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75 消えた商品

<ゴーレムに預けておいた品物がなくなっている。取引している工房から連絡を受けてから気づいたんだ>


 ゴーレムが製品を紛失するという被害が知恵の塔に報告され始めた。

 農園も稼働し始め、本格的に侵略者への対策を練られるといったときに予想外の問題が発生した。

 修理可能なゴーレムはイシュー様とアスファルテによって修理・点検が行われ、そうでないものは解体されて新しいゴーレムの素材とされた。

 ゴーレムの管理の一部を担う知恵の塔からでは異常は確認されなかった。

 誰かがゴーレムに細工して預けられた物を盗んでいるのか?

 それならイシュー様が気付きそうなものだが、全く違和感はないという。


<ウチもやられたよ。あとで似ているゴーレムを見つけたから問い詰めたんだが全く覚えがないって。なんでもいいから早く戻ってきてほしいよ>


 盗まれるものは決して高価で取引されるものばかりではなく、完成した商品ではない半製品が多いようだ。

 

<きっと子供のくだらない悪戯だ。とっとと犯人を見つけてやめさせようや>


 子供の仕業だと考えている者もいるが、子供の魔物がゴーレムを騙したり支配権を奪ったりすることができるだろうか。

 可能性は低いが、幼くしてそのような才能に目覚めているとしたらイシュー様のお役に立てるはずだ。

 誰よりも早く犯人を見つけて仲間に引き込もう。





「ようやくゴーレムが使えると思ったらこれだよ。ソロモンさんよ、あんたゴーレムの頭を良くするって仕事に一枚噛んでるなら責任取って調べてくれよ」


「はい、一刻も早く犯人を見つけ出してみせます!」


「なんかいつもよりやけに張り切ってないか? まあ解決してくれるならなんでもいいや。そうそう、言われた通りあんたに協力してくれそうな奴らに声かけておいたぞ」


「ご協力感謝します」


 今回の作戦はこうだ。

 他の商人に協力を仰いで囮になってもらい、ゴーレムにあえて荷物を盗ませる。

 荷物はどれも1,2時間でディルエット内の取引先の場所へと届けてもらうように指定してもらう。

 荷物を預ける際には、用意しておいた小さな魔石板のかけらをゴーレムに貼り付けてもらう。

 そして荷物が行方不明になったら魔石板のかけらの位置を確認してゴーレムを操っている犯人を炙り出す。

 どうやって知恵の塔の監視を逃れているのかは分からないが、とりあえずこれで確実に犯人を見つけられるはずだ。


「ソロモンさん、もうすぐ3時間が過ぎようとしています。私とオットーの荷物以外はもう届いたそうです」


 協力してくれている商人の1人、トレヴィから連絡を受けた。


「分かりました。ちょうど2体指定された場所から離れたところにゴーレムがいるのを確認しました。すぐに向かいます」


「お気をつけて」





 2つの魔石板のかけらの反応は、まだ未開拓のディルエット北側から発せられている。

 現在は工事がストップしていて、作業用ゴーレムの姿は見えない。

 工事道具の保管庫やゴーレムのメンテナンス工房が立ち並ぶエリアに小さな獣の足跡が続いている。

 後を追っていくと、建物の陰から声が聞こえてきた。

 大量の木の葉をソファ代わりにして座って、狐と狸によく似た2匹の魔物が荷物の中身を確認しあっていた。

 

「今日は大荷物だったな。それで今日も褒められるのは俺の方だ!」


「おい、まだ判定してもらってないぞ! コンドーレフさんのところへはやく持っていこう」


 2匹の体の背後には魔石板のかけらが光っている。

 どうやら荷物を預けた相手はこの2匹が化けたゴーレムだったらしい。


「そこまでだ。盗んだ荷物を置いていけ」


「うわっ、誰だ?!」


「追けられてた?! 何の気配もなかったはず」


 2匹は驚いて飛びのくと、急いで木の葉の山の中に身をうずめる。


「体を良く見てみろ」


「あっ……ナザリオ、背中に何か付いてるよ!」


「ズィーラ、お前の肩にも何か光ってる」


狐によく似たほうがズィーラで、狸に似たほうがナザリオというようだ。


「お前たちがゴーレムに化けて荷物を盗んでいた犯人だな」


「僕たちは盗んでなんかいません。これはコンドーレフさんに言われて荷物を預かる仕事をしているだけです」


「お前らはそのコンドーレフさんとやらに騙されてるぞ。何か怪しいと思わなかったのか」


「そんなの知らないよ。俺たちはただお金を稼ぐために言われた通りにやってただけだ」


「そりゃまあちょっと怪しい見た目はしてるけど」


 どうやらコンドーレフという奴に利用されて詐欺の下っ端として使われていたようだ。


「いいか、こんなことはすぐにやめるんだ。街中の職人さんが迷惑してる」


「そしたら僕たち仕事なくなっちゃうよ」


「明日からどうやって生活するんだよ」


「ならお前ら2人とも削除隊に入れ。そしてそのコンドーレフって奴の居場所も教えろ。そしたら今までの悪事は見逃してやる」


「削除隊? なにそれ」


「生活できて今より楽な仕事ならなんでもいいや。ゴーレムにばっかり化けるのも飽きてきたし。なあズィーラ」


「化ける技術を見たところタルパを扱う素質はありそうだからな。きっと削除隊に入れば活躍間違いなしだ」


「まだ入るって決めたわけじゃない。それで、コンドーレフさんに会いたいのか? なら北にある門でいつも荷物を渡すことになってるから、会いたいなら追いて来て」





 そうして言われるがまま2人に案内されて北門に行ったが、荷物を引き取っていく人物には会えなかった。

 不思議なことに、普段使われないはずの北門が既に誰かの手によって開けられていた。

 

「おい、もしかして俺のことを騙してるんじゃないだろな」


「そんなことないよ! おかしいな。ナザリオ、何か知らない?」


「俺にも分からない。いつもコンドーレフさんのほうが早く着いてるはずなのに」


 突然手元の魔石板に複数の連絡がくる。

 どれも市場の商人からのもののようだ。


<大変だ! 積み荷が乗せられた車が奪われた! 街の外に出ないように止めてくれ!>


 寄こされた緊急の連絡を読んでいると、背後から車輪の音が聞こえてきた。

 2頭立ての荷馬車が猛スピードで北門に突っ込んでくる。


「あれ、コンドーレフさんじゃないか?」


 ズィーラが叫ぶ。


「だったら止めないと! 多分コンドーレフもお前らの盗みがバレたのに気づいたんだろ!」


 俺は馬車を追うために魔石板に乗る。

 すると馬車から大量の木製の空き箱が投げつけられてくる。

 コンドーレフ以外にも馬車に誰か乗っているようだ。


「痛い痛い! 荷物を投げるのをやめろコヤユビ」


「僕らには内緒で出ていくつもりだったんだ」


 馬車は北門から出て行ってしまった。


「やられたな。まああいつらもう2度と来ることはないな。それで、行く当てがないなら俺について来いよ。このままだとまた街で盗みをするしかないんだろ」


 ズィーラとナザリオは自分たちが見捨てられたという事実を飲み込めないでいる顔をしている。


「そんなに心配しないでくれ。別に朝から晩まで働き詰めってわけじゃないから」


「じゃあ……分かったよ。その削除隊に入ってみる」


「仕方ねえ。ついていくよ」


 こうしてズィーラとナザリオが削除隊のメンバー候補になった。

 彼らが使う変身魔法はタルパを操るうえで役に立つだろう。

 他のメンバーにも扱えるかどうかは分からないが、その技術を応用できれば戦力も向上しそうだ。

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