70 死神の寓意術
街の様子を一通り見て回り、俺が意識不明になっていた間の出来事は大体把握できた。
俺が通ると商人たちにヒソヒソ話をされているのに気付いた。
やっぱりデタラメで変な回答をしまくった件が噂になっているんだな。
城へ戻るとイシュー様が待っていた。
「おかえりソロモン。ようやく目を覚ましたのね」
「ご迷惑をおかけしてすみませんでした。ところで、あれからセレマイアはどうなんですか? まだ近くに侵略者がいるのでしょうか」
「いいえ、岩壁よりも外側にも見張りを遣っているけれど、この辺りに人間と怪物の気配はないわ」
「そうなんですか。あのアーサーと名乗る剣士はこの街が強くなった理由を探りに来たと言ってきました。それに俺のことも探していたとも」
「防衛戦絡みでセレマイア本体が重い腰を上げたようね。きっと魔石板やあなたの寓意術の能力についても見当がついているんじゃない」
もうアーサーには完全にバレてしまっているだろうな。
寓意術や回答者権限への対抗策が広まっているとすると、これからは下級の侵略者相手にも楽に戦えるとは思わないほうがいいか。
「さっき聞いたん話なんですが獣人の夫婦が魔石板を紛失したそうです。ですが火事に巻き込まれたとしても跡形もなく消えてしまったというのは不自然です」
「なら、そのアーサーという男が持ち去っていったのかもね。他の侵略者の荷物からは魔石板は出てこなかったから」
この世界の人間は、道具を介することで魔力を扱えるようになる。
魔力に関しての技術がどれほどの域に達しているかは分からないが、アーサーがチャームから自在に魔力を引き出していたことから推測すると、魔石板の仕組みを解明されてしまうのも時間の問題かもしれない。
「新たに侵略者が攻めてこないのも何か対抗策を練っているからなのかも」
「奴らが知恵の塔のシステムを完全に把握するとは思えませんが、あれだけ目立つ知恵の塔そのものに攻撃を仕掛けるようにはなるかと思います」
それこそ知恵フクロウを気晴らしで荒らしにやってきた部外者のように。
直接塔を破壊するのではなく塔の機能を利用して、住民に成りすましてスパイ活動をされたり、投稿を装って攻撃されたりしたら今回のような混乱では済まないだろう。
「なら塔を守る魔物が要るわね。またゴーレムを増やす?」
「物理的な攻撃なら従来のゴーレムで十分かと。しかし魔法や怪物を使った攻撃ではゴーレムだと手に負えない可能性があります。そこで新たにタルパを操ることができる魔物を見出して、魔法に対する防御能力を上げます」
「なるほどね。それでその新部隊の名前は?」
知恵フクロウではその権限の高さから嫌われることもあった、秩序を守るための役割の名を借りる。
「削除隊と名付けます」
彼らに与えるのは死神の寓意術の力。
仇なす者の寿命を刈り取り、知恵の塔に健全な循環をもたらす存在。
「そうと決まれば早速その担い手を探しに行きなさい!」
「それについてなんですが、グレードが下がってしまった俺の管理者権限だと、知恵の塔に密接に関わることになる削除隊を創設できません」
「でもヨルノンは貸せないわ。怪魚の研究に加えて、今回捕獲した怪鳥の研究で忙しいんだから」
「少しの間猶予をください。セレマイアも魔石板の解析には時間が必要なはずです」
「分かった。じゃあ今日からまたグレードアップに励みなさい」
あの夫婦には許してもらえたが、俺はまた信頼を得るために努力しないといけない。
思っていた以上に復活の対価は重かった。
「それに気づいてないと思うけど、グレード3まで落ちたせいか私がせっかく整えてあげた顔もちょっと地味めになっちゃってるし。グレード5に上がった時には、前よりももっと私好みにしておいてあげるから楽しみにしててね!」
「いや~大丈夫っす。俺はこの顔でも十分満足してますんで。イシュー様本当にありがとうございます~それじゃっ!」
逃げるように部屋から飛び出していった。
そんなに顔は変わっていないと思っていたが、グレードダウンの影響は出てしまっていたのか。
ともかく、せっかく今の顔に慣れてきたところだ。
これ以上顔を弄り回されたら自分の顔が分からなくなってしまいそうで少し怖くなった。
削除隊候補も焦らないで探していこう。
候補者探しをしている間に悩みを解決していけば、グレードも自然に上がって元に戻れるだろう。




