59 回答者権限寓意術、創発達識者共
魔石板から反応がある。
今は質問のやり取りをしている場合じゃないが、おかげで外部への連絡手段があることに気付けた。
ここで食い止めるのが無理なら魔石板から各所の掲示板に向けて、城の外へ出ないように住民に警告すべきだろうか?
やっぱりやめておこう。
本来質問する場所でそんなことを伝えようとしてもかえって住民の混乱を招くだけだ。
ヨルノンさんもイシュー様もどこへ行ったんだろう。
イシュー様の圧倒的な魔力があれば、こんなやつら一瞬で蹴散らせるのに。
いや、冷静になれ。
目の前のことに集中するんだ。
とりあえずどんなメッセージが来ているか確認しておこう。
魔石板を見てどうでもいい内容だと分かれば、余計なことに気を取られなくなるはずだ。
<盾の処分の仕方だけど、持ち手の部分はフィンテという部品から外せば簡単に分解できるぞ>
魔石板で質問しておいた内容か。
とてもじゃないが、今はじっくり見ている余裕はない。
いや待てよ。
ひょっとすると怪物が依代にしているゴミを効率よく解体するヒントになっているんじゃないか。
「パラス! 魔石板だ! 俺の質問に寄せられた回答を見ていってくれ!」
「……なんで? そんなことしてる場合じゃない」
「いいから! 見ればわかる!」
パラスは困惑しつつも、アルファルドの陰に隠れつつ魔石板を流し見する。
しばらくすると緊張が少し抜けた表情へと変わった。
「……!! そういうこと……でもあいつらには近づけない」
「隙を見てでいい! 無抵抗よりずっとマシだ!」
確かにパラスの言う通り怪物に近づかないとせっかく寄せられた知恵も活かせない。
それに解体できたとしても、さらに敵が学習してしまい同じ手は通用しないだろう。
だとしても、アバンダンを構成するパーツを簡単に分解できる情報は大きなアドバンテージになるはずだ。
もうゴーレムたちも魔力切れで動けなくなってしまっている。
代わりに時間稼ぎになるものを作らないと。
この地下室の隅っこで寝転がっている像たちにも少し働いてもらおう。
破損した像はアバンダンに取りつかれていないのも好都合だ。
「欠けているからこそ、人々はそこに至上の美を見出す。トルソーの寓意術」
像の山に向けて寓意術を放つ。
脚が欠けている像には脚が、途切れている腕には断面からその先が、アレゴリー魔力で仮初の肉体が形成されていく。
一糸乱れずこちらに早足で向かってきた像の一団は、怪物たちの前に立ちふさがった。
動けなくなったゴーレムたちの代わりに寓意術で作られた腕で怪物たちを抑え込んでいる。
怪物たちは、魔力と違って寓意術の力を吸収できないでいるようで、戦闘は拮抗した状態になった。
今ならアバンダンの体の一部となっているゴミを解体して弱体化できそうだ。
<もし網が不要になったら、端にある箇所の結び目から解いていくといいですよ。セレマイア式の特徴なんです>
ぞくぞくとゴミの解体の仕方も集まってきている。
怪物たちの隙を伺うが、後方に控えている怪物たちがこちらをじっと見てくる。
像たちが抑えてくれているが、稼いでくれた時間を上手く活かせていない。
そうしているうちに、石が砕かれるような音がした。
寓意術で作った腕をすり抜けて、怪物たちが直接像の胸の部分を狙って破壊してきたようだ。
芯となる部位を大きく損傷した像はトルソーの寓意術の効力も失い、無惨に地面へぶち撒けられた。
1体が破壊されると隣り合っていた像の力も弱まり、次々に破壊されていく。
怪物たちの足元に目をやると、破られた網紐がうねっていた。
網紐に触れている怪物たち同士は獲得した動作を真似しあって学習しているようだが、そうでない怪物たちの動きは鈍い。
魔力の含まれている網を体に取り込むことで何らかの進化を遂げているのか。
感心している場合じゃなかった。
もう頼れるものは残されていない。
「……結局何やっても無駄だったんだ……最初から何もしなければよかった……」
パラスが弱音を吐く。
「そんなことはない! パラス、前にも似たような仕事をしてたって言ってたよな? その時のことを思い出してくれよ! 誰もが自分の力だけで戦っている訳じゃないだろ! 今ここでパラスが諦めたら、もうパラスの言葉が誰かの助けになることはないんだよ!!」
「…………」
「俺は色んな魔物が住むこのディルエットに来て、忙しくて辛い時もあるけれど楽しいよ。意地悪する奴もいるけれど、いい奴もいっぱいいる。世話好きな奴らが俺なんかの質問に役立つ回答をしてくれる。俺はこの世界でもそんな善意を大切にしたい、無駄になんかしたくない!」
「……私だってそうしたい! でも前も駄目だった、今度だってきっと失敗する」
「だったらせめて最後くらいは一緒に祈ろう。俺と2人きりなんて嫌かもしれないけれど。でも知恵袋役の俺と君からなら、大切な場所を滅茶苦茶にする連中を追い出す奇跡を生み出せると信じてる」
「……分かった」
どうせ死ぬなら最後に賭けよう。
2人の精神でタルパを作りだせば、怪物たちの戦力を大きく削ぐことができるかもしれない。
そうして後のことは外の住民に託すんだ。
人事を尽くして天命を待つ。
「全は未知なる一を生み出す。主観に囚われ、視野を狭めることなかれ」
「失敗を恐れる必要はない。辛い経験をしたとしても、それは無駄じゃないし次の成長に繋げればいい」
「広く深く、本質を見極める目利き養え」
「得意なことはとことんまで極めよう。そうやって得た知識は、いつかきっと誰かを救う力になる」
「者共よ、奮い起ち勇み立て。雑魚でも集まり一丸となれば、その力大魚の如し」
「色んな考え方の人が集まっているからこそ強くて堅固な集団になれる。さあ、知恵の塔に集められた力を使って、捨てられた道具に取りついた悪霊を解体処分してしまおう! 回答者権限寓意術、創発達識者共!」
俺の魔石板から魔力が宙に漏れ出し、1つの大きな球になっていく。
そこにはゴミの処分方法についての質問への回答なども組み込まれていった。
老若男女の知恵をまとめて生活の役に立てる。
質問アプリ知恵フクロウの機能の1つ、知恵フクロウの宝箱はユーザーにとって欠かせないものだ。
知恵フクロウに寄せられた回答をお気に入りとして保存しておくことができ、自分でタグ付け、フォルダ分けすることで必要な時に簡単に取り出せるようになっている。
公開設定しておくことで他のユーザーに、まとめておいた質問一覧を紹介することもできる。
そんな便利な機能が知恵の塔にもあれば、という願いが今叶えられた。
「偶意術、智慧有る白き蛇、創発達識者共」
創ったばかりのその6文字に、パラスが偶意術を重ねて唱えた。
アレゴリー魔力球の成長が止まったかと思うと、毛糸のようにほどけて1匹の白い蛇が出てきた。
これがパラスから生み出されたタルパ体、アルファルドなのか。




