77 偶意術伝授②
マーリセスのデモンストレーションが成功したところでラミィのほうを向く。
「次はラミィにやってもらおうかな」
「私? そんないきなりできるかな」
「ラミィならできるよ。そうだな……タルパを操作するために頭の中の2人に登場してもらう必要がある」
「ノスタルくん、エモちゃんのこと? 夢の中ならたまに会えるけど、手影絵なしだと無理だよ」
「そのためにスポットライトの寓意術をラミィの意識に導入する」
「スポットライト?」
しまった、ラミィはスポットライトを知らなかったか。
「ごめん、別に言葉の意味は知らなくてもいいんだ。目を閉じて、魔法で作ったきれいな円い月明りを想像して。その月明りの下に椅子があって、そこにラミィは座っている」
「魔法ですね。月明りの下に……はい、座りました」
アメリカのある多重人格者はスポットライトのイメージを使って人格を交代していたそうだ。
これを応用してタルパの像の中に人格を入れやすくする。
「月明りの届かない暗闇の部分はラミィの心の奥深いところと同じだ。そしたら背後の暗闇から誰か近づいてこないかな?」
「誰かいます。でも誰かは分かりません」
「もしかしたら何人も気配があるかもしれないけど、その中にはっきりとした影を持つ人格が2人はいるはずだ」
「……感じる。ノスタルとエモの存在を感じられます」
「そして君が精神世界の中にある月明りに照らされた椅子に座っているという状態が、君の自我が君の肉体を動かしている根拠になっている。もしその椅子に他の誰かが座ると?」
「私は私の体を動かせない状態になる?」
「そういうこと。だから絶対にその椅子を手放しちゃいけない。そして君が手影絵を作って会話をしている間、ノスタルとエモは君の椅子の両隣に立っているはずだ」
「確かに、今ちょうど隣に2人がいるのが分かります。この暗闇に眼が慣れてきた……そんな感じがします。こんなに簡単に会えるなんて思ってなかったよ、ノスタルくん、エモちゃん」
スポットライトの寓意術が上手く作用した結果なのか、ラミィのタルパを操作する適性が上昇したようだ。
「じゃあ次の段階に行こう。そうだな、マーリセスに倣って馬を元にしたタルパを出してみよう。手影絵でマーリセスのタルパを真似できる?」
「うーん、ケンタウルスの形は難しいけれど、馬の前半分までならなんとか」
ラミィが慣れた手つきで近くの壁に影絵を作る。
「ほんとに真似するだけでタルパが使えるようになるの?」
「なんでも基本は模倣からだよ。ラミィ、君は影を使って真似するのが得意だ。だから世界中の目にしたものを片っ端から影絵に落とし込んで学んでいけばいい。生き物は皆、他の生き物の真似をして学習し進化し成長してきた。それが君の寓意術だ」
「私だけの寓意術……分かった、やってみる。照らされたものなら何でも表象に変えていく、影絵の寓意術」
馬の頭部と前足の部分の影絵が壁の中でゆっくりと動き出した。
影絵からタルパを独立させることに成功したようだ。
頭部はぼんやりと陽炎のように揺らめいていて形が定まっていない。
「やっと動かせた。今はノスタル君がタルパの中に潜んで影の馬を動かすのを手伝ってくれてる。でも今はこれで精一杯みたい」
既に生まれていたタルパを心の外へ出して別のタルパの核にすることにも成功しているようだ。
2人のタルパに手綱を握らせることができればより強力な力が使えるはずだ。
「影馬のタルパと名付けよう。いきなりにしては上出来だよ。これから練習を重ねて自由に動かせるようにしていこう!」
「はい! あっ、消えちゃった。ちょっと目を逸らしただけなのに……」




