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69 生活の再構築

 夢を見ているようだ。

 小学校に上がる前の俺が祖母に話を聞かせている。

 図鑑で知った動物の知識を披露すると祖母が喜んでくれた。


「あやとは偉いのね。将来は頭のいい人がやるお仕事に就くんだよ」


 当時は頭のいい人がやるお仕事の意味がよく分からなかったが、知識があることを褒められて純粋に嬉しかった。

 

「あいつウザくね? つまんない話ばっかしてさ」


 気が付くと同級生と机と椅子とが、通っていた小学校の教室の中心にいる俺を取り囲んでいる。

 難しい話を知っているから偉そうにしている、空気が読めない奴だ、といった内容をかすかに聞こえる程度にヒソヒソ話している。

 やめてくれよ。

 俺はただ皆にも喜んでもらえると思って知識を見境なく取り込んで教えてあげただけなのに。

 皆の視線を感じ取れないようにうずくまる。


「そこの君、かくれんぼしてるの? じゃあ隠れながらでもいいから私の知恵フクロウの回答手伝ってくれない?」


 上を見上げると中学生の制服を着た年上のお姉さんがいた。

 なんで小学校に中学生が入り込んでいるんだろう。

 見つかったら先生に怒られる。


「ほら早く先生が来る前について来て! 学童保育の建物の近くの使われてない焼却炉あるでしょ? あそこなら絶対ばれないから。私が昔使ってた秘密基地なんだけど、さっき見てみたらまだ誰も使ってなかったよ」


 手を引かれて一緒についていく。

 ああそっか思い出した。

 俺が知恵フクロウを始めるきっかけになったのはこの人だ。





 どれくらいの間眠っていたのか。

 幼いころの夢を見るなんて珍しい。

 停滞している現状に直面している人間は頻繁に幼い頃の夢を見る、というのを知恵フクロウで見たことがあるが冗談じゃない。

 俺は転生する前はまだ中学生だったし、それに今は明確な目標もある。

 思い出に浸っている暇はない。


 そうだ。

 やらないといけないことだらけだ。

 セレマイアからの侵略者に襲撃されたんだ。

 それからフラガラックの力でアーサーをなんとか追い返して……今生きているということはあの作戦は上手くいったようだな。


「ソロモンさん! 目が覚めたんですね!」


 目が覚めた俺に気付いたバーリャが手を握ってくる。

 あれ、バーリャってこんなに大きかったっけ?

 もしかして1年くらい眠ってしまってたのか?


「1週間ぶりだとお腹空いていませんか? 何か持ってきましょうか?」


 さすがにそんなに時間は経っていなかったか。

 ということはどうやら俺のほうが体が小さくなってしまったようだ。

 これがグレードダウンの副作用というやつか。


「バーリャが一緒にいてくれたのか。ありがとう」


「いえ、このくらいはさせてください。その、昨日まではレイもいたんですけど」


「そうだったのか、皆に迷惑かけてごめん。レイがどこに行ったか分かる?」


「レイは多分ソロモンさんに会う気はないと思います。当分知恵活はしないって言ってました」


「……そうか。やっぱり呆れられたか」


「あの、ソロモンさんだけのせいじゃないですよ。レイもそれは分かってるはずです」


「そうだと嬉しいな」


 魔石板を確認する。

 グレードが4になっているということは、5から3まで下がった後に1つ上がったようだ。

 ライフもしっかり3まで回復している。

 当然、グレード5の特権である管理者権限は失われていた。

 3人を育ててグレード5にようやく上がれたというのに、また上げないといけないとなると骨が折れるな。

 思えば、これまでだって結構行き当たりばったりでやってきた。

 これからはもっと予測をしっかりと立てて行動していかないといけないな。


 辺りを見回すと、俺より一回り大きい干からびたミイラのような物体が置かれているのに気付いた。


「あれはなに?」


「ソロモンさんが倒れていた場所にあったそうです。知恵の塔とソロモンさんの関係を解明する手掛かりになるかもしれないと、ヨルノンさんが回収されたそうです」


 そうか、俺はグレードが大きくダウンしてしまったから体が縮小に耐えられなくて、グレード5の大きな体を抜け殻みたいに脱いだんだ。

 

「バーリャ、俺は外の様子を見に行ってくるよ。世話をしてくれてありがとう」


「1人で行くのは駄目ですよ。起きたばかりなんですから私もついていきます。この部屋はドラクルスに掃除させておきますから」


「えぇ……それはドラクルスが寂しがらないか? あいつにとってはバーリャと話をするのが一番の楽しみなのに」


「いいんです。私のタルパなんですから! それに毎日ちゃんと話はしてますよ」


 話し相手にと思って作ってやったのに、雑用にばかり使われていないか心配だ。

 まああの五月蠅いドラクルスのことだから、どれだけ待たせたとしても主人の帰りを待っていた犬のように喜ぶとは思うが。





 真っ先に農園の様子を見に行く。

 獣人たちは焼け落ちた施設から使えそうなものを回収し、新たに建物を作り直し始めていた。

 獣人の夫婦がこちらにやってきた。


「ソロモンか。あんた訳の分からない投稿ばかりしてただろ。市場の商人たちが俺たちに協力してくれたから良かったけどよ」


「本当に申し訳ございませんでした」


「なんか理由があったんだろうけど、俺たちも命がかかってるんだ。2度とあんなことはしないでくれ」


「約束します」


 もう2度とあの技は使わない。

 発動した闇より黒い帳(ベンタブラックリスト)が運よく商人たちが住んでいる地域にも効果を及ぼして、怪物からの影響を受けなくしたのだろうか。

 何にせよ緊急時に使うにはリスクが高すぎる。

 他の保険を考えておく必要があるな。


「復旧が早いですね。それに見たところ獣人の皆さんは全員無事のようだ」


 復旧作業をしている獣人たちの顔を一通り確認した。

 農園での作業を獣人に一任していたので、侵略者に殺されていないようで良かった。

 もし全滅していたら、また1からノウハウを蓄積しなければならなかった。

 まだ全ての知識を他の魔物にも分かる形で整理できてはいないし、まだまだ技術の進歩が見込めるところで経験者を失うと困る。


「ええ、でも農園は全部燃えてしまいました。私たち夫婦は農園の近くに住居を移したのでそこも燃えてしまいました。侵略者も迫ってきていて、着の身着のまま逃げてきたんです。貸していただいていたゴーレムを操作するための魔石板が残っていないか探しましたが見つかりませんでした」


「それについては心配しないでください。また農園のシステムも再構築します。生活に必要なものもこちらで用意しましょう」


「ありがとうございます」


 夫の獣人がため息をつく。


「悔しいが俺たちの力じゃ火災も侵略者もどうしようもなかった。幼い子供がいる家は逃げるだけでも精いっぱいだったはずだ。それに特にあの若い人間の剣士の強さは異常だった」


「侵略者に立ち向かって殺された魔物もたくさんいます。敵わなかったことを悔やむより、今生きていていることを良かったと思ってください。アロマムシから魔力を取り出す技術を持っているあなた方をこの街は必要としています」


「そうとも。俺たちを贔屓にするよう魔王様にもよろしく頼んでおくぜ」


 言われるまでもなく、この農園の復興は何よりも最優先しなければならない。

 そしてゴーレムを使って他の魔物たちの生活も一刻も早く再構築する。

 失われた命は元には戻せないが、何度でもこの街は復活する。

 そしていつかは侵略者を寄せ付けない強固な街にしてみせる。

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