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50 レール上の幸福

 バーリャに知恵袋役をやめさせる?

 メフィテラの唐突で一方的な宣告に戸惑った。


「な、なぜですか? 何か都合が悪いことでもありましたか? もしそうなら、少し知恵活の時間を短くさせます」


「そういうことではありません。あの子の立場でああやって遊ばせている訳にはいかないんです。ミャルテリヤにも申し訳ない」


「どういうことですか」


「あの子の幸せは、本を読んで半竜に必要な勉強をして、いい家系に嫁いで一族のために尽くすことなのです。知恵活などやっている時間が惜しい」


「そんなことありませんよ! 知識は吸収するだけじゃなくて時には実際に使うことも大事なんです。知恵活はそのサイクルを回すのにいいきっかけになるはずです」


「私もあの子の回答を確認するようにしていますが、どうにもあの3人の中で一番役に立っていないようですね。知識量なら他の2人よりも優れているはずですが?」


 痛いところを突かれてしまった。

 でも誰だって苦手なことはあるはずだ。

 それを見守ってやるのが親の仕事であって、責め立てるのは間違っているんじゃないか。


「バーリャは他人に説明するのが少し苦手なだけなんです。それが上手になるためには知恵活を続けるべきです」


「私はそうは思いません。必要なのは知識量。そして一人前の半竜として認められるための学科試験に合格して長老に認められること。わざわざ苦手なことを無理にさせても時間の無駄になるだけです」


 学科試験のことはバーリャから聞いたことがある。

 3日間かけて他の半竜と一緒に受ける筆記の試験だそうだ。

 話を聞く限りでは、古代中国の科挙の試験会場のように個々人が区切られた空間でひたすら問題を解き続けるようだ。

 これに合格しないと一人前の半竜としては認められないので、どの半竜も15歳になるまでは勉強漬けらしい。

 だがそんなバーリャがどうして知恵活をすることを一旦は認められたのだろうか?

 初めから無駄なことだと決めつけていれば、メフィテラが許すはずがない。


「それに下等な魔物のために知識を使っているというのも気に入りません」


「お母さん……?」


 声が大きくなってしまったか。

 バーリャがメフィテラの声に気付いてこちらに来たようだ。


「バーリャ、分かっているでしょう? 今すぐ知恵袋役をやめて家に戻りなさい」


「ようやく私がやりたいことが見つかりそうなのに、なんでやめないといけないの」


「あなた……お母さんの言うことを聞きなさい。分かってるでしょ、あなたが竜智の実を食べてからどれだけ私が苦労しているか。これ以上私の迷惑になるようなことをしないで!」


「それは……でも嫌です」


「バーリャ!」


「私は知恵活を続けたい! 私がどんな気持ちでやってるか知らないくせにお母さんの考えを押し付けないで!」


 そういうとバーリャは魔石板に乗ってどこかへ飛び去っていった。


「あの子が私に言い返すなんて……早く矯正しないと……」


 メフィテラはショックを受けているようだ。

 相当ストレスが溜まっているのか、強く歯ぎしりしている。


 今バーリャの力になれるのはこの母親より一緒に知恵活を続けてきた俺の方かもしれない。

 親が考えている人生の上のレールを走っていれば幸福になれるだなんて危険な考え方だ。

 知恵袋役の経験はきっとバーリャにとってかけがえのないものになるはずだ。

 バーリャから昔何があったのか話を聞いてみよう。





 噴水広場に向かうと、予想通りバーリャがいた。

 彼女は落ち込むといつもこの場所に来て噴水を眺めているんだ。

 知恵活を見ているといっていたメフィテラもこのことは知らないようだ。

 

「やっぱりここにいたか。さあ、お母さんと仲直りして知恵袋役を続けさせてもらえるように説得しに行こう」


「嫌です。お母さんは今の私の気持ちなんてどうでもいいんです。絶対に分かってくれません」


「俺はバーリャに会ってから少ししか経っていないから昔何があったか知らない。でも今のバーリャを見てると俺まで悲しくなってくるよ。どうしてお母さんがバーリャにあんな言い方をするのか、教えてくれないかな?」


 うつむいていたバーリャがゆっくりと顔を上げ、しぶしぶといった表情で俺のことを見つめてくる。


「じゃあついてきてください。そこで私がしてしまったことをソロモンさんに話します。魔石板に乗れば大人に気付かれずにそこへ行くことができると思います」


 そうして俺はバーリャの案内で、半竜が代々守護してきた場所へと向かうことになった。

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