78 偶意術伝授③
「次はズィーラとナザリオの番だな」
狸似の魔物ナザリオが自信ありげに笑っている。
「だいたいコツは掴んだぜ。タルパのイメージはマーリセスかラミィのタルパをパクればいいんだろ? そんで俺たち得意の変身魔法にちなんだ寓意術を唱えればオリジナルのタルパの完成だ!」
「タルパから先に作るのか? それだと順番が逆じゃないか」
いや、もしかすると2人ならそっちのほうが向いているのかもしれない。
「まあいいか。できるならやってみてよ」
「よし、やるぜ!」
「ナザリオ、同時に作ろうよ」
「別にいいぜ。どっちが強そうなタルパを作れるか競争だ!」
2人は補修した網に木の葉を取り付けて蓑のようにした道具を取り出して、自分たちの目の前に放り投げた。
そして両手の指の腹を合わせて集中力を高めている。
木の葉の蓑に向かって頭の中のイメージを投射しているように見える。
「イイマガツヒの葉衣よ、纏い装い成り済ませ」
2人が同じ呪文を唱えると、木の葉は茶色に変色し馬の形に変わった。
一言一句同じだったが、彼らの種族に代々伝わる魔法なのだろうか。
「いつもそうやって変身してるのか?」
「そうだよ」
「身に着けないで使うことなんてあんまりないけどな」
そう2人が答えている間にもどんどん木の葉でできた馬の形が崩れていく。
「やべえぞ。もたもたしてたらタルパが崩れてしまう。まずは水面の寓意術!」
近くにあった水たまりにナザリオが想像するタルパのイメージが映り込む。
そうするとナザリオの木の葉でできたタルパの形が幾分か丈夫になったのか、ゆらぎが軽くなった。
「水たまりか、なるほどね。1人で変身したときは水を見て確認してるもんね」
「ズィーラ、お前もなんか考えてるんだろ?」
「もちろん! いくよ、木霊の寓意術!」
狐似の魔物ズィーラが両手で輪っかを作り、馬の鳴き声を真似た。
反響音を表現しているのだろうか。
ズィーラの馬のタルパが軽く嘶いた。
「あーそれね。声真似もするときは洞穴に向かって似てるかどうか確かめるもんな」
「表情もいるかな? 指笑顔の寓意術!」
ズィーラが2本の人差し指を頬に当てて笑顔を作る。
2人は普段自分たちが使っている変身技術を寓意術のアイデアに転用しているようだ。
呪文が唱えられるたびにタルパの姿が鮮明になっていく。
2人は自分の想像するタルパに相方のタルパのイメージも付け加えていくため、どんどん似通ったタルパになっていく。
「見たかよソロモン! 俺の言ったとおり上手くいっただろ?」
「ねえナザリオ、ちょっと様子が変じゃない?」
「え、こいつらなにやってるんだ?」
2人が作った馬の姿のタルパが向かい合って、前足を上げて歯をむき出しに鳴きながら威嚇しあっている。
ナザリオのタルパがズィーラのタルパの尾の付け根に噛みついた。
ズィーラのタルパが後ろ足で蹴りだすと、ナザリオのタルパも同じように後ろ足で蹴り始めた。
こんなに攻撃的なタルパを見るのは初めてだ。
なぜだ。タルパを近づけすぎたのが原因なのか?
理由は分からないが、2人のタルパ訓練のいい流れを止めたくはない。
「2人ともタルパに命じてやめさせるんだ!」
「ええ?! どうやるんだよ! それを教えてくれよ!」
「だめだ。僕たちの考えてることが通じていないみたいだ」
お互いのタルパの霊体部分がところどころ綻んでいて、依り代にしている葉衣が見えるほどに傷を負っている。
その葉衣もまるで時間を早送りしているかのようにどんどん劣化していく。
「このままだとタルパが消えてしまう上に、葉衣のアレゴリー魔力も尽きて朽ちてしまう。何か他に寓意術は思い浮かばないか」
「もうだいたい言ってしまったぞ!」
「ナザリオ、2人同時にもう1度水面の寓意術を唱えよう! 僕らのタルパがケンカできないように」
「水面の? ああ、そういうことか!」
2人が水面の寓意術を同時に唱えると、2人の馬の姿のタルパは後ろ半身が完全に一体化してしまった。
後ろ足で蹴ることができなくなった互いはなおも相手に噛みつこうとするが、頭部は触れ合うことがなく通り抜けてしまった。
「水面に映っている姿だとみなしてしまえば触ることもできないよね」
「やるなズィーラ。どうだソロモン、これが俺たちのタルパだ!」
俺がマーリセスに蝋翼の寓意術を使わせたのと同じ理屈で2人は自分たちのタルパを制御することに成功したようだ。
「よくやった。途中はかなり怪しかったが、2人の連携で乗り切ったようだな」
「じゃあさ、記念に俺たちのタルパに名前を付けてくれよ」
「名前か、そうだな……じゃあそのズィーラの方の首はアールヴァクでナザリオの方はアルスヴィズだ。まとめて呼ぶときは間をとってアールスにしよう」
「よし、よろしくねアールヴァク」
こうして削除隊のメンバー候補は全員タルパを使役することができるようになった。
だがまだ人間や怪物と戦うだけの力は持っていない。
これからは寓意術も満足に扱えるように訓練してもらわなければならない。




