76 偶意術伝授①
削除隊のメンバー候補が4人揃ったところで、マーリセス以外の3人に偶意術の使い方について説明することにした。
ケンタウルスの少年、マーリセスは既にタルパを発現させることができるようになっている。
彼に偶意術の存在と寓意術の使い方を説明すると、一族に伝わる秘伝の魔法とよく似ていると言い出して半日も経たないうちに使えるようになってしまったのだった。
彼によるとその秘伝の魔法を扱える者は先祖の霊の寵愛を受けているとされ、戦闘に秀でた魔物であるケンタウルスの中でも特に優秀なその者たちは、ケンタウルスだけでなく他の多くの魔物にも崇敬される存在であるという。
だがその性質は生まれつきのものであって、後からその性質が発現することはないらしい。
そのことを知らないあるケンタウルスの夫婦は特別な地位を得るため、自分の子供が選ばれた存在だと騙ったがために処刑されたこともあるという。
「せっかく秘伝に目覚めたが、今更戻っても怪しまれるだけだな。良かったなソロモン、俺がこの街から出ていく心配をしなくていいぞ!」
「あーはいはい、マーリセスが残ってくれて俺はすごく嬉しいと思ってるよ」
「ワハハハ、そうだろうな!」
「先に使えるようになったんだから、他の3人にいい手本を見せてやってほしい」
「任せておけ! 削除隊のリーダーである俺が一番秀でているということを分からせてやるいい機会だ。失敗するつもりは毛頭ない!」
「リーダーってお前、気が早いな。でも他の3人にも十分すぎるくらい素質があるから、油断していると追い抜かれるぞ。天狗にならない……有頂天にならないことだな」
「素質か。それも俺が見極めてやろう!」
タルパを使えるようになったことでマーリセスはますますナルシストぶりに磨きかかったようだ。
これが作戦中に仇とならないといいが。
◇
「皆揃ったね。それじゃあ始めよう」
人狼のラミィ、変身する魔法が使えるズィーラとナザリオの3人もやってきた。
「やっと教えてくれるのか」
「ズィーラ、どっちが先にできるようになるか競争しない?」
「いいぜ!」
「あわてるな、コツがいるから良く聞いてね。まず自分のよく知っていること、得意なことからアレゴリー魔力を引き出すんだ。そしてそのアレゴリー魔力をエネルギー源としてタルパを作る。タルパの形は引き出したアレゴリーの性質と君たちの個性に依存する」
3人はきょとんとしている。
「あの~知らない言葉ばっかりで良く分からないんだけど」
「実際に見てもらったほうがはやいな。まずはマーリセスに手本を見せてもらおう。じゃあ頼んだよ」
「ああ、ちょっと待ってろ。これ結構集中しないといけないから」
マーリセスが目を閉じて腕組みをして集中力を高める。
「胸像の寓意術、大樹の寓意術、王冠の寓意術、蝋翼の寓意術……」
マーリセスがタルパを形作るために必要なアレゴリー魔力を引き出すために呪文を唱え始める。
このうちの蝋翼の寓意術は、マーリセスにはタルパが自在に飛べるためにするために必ず唱えないといけないと念押しして教えたものである。
実際には飛翔能力の強化だけでなく、自信過剰なところがあるマーリセスの精神状態が不安定になったときにタルパの暴走を抑止するための呪いとしての役割もある。
「我が雄々しき理想の姿よ顕現せよ! 天馬人の偶意術!」
蝋でできた翼を持つ、黄金の鎧を着こんだ純白のケンタウルスの姿が現れた。
その体格は操縦者であるマーリセスより一回り大きい。
「何もないところから羽の生えたケンタウルスが出てきちゃった……!」
「おおっ! これが偶意術っていうの?!」
「どうすればできるんだ? さっきみたいに呪文を唱えればいいのか?」
他の3人が口々に驚きと羨望が入り交じった眼差しをマーリセスと白天馬に向ける。
「どうだ俺のタルパは? 強く、そして美しいだろう?」
マーリセスがダブルバイセップスのポーズを取ると、天馬人も同じ動きをする。
操縦者と同調するのはタルパの基本的な操作法である。
マーリセスはタルパを作ることに成功はしたものの、まだ時間が経っていないので自分と別の動きをタルパにさせることはできない。




