46 回答者権限寓意術、答騙追放
今までは知恵の塔から力を貸してもらうことばかり考えていたが、自分でも力の使い方を考えるようにしたほうがずっといいじゃないか。
なんで今までそのことに気が付かなかったんだろう。
そもそも知恵フクロウの仕組みを応用できないかこの世界に提案したのは俺自身だ。
俺が望んで力の使い方を考えないことには何も始まらないじゃないか。
知恵フクロウにあったシステムからアレゴリーを引き出して、回答者権限を組み上げるんだ。
この世界にはない、自分の記憶の中にしかない投票システムを思考の中から引きずり出す。
一瞬、体中の力が抜けるような感覚に襲われるが、気を引き締めて全力で集中して寓意術を唱える。
「この力はディルエットのために、イシュー様のために捧げる。教唆と害意を祓うため、新しい寓意術を開放する! 『回答者権限寓意術、答騙追放!』」
知恵フクロウでは、ベストアンサーが選ばれなかった場合や質問者がベストアンサーを決めかねた場合に、投票によって最も役に立つ回答が選ばれることになっていた。
投票システムがなかった頃は、親切丁寧に回答したとしても、回答したのがたった1人だけだったとしても、質問者によってベストアンサーが決められなければ自動的に質問は削除されてしまっていたのだ。
質問者にも色々事情はあるかもしれないが、回答者だって自分の努力は報われたい。
そんな自然な気持ちから投票システム導入の要望は高まり、それによって多くの消えゆく運命にあった回答は存在を保ち続けることができ、多くの人の役に立ってきた。
そして、その投票システムから生み出された寓意術、答騙追放も今まさに1人の弱者を救おうとしている。
エルフの呪いという恐怖によって断絶されているレイの情熱とオーガ達の憐憫を繋げるための力だ。
<新たな回答者権限の発現を確認しました。各知恵袋の魔石板に導入します。しばらくお待ちください>
魔石板からアナウンスが流れた。
どうやら新しい寓意術は無事に知恵の塔に受け入れられたようだ。
レイが手に持っていた魔石板が割れて小さな欠片になり、この場に集まっている者たちの手に向かって飛んでいった。
<ただいまより、回答者レイと回答者キアロスクの投票を行います。相応しいと思った回答者を思い浮かべて石片に思念を込め、投票してください。相応しい回答がない場合は、何もせずに返却してください>
破片になったレイの魔石板から投票者各々に、知恵の塔システムからのメッセージが読み上げられる。
「こんなことをしても結果は同じだ。正当な権利を主張している私に投票しろ!」
キアロスクが石片を受け取ったオーガ達に投票を急かす一方で、レイは魔石板に向かって静かに問う。
「1つ聞きたいんだけどよ。これは誰が誰に投票したか分かるのか?」
<いえ、全ての投票は匿名で行われます>
それを聞いたレイはオーガ達に、よく聞こえるように大きくはっきりとした声で話し始める。
「なら俺から1つ皆にアドバイスだ。匿名で知恵の塔に投票しているなら、誰が反対しているかなんて大地の精霊にもエルフの亡霊にバレる訳ねえよな! どんなに怖い悪霊だろうが神様だろうが、やってることがバレなきゃ呪われる心配もねえ! さあ、本当はどっちが怪しいと思っているか、本心を俺に聞かせてくれ!」
「馬鹿なっ! そんなのはったりだ! こいつに投票した者は全てエルフの呪いを受けるぞ!」
<いいえ、石片に込められた思念は一切漏れることなく知恵の塔に回収されます。他の存在がこの魔力を感知することはありえません>
キアロスクの言葉は即座に魔石板に否定される。
その言葉を聞いたオーガ達は、静かに目を瞑って石片に自分たちの意思を込め始めた。
投票の結果はすぐに出た。
20人中、レイの得票数は19、白票は1、そしてキアロスクの得票は0だった。
「ば、馬鹿な! こんな投票は無効だ! 何か不正があったに違いない。エルフである私が負けるはずが……」
「種族なんて関係ねえよ。ただお前がマトモな奴に見えなかったから、皆が消去法で俺に投票したってだけだろうが。そんなことも分かんねえのか?」
<投票は公正に実施されました。根拠なく知恵の塔を貶める発言は制裁の対象となります>
「制裁だと……クッ、クソがっ! 今に見ていろよ! そんな甘ったれた思考でこの世界を生き抜けるとゆめゆめ思うな。必ずや貴様ら下等種は報いを受けるだろう!」
契約書と言って見せびらかしていた石板を地面に叩きつけ、キアロスクはディルエットを去っていった。
俺はキアロスクの捨てた石板を拾い上げて、自分の魔石板と比較してみる。
確かに知恵の塔へのアクセス権限はあるようだが、明らかに俺やレイたちが持っている魔石板とは異なる。
よく見ると、子供が描いたと思しき落書きがあるのを見つけた。
これは設置されている魔石掲示板で見たこともある。
どうやら、この石板は街に設置されている掲示板の一部を持ち去って加工したもののようだ。
サイラスが投稿したかのように見せかけた工作もこれを使って行ったのだろうか。
契約自体が本当に存在したかどうかも怪しいが、キアロスクがいない今は確認のしようがない。
これからも台地のエルフと衝突することがあるかもしれない。
「オーガの皆様、本当にありがとうございました! 私のことを信じてくださって、感謝の言葉もございません」
「サイラス、そんなに頭を下げんでもいい。俺らがいつも世話になってるからな。これくらいのことはなんてない」
スキタートを含めた年長のオーガ達がサイラスを気遣っている。
ハサミュロとインバルタの姉妹が、アルクァの投票について問い詰めていた。
「おい、あれ投票しなかったのアルクァだろ。なんであのリザードマンに入れなかったんだ?」
「いやぁ、ちょっと話が込み入っててよく分かんなくなった。サイラスもキアロスクも和解できなかったのかな」
「馬鹿だなアルクァは。とりあえず自分の得になる奴にとりあえず投票しとけばいいし」
「そうです、今ここでサイラスに恩を売っておくのが賢い。なにも難しくない」
「そんなものなのかな」
キアロスクの起こした事件は無事解決した。
俺たちはパラスの元へ戻ることにした。
◇
「レイ、なんであそこまでサイラスのことを擁護したんだ? あのオヤジとは仲良かったのか」
「そんなんじゃねえよ。ただ……」
「ただ?」
「住む家がなくなるのは辛いと思っただけだ。だからあいつが気に入らなかった。それだけだ」
「レイ……お前実はほんのちょっとだけだけどいい奴なんだな」
「何だァ?! 喧嘩売ってんのか……って、おおっと。これもう返してくれるのかよ」
俺はレイから預かっていた短剣を返した。
今のレイならもう返しても大丈夫だろう。
それに他の2人のサポートもしないといけないので、レイには自衛用の武器を渡しておいたほうがいいだろう。
「魔石板を確認してみろよ。今日の活躍でひとまずグレード2に昇格だ」
「おお! マジかよ!」
「くれぐれも街の皆には迷惑かけないようにね」
「分かってるよ。まあ、この調子でグレード上げてソロモンもあっという間に追い抜いてやるからな。」
「それ、上の方に行くほど上がりづらくなるんだぞ。まあ慌てずに地道に頑張れよな」
とは言ったものの、俺もグレードアップに関しては負けるわけにはいかない。
レイに教えるだけじゃなくて、俺自身も積極的に回答していかないと。
「話変わるけどよ、今日使ったあの魔法、名前が長すぎるから略してくれよ。」
「えーっと、じゃあ頭文字をとってクアドラプルAでどうかな?」
「クアドラ……なんだそりゃ? まあ短かったら何でもいいけどよ。クアドラプルAな」
魔石板の操縦にも慣れたバーリャは少し先にいたが、城が近くなってきた頃に突然止まった。
そして前方を指さして俺たちに呼びかけた。
「ソロモンさん、パラスさんとヨルノンさんの他に誰かいます」
誰かを迎えに行くと言っていたヨルノンさんが戻ってきていて、初めて見る魔物がパラスにちょっかいを出していた。




