64 回答者権限寓意術、禍免橆韜晦
もう住民は襲われているようだ。
口ぶりからすると、見せしめのためにただ怪我を負わせただけではないようだ。
侵略者は私欲のためにやってきて殺している。
魔法でパニックに陥って碌に抵抗もできない魔物を殺して回っている。
戦力を持たない住人を避難させている余裕もない。
ここで真正面から戦うか?
イシュー様が起動させたと思われるゴーレムたちが続々と集まってくる。
力のあるゴーレムだが、大量に操るとなると繊細で素早い動きは難しい。
「いくぞ! 動きの遅いゴーレムは避けて、子供を人質にとれ!」
敵もゴーレムの性質に感づいているようだ。
このままだと間に合わない。
弱い魔物ばかり狙ってくる合理的で卑劣な手段で皆傷つけられてしまう。
許せない。
実力がありながら、弱者を一方的に痛めつけて利益を得ようとするなんて。
ここの住民はセレマイアに対して積極的に攻めにいったりはしていないのに、わざわざこちらまでやってきて施設を破壊したうえに格下だと知れば武器を振るって傷つける。
お前らに相応しい相手はゴーレムだ。
他人の痛みが分からない奴は感情を持たない無機質な奴と戦闘ごっこしていればいい!
「厄介ごとはもう懲り懲りだ。怪我が嫌ならその身を俏せ。回答者権限寓意術、禍免橆韜晦」
術を発動させると、辺り一面に霧が立ち込める。
「なんだこれは?! クソッ、前が見えない」
霧が晴れると、そこには侵略者を除いた全員が案山子の幻影を纏っていた。
ゴーレムも住民たちも区別せず一様に、仮面を被ったやたらに背の高い案山子の姿に変わる。
「周りが皆変な木のお化けになっちゃった」
「どうなってるの?」
他の魔物からも同じように見えているようだ。
これだと避難に支障が出そうだ。
「回答者権限グレード5、一時的にディルエット住民だけ仮面の下の素顔を区別可能とする。さあ、早く城の中へ逃げ込むんだ!」
グレード5の知恵の塔システム管理者権限を使って、魔物からだけお互いが区別できるように操作する。
お互いの顔の部分だけ仮面が透けて識別できるようになった。
レイとバーリャの先導で住民たちが避難していく。
「これが報告にあった悪魔が使うという特殊な魔法か? あの辺境の異民の動くトーテムみたいで気味が悪いな」
「油断するなよ。だが位置を把握しておけばどうということはない」
侵略者たちが仕掛けるよりも先に、すかさず1人の侵略者につき3,4体のゴーレムを囲わせた。
ゴーレムの動きは早くはないが、彼らの今の武装ではゴーレムを壊すことは困難で十分時間稼ぎにはなる。
「クソッ、剣だと1体倒すだけでも一苦労だ。おい、俺にも扉破りを貸してくれ!」
大柄で立派な髭を生やした侵略者が武器を持ち換えようとしていた。
彼らが手間取っている間に次の作戦に移る。
魔石板を操作して、ゴーレムで分断している間に周囲にいる全ての侵略者も案山子の姿に変えてしまう。
自分の姿が変わっていることに気づいていない大柄な男が、荷物持ちの侵略者に近づく。
「僕に近づくな! こっちに来るな!」
荷物持ちはゴーレムと勘違いして、大柄な男の頭部目掛けてひときわ長い柄のハンマーを横に振る。
大柄な男の顎に強烈な一撃が突き刺され、男はその衝撃で地面に倒れる。
男の顎は砕けて顔の形が無残な形に変わり、泡を吹いて意識を失っている。
唯一ゴーレムに効果的な攻撃ができる武器を持つ荷物持ちが、警戒心のない近づいてきた他の侵略者を打ち倒していく。
「ど、どうだ。何体ゴーレムがかかってこようとも無駄だぞ!」
息も切れ切れになって尚も威勢を張っているが、今現在彼こそが最も侵略者を討伐した人間になっていた。
「お前の仲間はもう逃げてしまったみたいだぞ。今この街の人間以外は全員見分けを付けられないようにしてある。命が惜しければ、とっととここから立ち去るんだな」
「そのようだな。流石に君たち全員の相手をするつもりはないからここは退かせてもらう」
逃げる口実を作ってやると、それにあっさり乗っかって荷物持ちは去っていった。
「正体を隠しているのが魔物だけと思いこんだのが間違いだったな。別の場所にいるお仲間にも仮面をかぶってもらった。せいぜい身内で殺しあってくれ」
これがこの世界での匿名の正しい使い方だ。
部外者に簡単にこの世界を壊されてたまるか。




