか?……分かりました」


 そう言って2人がおもむろに服を脱ぎだした。

 胸部と下半身は軽くて頑丈そうなマーブルブルーの鱗に覆われている。

 関節部分に余計な装甲はないので動きやすそうだ。

 ところどころに赤く輝く魔石があしらわれ、2人の魅力を引き立てている。

 これがディルエットが誇る魔術師ヨルノン・ハーモニアによって仕立て上げられた、一切の無駄のない洗練された最新式の水中任務用の装備。


「2人とも中々似合ってるじゃないか……ってこれただの水着じゃないですか」


「ふっふっふっ。実用的なものは美しく、そしてかわいらしいのですよ!」


 どこからどう見てもビキニアーマーのそれだった。

 なんだ。今日の一番重要な任務とはもしかして、目の前の透き通るように美しい海で遊ぶことだったのか。

 ヨルノンさんも事前に教えてくれればよかったのに。

 俺も水着を持ってくればよかったなあ。

 いや絶対に違う。


「いやいやいや、見た目はいいとして防御面に問題がありませんか?」


「何の問題もありませんよ。鎧に組み込まれた特別に加工した魔石が水の流れを検知して、装甲の厚い部分で攻撃を受けるように水中での姿勢制御を支援してくれます。これで軽量化と防御力を両立しているのです!」


 おそるべし魔石の力。

 てっきりヨルノンさんの趣味で2人に水着を着せているのかと思った。


「そしてもう1つ試しておきましょうか。水中で長時間活動するにはこれが欠かせません」


 ヨルノンさんがゴーレムから袋を受け取る。

 袋からピンク色の粉をつまんで水に落とすと海面にたくさんの泡ができあがった。

 もう1つ円い輪っかのついた短い杖をゴーレムから渡されたヨルノンさんは、泡立っているところに輪っかを漬けて呪文を唱えた。

 すると輪っかから4つの大きなピンク色の泡が海中に沈んでいった。


「……水の魔法?」


「わあ、きれいですね」


「皆さんにもこの杖を渡しますね。もし泡が壊れたらホヨホヨと唱えてください。そうすれば皆さんの魔力を少しだけ消費して泡を作り直してくれます。その時に周りから空気を取り込むので息ができない心配もありませんよ」


 魔力を消費してしまうのか。

 少しだけとはいえ、フラガラックを使用するために魔力は温存しておきたい。


「それ寓意術でもできないか試させてください」


「……できるの?」


 パラスが興味津々に聞いてくる。

 元々水の魔法が得意だから気になるのだろう。


「ええ、時間には余裕がありますし、いいですよ」


「ありがとうございます」


 水中に残っている泡から寓意をとって呪文を唱える。


「拒絶する泡の寓意術、泡影抱擁」


 透明な泡はできあがったが、5秒も持たずに割れてしまった。


「うーん、駄目かあ」


 泡というもの自体が寓意術と相性が悪いのか?

 儚さの象徴でもある泡から取り出すのは都合が悪いのだろうか。

 五行の魔法でできることはそのまま簡単に寓意術で再現できるわけではないようだ。

 今回は素直に魔法を利用させてもらおう。


「気を落とさないでください。それじゃあ行きましょうか。紅樹の魔王カウカウラ・イズマリフ様はあちらです」


 そういって根の見える大樹に向かって歩き出した時だった。

 地中から大量に木の根が生えてきて身動きが取れなくなった。


「ソロモンさん!?」


「……これは木の属性……もしかして」


 どうやら俺だけが根に絡み取られて捕まっているようだ。

 そしてバーリャたちの目線の先には淡いピンクの花でできた王冠を被り、青い羽衣を纏ったエルフのように長い耳をしている女性がいた。


「そいつからは人間の気配がする。悪魔に偽装させてカマラカウラに近づけるとはどういうつもりだ、ヨルノン・ハーモニア」

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