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68.5 緊急措置、グレードダウン

 ソロモンはアーサーを追い払うことには成功した。

 だがソロモンもまた重傷を負っていた。

 自身の肉体にアーサーの霊剣を食い込ませ、装備している魔石板に貯蔵された魔力の塊ライフを消費することで肉体を再生修復。

 それによって僅かな時間を稼ぎ出し、フラガラックを突き立ててアーサーの体の内部に破片を送り込み内側から攻撃するという捨て身の戦法をとった。

 ソロモンの予想外の攻撃によって負傷し、侵略者たちの眼である怪鳥も失った今、アーサーは撤退を余儀なくされた。

 他の魔物とゴーレムの健闘によって、各地に侵入していた侵略者たちのほとんどは戦死した。

 唯一生き残った荷物持ちのアルメは逃げる途中で人間の外見も案山子に変えられている瞬間を目撃し、自分が騙されて仲間を殺していたことに気付いてしまった。

 そしてセレマイアで罰を受けるくらいならと脱出直後に自ら命を絶った。


 魔物の街(ディルエット)侵略者(セレマイア)に勝利した。

 だが被った損害も大きかった。

 街に欠かせないインフラとして着実に成長を続ける知恵の塔。

 その動力を賄っていた農園の大半は燃やし尽くされた。

 任務遂行の妨げになる魔物も数多く殺された。


 血の海に沈むソロモンを最初に見つけたのはヨルノンだった。

 怪鳥のメルクに関するやり取り以降、知恵の塔からの連絡にソロモンが応答しないのを不審に思い、他の地点の監視の合間を縫って様子を伺っていた。


「ソロモンさんの利用者情報をモニターします。ライフが残り1しかありません。大量に出血しているこの状況のままでは危険です。しかもこれは……誤操作でしょうか? 意味不明な投稿が何度もソロモンさんから送信されています」


「なんとか今すぐライフを回復させることはできないの?」


 魔王イシューがヨルノンに尋ねる。

 多数のゴーレムの動作を遠隔補助している今、イシューにはソロモンの世話をしている余裕はない。


「グレードがアップすると自動的にライフが回復するように設定が書き換えられています。これはソロモンさんの管理者権限によるもののようです。ただ、知恵の塔は個別の案件に関して特別な待遇は許さないようです」


「そこは融通利かせなさいよ!」


「ですがソロモンさんも対策はしていたみたいです。塔からの評価が下がり急激にグレードが下落し、それに伴い体も縮小していきます。なるほど、ソロモンさんは体をわざと小さくすることで体力の消耗を抑えようとしているようです」


「それで助かりそうなの?」


「今はなんとも言えません。他の知恵袋役に救援を要請しています。後は彼らに任せましょう」


「こんなところで死なないでよねソロモン……」


 連絡を受けたパラスとバーリャがすぐさま駆け寄る。

 レイはまだ有志と共に街中に残党がいないか確認して周っている。


「ソロモンさん、私のとっておいた血を傷口に塗ります」


 バーリャが小瓶から血を取り出してソロモンの左肩の傷に塗る。

 半竜の血には強力な消毒効果がある。

 半竜の一族は代々、傷ついた仲間の魔物にはこれを塗って保護し、協力関係を築くきっかけにするという教育を子供の内から受けている。

 これは他の魔物に比べて戦闘能力の劣る半竜が生き残る戦略の1つである。

 そして彼女は持ってきた応急処置用具で手当てをする。


「回答者権限寓意術、知恵と(ナレッジ&)記憶の樹録(メモリーツリー)。避難している間に、ソロモンさんが構築していた創発達識者共の情報から創傷の有効な手当の方法をまとめておきました。これが最適解のはずです」


「私のタルパ、アルファルドの首を支えに担架を作った……これでソロモンを城の中へ運び込む」


「パラスちゃんお願いします」


 本来このような仕事はゴーレムが行うが、パラスが連れて行ったゴーレムも侵略者の攻撃を受けて多くの損傷を受け、やむを得ずタルパに搬送させることとなった。

 ソロモンは多頭の蛇で作られた奇妙な担架に乗せられていった。





 ソロモンはグレード5の管理権限を手に入れた直後、わざわざ管理室でライフを回復するのは面倒で嫌だという理由でグレードアップ直後のライフ回復が自動的に行われるように設定していた。

 大量の不適切投稿によりグレードをわざと落とすことでグレードアップ自体のハードルを下げ、少し遅れて真面目な回答が評価されることでグレードアップしライフを回復させる手段を思いついたのだった。

 ソロモンはその経験上、切羽詰まった質問者はタダでしてもらう回答にさえシビアになり回答に少しの誤りでもあると回答者を厳しく責めるのに対して、役に立つ回答は後からでも増えていく可能性があるために評価されるまで時間がかかる傾向があることを知っていた。

 質問者の意識とシステム上の時間差を利用した復帰方法だった。

 知恵フクロウユーザーの間では有名なテクニックで、この技を使うためにグレード7を目指すのではなく、あえて上から2番目のグレード6に居座っている者が多いほどだった。


 ただ、システムそのものが顕在化しているこの異世界でこのテクニックを使うのは、インターネットサービスで使われる裏技とは当然勝手が違った。

 知恵の塔のために特別に仮初の体を与えられた魔物であるソロモンは認定されたグレードに比例して体格や能力が変化する。

 急激な変化が立て続けに起こると、精神がそれに順応できず意識がなくなるという形で表面化した。

 かろうじて死を免れたソロモンだったが、およそ1週間ほど意識不明の重体に陥ってしまった。





 知恵の塔管理室近くにソロモンの病室が設けられた。

 植物状態のソロモンの両脇にレイとバーリャが寄り添う。


「あんなに息巻いておいてこれかよ」


「なんでそんなこと言うの? ソロモンさんは私たちを逃がしてくれたかもしれないのに」


「そういうお節介が気にいらねえんだよ。俺が一緒だったらここまで酷いことにはならなかっただろうよ。お前が足手まといだったってのは間違いないんだろうけどな!」


 1人城の中へ行くことを指示されたバーリャが涙をこらえる。

 2人に比べて戦闘能力のないバーリャには仕方のない指示だった。


「俺はもう行くぜ。ソロモンが目を覚ましたら伝えておけ。俺は当分知恵活はやらねえってな」


 レイが病室を後にする。


「私だって強くなりたい……この街の役に立ちたい、ソロモンさんの助けになりたいです……」

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