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79 怪魚エヴィデンス

 削除隊のメンバーの訓練に付き合っていたある日、魔石板にヨルノンさんからのメッセージが届いていた。


<ソロモンさん、怪魚についてある程度情報が整理できました。説明したいことがあるので来ていただけませんか?>


 セレマイア海軍との戦いで捕獲した怪魚がようやく役に立つ日が来たのか。

 急いで行こう。

 怪魚の研究施設は海辺近くの岩壁に囲まれた場所に建てられている。

 本当は海中に施設を建てたかったそうだが、安全面の問題から断念したらしい。

 維持するのにもゴーレムを動かしたりするための余計なコストがかかるが、脱走して暴れでもしたらそちらのほうが大変だ。

 それで住民がまた犠牲になったら魔王様は信用を失い、怪物の研究を続けることもできなくなってしまうので仕方ないだろう。

 研究施設に着いて中を覗くと、鎖で繋がれた怪魚が何匹もいた。


「おや? 来るのが早いですね」


「怪魚のことは俺もすごく気になっていたので、急いできてしまいました」


「そうですよね、気になりますよね。色々と興味深い生態をしているようなんです」


 そう言うとヨルノンさんは、人間の小指の半分ほどのサイズのザリガニを見せてきた。

 これが怪魚の幼生なのだろうか。


「もう孵化した怪魚がいたんですね。元々卵を持った個体が多くいたんですか?」


「そこなんですよ! 怪魚を調べてみたんですが、捕獲できた怪魚には雌しかいなかったんです」


「そうなんですか? でもそれだとわざわざ抱卵させて戦場に連れて来てたってことになりませんか? それだと不都合なことのほうが多そうですけど」


「怪魚の雌の方が扱いやすい性質をしているのかもしれません。もしくは怪魚教には、戦争に使う怪魚は雌しか使ってはいけないなんて教義があるのかも」


「雄が生まれにくいということもありえますね。そうなると数を増やすのが難しいという問題が新しく出てきてしまいますが」


「どうせなら雌だけでも増えていってほしいものです。その方が面倒が減るので♪」


 雌だけで増える動物は聞いたことはあるが、まさかこの怪魚もそうなんだろうか。

 いや、何でもありの怪物だからこそありえるのかもしれない。

 怪物の能力がどのように決まるのかは謎だが、人間から生まれるというのが本当なら生まれる原因になった人間の性質が影響する可能性は高い。


「ところで、ソロモンさんは泳ぐのは得意ですか?」


「いや、そんなに得意ではないですね。……ってセレマイアみたいに怪魚を乗りこなせっておっしゃるつもりですか?」


「そんなつもりはありませんよ。怪魚を人魚に扱わせるのはどうかと思いまして。ほとんど海中で生活する人魚のほうが我々より怪魚との相性はいいと思うのです。そこで今から同盟を結ぶために人魚の住む場所までソロモンさんには付いてきてもらいます」


「なるほど、その人魚と同盟を結べれば、セレマイアの海からの侵攻に対する戦力にできると」


「そういうことです。そしてその人魚に怪魚を扱わせる際には知恵の塔の力を活用できるのではないでしょうか」


 セレマイアのように怪魚を乗りこなすには知識と経験を効率よく共有していくのが重要になりそうだ。


「ええ、それにまた新しいゴーレムのアイデアが浮かんできそうです」


 ヨルノンさんと話をしているとイシュー様が研究施設に入ってきた。


「カマラカウラに行くなら紅樹の魔王によろしくね」


「イシュー様こんにちは。紅樹の魔王というと?」


「昔カウカウラっていうそこそこ大きなマングローブ林を基盤にした街があったらしいんだけど、人間に滅ぼされたんだって。どこの国に攻められたかまでは知らない」


「そんなに強くない魔王だったんですか?」


「まあ近くに来るまでは先代も知らなかったくらいだし。場所が場所だけに攻めにくく守りやすい土地だったそうなんだけど、怪物の力で強引に突破されてからは総崩れになったって本人が言ってた」


「やはり怪物ですか」


「今はあんまり見かけないタイプの怪物らしいけどね。大量の毒を撒き散らしながら移動する殺されてもすぐに蘇る怪物なんて私もあんまり相手にしたくないかな」


 毒を撒く怪物は水場を拠点にする魔王にとって天敵だったのだろう。

 すぐに蘇ると聞いて、怪儡アバンダンを思い出して背筋に寒気が走った。

 確かにあんな厄介極まりないものと毎度毎度戦いたいとは思わない。


「それで国が滅んでからはディルエットの近くに逃げ込んできて人魚の住む集落に住み着いたってわけ。こっちに危害は加えないし、紅樹の魔王も人間に見つからないように大人しくしてるから放っておいてたの。私は属性では負けてるけど、それでも紅樹の魔王には勝てそうなくらい気迫が弱かったし」


「属性っていうと、魔法の技の相性のことですか?」


「そうね、魔法のそれもだけど、私たちみたいな魔王級の魔物同士の闘いだと生まれながらに備わっている属性の相性だけで勝負が決まってしまうの」


 この世界の魔法には属性があり、魔法を使うには魔力源や物質が必要になる。

 前にパラスが水属性の魔法である水槍を使っていたのを見たことがあるが、その時は近くの水瓶の水を利用していたっけ。


「確か魔法の属性は5つあるんですよね」


「水・火・木・金・土の5つ。私は土で、紅樹は木。木は持っている魔力をどんどん奪ってくるんだけど、力づくで先に倒してしまえるから」


「俺にはそもそも属性なんてないです。今からでも火属性の魔法を使えるように練習しておいたほうがいいですか?」


「そんなに不安にならなくても大丈夫よ。逆に言えば、属性がないってことは相性を気にしなくてもいいってことだし、十分な魔力を持っていけばその武器を使えば大丈夫でしょ。でも体は土属性だから、まともに木属性の攻撃は受けないほうがいいよ」


 知恵の塔から離れると魔力供給は受けられないが、体内の魔力を使えば知恵の塔から与えられた武器であるフラガラックとデッドエンドは使える。


「あっそうだ。これ持って行って。人魚との関係はどうなってるのかは知らないけど、もし怪物を近くで扱うなんて話をしたら機嫌を損ねるかもだから」


 イシュー様からジャラジャラと音のする革袋を渡される。

 中をみると色とりどりの石が入っていた。


「これは、いつもイシュー様が食べてる石? あ、なるほど」


「そんなに裕福な暮らしはしていないだろうから、相性のいい属性の魔力源があれば喜ぶはずよ」


「あとパラスさんとバーリャさんも連れて行きましょうか。やっぱり人数が多いといざという時に安心できますから♪」


 こうしてパラスとバーリャを連れて4人で紅樹の魔王のところに挨拶しにいくことになった。

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