48.5 アーサーと冒険者
レイとの投票戦で敗北したエルフのキアロスクがディルエットからが逃げだしていた頃、アーサーとニミューは共にディルエットに向かう冒険者たちを探しながら旅をしていた。
仕事の少ない時期には魔物の集落を襲う人間が多くなる。
魔物の形成する社会でしかお目にかかれないような戦利品は高価で取引されることもあり、返り討ちに遭うリスクに見合う価値はあった。
セレマイアから出発したアーサーとニミューは、まだ人気のある道を進み冒険者の集団を探す。
時には宿や酒場、村々の寄り合いにも顔を出し情報を集める。
しかし、先のセレマイア海軍敗北の報せが影響しているのか、ディルエットを攻めようという者はほとんどおらず、その報復に対して備えようという論調の方が優勢だった。
そんなわけで当初の目論見が外れたアーサーとニミューは協力者を必死に探していた。
「いつまで歩いていればいいの? もう帰った方がいいんじゃない。みんなやる気なさそうなんだし」
「まあそう言うなニミュー。競争相手が少なくて、ディルエットが疲弊している今こそ!という考えの者もどこかにいるはずだ。俺たちが出会うべき仲間はきっといるのに、簡単に諦めてどうする?」
「どこかにって、どのあたりよ?」
「それは……今から歩いて探すところさ」
しばらく歩いていると、冒険者と思しき集団を見かけた。
「やあ、そこの君たち。どこへ向かっているんだい?」
さっそくアーサーが10数名の集団に声をかける。
しかし、アーサーが冒険者と思って声をかけた集団は盗賊の一味だった。
「あのさアーサー、こいつら国内で指名手配されていなかった?」
ニミューがアーサーに呼びかける。
「今剣から声が聞こえなかったか?」
「ああ、確かに聞こえた。もしかしたらこいつ、セレマイアのアーサーじゃないか?」
盗賊たちは話しかけてきた青年をアーサーだと疑い始める。
「そうみたいだな!」
アーサーは盗賊たちの様子を気にも留めず、ニミューに同意する。
「あのね、運が悪いのは仕方ないけど、せっかく初めてセレマイアから出て冒険しようって時にわざわざ外れを引かないでほしいんだけど」
「いいかニミュー、もしかしたら僕たちの出会いがそうであったように、ここで戦うことになってしまったのも運命だとは思わないか?」
「何ごちゃごちゃ言ってんだ! まずはその武器をこっちに寄越せ! それから持ってるものを全部おいて行ってもらおうか」
アーサーは剣を宙に放り投げる――と同時に、素早く地面を蹴って飛び上がり、剣の柄を握り直す。
そしてそのままの勢いで一番前にいる敵に向かって剣を投擲した。
剣は盗賊の革製の胸当てを貫通してグサリと突き刺さり、深手を負った盗賊は後ろによろけて仲間に寄り掛かった。
「何にせよ訓練の成果を確かめるいい機会だ。魅せ所だニミュ―! つむじ風よ暴れろ!」
アーサーが左手に付けているブレスレットを飾るチャームの1つを指でかざした。
そのチャームは特訓のために狩った暴風を司る魔物、グリフォンの羽根から作られており、さらにニミューの持つ魔力で強化しながら加工することによって風の精霊の加護を受けている。
羽根のチャームが激しく振動しだす。
突き刺さった剣の周囲には空気の渦がいくつも生まれた。
「チャームチャージ! サイクロン!」
アーサーの掛け声と共に突風が吹き荒れた。
勢いのある風圧を喰らった盗賊たちは、吹き飛ばされたり巻き上げられたりしていく。
ある者は太い木の枝が体を貫通して身動きが取れなくなり、またある者は高所から真っ逆さまに地面に落ちて気を失っている。
剣が突き刺さっている者は魔法の風の威力が直撃しており、体には無数の傷がつけられていた。
魔法の剣を操っているアーサー自身はブレスレットの加護を受けているので風で吹き飛ばされることはない。
「あっけなかったが、チャームの威力を試すのにはちょうど良かったな!」
すると、盗賊を討伐している様子を隠れて見ていた冒険者たちが10人ほど出てきて、まだ息のある盗賊たちに止めをさした。
そしてアーサーに声を掛けてきた。
「素晴らしい戦いぶりだな!」
「あなたたちは誰? こいつらの仲間じゃなさそうだけど」
「俺の名前はアレリオン。俺たちはこれからディルエットに向かうんだ。もしよかったら一緒に来てくれないか?」
リーダーと思われる長身で奇怪な鳥の兜を被った男がアーサーに共闘を持ちかける。
「ちょっと! 近くにいたならもう少し早く出てきてほしかったんだけど!」
「悪かったな。その男の実力を確かめたくて手を出さなかったんだ。もちろん、ピンチになったら助けに行くつもりだったよ」
「それで借りを作ってディルエットにいく手伝いをさせる気だったんでしょ。でも残念ね、アーサーはあんな戦い方も知らない賊になんか負けないんだから」
「ニミュー、そう突っかからなくてもいいじゃないか。改めまして、俺はアーサーだ。そしてこいつが伝説の霊剣にして俺の相棒、ニミューだ。よろしくな」
アレリオンとアーサーが握手を交わす。
「霊剣とは珍しい。まさかとは思いますが、セレマイアを救うとされる英雄の証であるあの霊剣ですか?」
「そのまさかさ。俺こそがニミューの召喚に成功した新たな時代の英雄だ!」
「伝説の英雄が一緒に来てくれるならまさに百人力だ! ますますディルエットに行くのが楽しみになってきたな」
「ああ、たくさん魔物を退治してお宝を見つけて、王国に無事に戻ろう!」
「王子はどのような目的で魔物退治に行かれるのですか?」
「言ってもいいのか分からないが、これから仲間になるのだから明かしておくべきなのだろうな。実は、国王レオナルドの命により、ディルエットが隠し持っている秘術についての調査をする予定だ」
「調査ですか? ディルエットの魔物はそのほとんどが低度の魔法しか使えないはず。魔力に耐性を持つ装備があれば、後は己の力で勝負が決します」
「シーレーン大将が率いる海軍が破れたという話は耳にしているだろう? 怪魚エヴィデンスが手も足も出なかったという報告があった」
「あの怪物がですか? よほど強い魔物がいたのでしょうか」
「魔王の側近に見慣れない魔物がいたそうだ。その魔物が操る特殊な魔法によってシーレーン様も怪魚も力を発揮できなかったという」
「我が国の侵攻に対抗して他の魔王と協力したか、有力な魔物を引き入れたと」
「そうだ。そしてその厄介な魔物とその秘術の正体を暴くためにディルエットに潜入するのが俺たちの目的なんだ」
「事情は分かりました。私共も協力させていただきます。そこでなんですが、この作戦が成功した暁にはその秘術の情報を分けてもらえないでしょうか」
「うーん、そうだな……このことを兄上にはもちろん、他のグループにも内緒にしておいてくれるなら構わないよ。兄上は厳しいから、このことがバレたら面倒そうだ。まあバレたらその時はその時で言い訳を考えておくよ」
「承知しました。それでは早速ディルエットに向かいましょう!」
こうしてアレリオンの一団にアーサーが加入し、ディルエットの秘密を暴くため、そして魔物の財産を奪うために向かっていったのだった。




